羨望
本が好きな人間なら、きっと一度は見てみたい、と思うのは、やはり「書籍」という形になるまでの過程だと思う。作家さんが物語を書き、編集さんやデザイナーが書籍の顔ともいえる表紙デザインや装幀を考え、製紙会社や印刷会社、製本会社が「書籍」という形あるものにする。もともとは形のなかったものが、形になり、私たち読者の手元に届く。それまでにどれだけ多くの人の手を渡っているのか、普段はそう考えることもない。私が本を手にするのは、だいたいが「タイトル」もしくは「装幀」に惹かれるもの。私みたいな人はわりと多くいると思う。だから「書籍」を作るのは、作家さんだけでは絶対にできないことであり、「書籍」という形あるものを作る人々の仕事はとても崇高で、責任はとても重大で、きっと誰ひとり欠けても成り立たない。私は仕事の関係で、いちどだけ運よく印刷会社の見学をさせていただいたことがある。印刷会社は印刷をするだけが仕事ではない。いまの印刷会社の技術はとても高く、デジタル化も進んでいる。依頼されたものを実現させるために、さまざまな技術が生み出され、印刷物が現実を超える美しさを見せることさえある。正直、見学に行ったときはほとんど知識がないままだったので、質問さえ思い浮かばず、ただ圧倒されるだけだった。今ならもっと聞きたいことが色々思い浮かぶのに、もったいないことをしてしまった。話がずれてしまった。そんなふうに、私たちの欲求を満たしてくれるのが、稲泉蓮さんの「本をつくる」という仕事だ。 「本をつくる」という仕事 [ 稲泉 連 ] 1,728円 楽天 いまでは珍しくなった活版印刷のこと、紙のこと、装幀のこと、作家のことなどなど、「本づくり」に携わっている人々の話が書かれている。この本を読んでから、本のことをいっそう大切にしなくては、という意識が芽生えた。本は作家だけの作品ではなく、関わったすべての人の作品でもあるのだ。そう思うと、なんとなく重みを感じる。一文字一文字、1ページ1ページ、大切に読んでいこう。そう思わせてくれる本だった。