新幹線チケットのネット予約化が進んでいる。私が住む東海地方でも東海道新幹線のネット予約が急速に進行中。これで安くなるのならいいのだが、実態は改悪だ。
私が住む静岡から鉄道の旅で高速移動しようとすると、東海道新幹線で東京や名古屋までとりあえず移動して、そこから各方面に散って行くというパターンになることが多い。しかし、その新幹線の料金がかなり高いのが悩みの種。そこに最近、JR東海がネットでの新幹線チケット予約システム「スマートEX」を積極的に進めようとしている。改めてじっくりとこれを吟味してみたら全然安くないどころか、多くのケースで値上げになる。そのからくりを解き明かしてみよう。
今回取り上げるのは、JR東海の東海道新幹線「スマートEX」。ややこしいことに「EX予約」というシステムもあるが、これは会費が有料(1100円/年)なので、はなから対象外とし、今回は言及しない。
静岡から東京へ新幹線を使って行くとする。まずは私のようにややこしいことを考えず、駅の券売機か窓口で素直に新幹線のキップを買えばこうなる。
新幹線(自由席):5940円
新幹線(指定席):6470円
(参考)在来線普通:3410円
JR東海が推し進める「スマートEX」の会員になり(会費無料)、ネット上で予約購入するとこうなる。
新幹線(自由席):5940円
新幹線(指定席):6270円
「えっ!ちっとも安くないじゃないか。自由席は値引き無しかよぉ・・・」。スマートEXのパンフが駅に大量にあるので、それを丹念に読み解いたが、なぜか指定席に関わることばかりで自由席のことが書かれていない。その後調べたら、自由席も購入できるが割引は無し。つまり定価販売。都合の悪いことには言及しないなんて、自民党の国会議員のようだ。客の疑問に正面から向き合わないのは姑息だな。まあ気を取り直して、更にじっくり読み解く。
自由席ならば窓口や券売機で買うのと全く同じなのだから、得はしないが損もしないからいいじゃないか。とも思えるが、大きな問題(ケチな私にとって)がひっそりと隠されていた。パンフレットの片隅に、小ーーーさな字で「特定都区市内制度は適用されません」と書かれていた。鉄道に関心が無い人に、この意味はどこまで理解できるだろうか。この意味は、スマートEXで例えば東京駅までのキップを買った場合、東京駅までしか乗れないということ。これは大問題だ(ケチな私にとって)。
JRの料金算定ルールを知らない人にとっては、東京までのキップだから東京駅までしか行けないなんて、「そんなこと当たり前じゃないか」と思うだろうが、普通に「東京」までのキップを購入すれば「東京」=「東京都区内」であって、特定のエリアまで乗れるのだ。このエリアはかなり広く、山手線内はもちろん、例えば中央線ならば西荻窪駅、総武線なら小岩駅まで追加料金無しでそのまま乗られる。しかし、スマートEXで購入した東京までのキップは、文字通り「東京」=「東京駅」であって、東京駅までしか行けない。だから、例えば東京駅で新幹線下車後、新宿駅まで行こうとしたならば、東京駅→新宿駅までの料金である210円が別途必要となる。つまり、東京駅から先、JRで都内の近隣の駅まで行く人にとっては実質値上げとなる場合があるということ。これは東京だけでなく、大阪や名古屋など他の大都市でも同様なことが起こりえる。
このスマートEXは指定席にお得に乗れるというのが最大のメリットのようだが、静岡~東京の場合、そのお得な額はわずか200円にすぎない。それでも指定席に乗ることが当たり前の人ならば、少額とは言えメリットはあるのだからいい。しかし、私が過去東海道新幹線に何百回、いや新幹線通勤をしていた頃もあったから優に千回以上利用しているが、「のぞみ」が止まらない静岡駅から新幹線に乗る場合、自由席で座れなかったことは数えるほどしかない(どこかの国会議員と同じで記憶が無いので、実際に何回座れなかったか数えることはできないが)。だから私は、東海道新幹線では指定席など取らず自由席で十分という考えだ。
そんな「自由席で結構!」という人間にとって、今まで味方だったのが駅前の金券ショップ。ここでディスカウントチケットを買うと、
新幹線(自由席):5560円
「オオッ、素晴らしい!」。正規料金(5940円)より約400円安い。駅に着いたら構内の窓口や券売機を素通りして、1分ほど歩いた先の金券ショップに行くだけで、これだけ安くなるのだから使わない手は無い。しかし、ここにもJRの魔の手が忍び寄る。JR東海は2024年12月末をもって新幹線自由席回数券の販売を終了する(使用は2025年3月31日まで)。そうなれば金券ショップの店頭から回数券は消える。
ここでちょっと横道に逸れるが、さらにもっと安く行きたければ、JR東海ツアーズの旅行商品「ぷらっとこだま」がある。これは「こだま」しか乗れない指定席乗車券で、変更不可などデメリットはあるが、缶ビール一本が貰えるチケットのオマケ付きで、その額は、
新幹線(こだま指定席):5400円
ややこしくなるので「ぷらっとこだま」についてはこれ以上書かないが、「貧者の新幹線キップ」と私が称していたこの旅行商品も、この3月から仕組みが大きく変わり、ネット化と伴に数百円値上りし正規料金との差はグンと縮まってしまった。
以上まとめると、こうなる(静岡~東京の場合)。
・指定席派であり、窓口や券売機で購入している人が東京駅まで行く場合
→スマートEXを使うと200円お得
・指定席派であり、窓口や券売機で購入している人が東京駅から先、JRを乗り継いで行く場合
→東京駅から201円以上掛かる駅まで行く場合、スマートEXを使うと損
・自由席派であり、窓口や券売機で購入している人が東京駅まで行く場合
→損得無し
・自由席派であり、窓口や券売機で購入している人が東京駅から先、JRを乗り継いで行く場合
→スマートEXを使うと損になる
・自由席派の人で、金券ショップで購入している人
→現時点これが一番お得だが、2025年になれば金券ショップでディスカウントチケットは入手不能となるはず
それ以外に、在来線の駅から乗り、スマートEXで新幹線に乗り継ぐ場合は、最寄りの駅から新幹線乗車駅までの区間を別途買うことになるので、殆どの場合、今までより損になる(一般的に、乗車券は長い距離を通しで買う方が安くなる)。
こうしてJR東海は外堀をどんどん埋め、指定席料金を少し値引きし、今まで自由席でなんら問題も無かった客を「スマートEX」へと誘導している。その結果、自由席派の人間にとってスマートEXは何のメリットもないどころか、むしろ高くなってしまうということになる。
JR東海だけに限った話ではないが、JRがネット化を進める理由は、駅でキップを売る人員を削減したいだけではない。JR東海以外の窓口で東海道新幹線のキップを購入した場合、JR東海は他のJRに販売手数料を支払うことになる。特に東京駅ではJR東海と東日本の窓口が混在しているから、JR東日本の窓口で東海道新幹線のキップを購入する人も多かろう(一般人はその窓口がJR東海かJR東日本かなど意識していないし、支払運賃も同じ)。だから、できるだけ他のJRの窓口で買わさせずに、自社(JR東海)のサイトで完結、つまり直販率を上げたいのだろう。
乗り鉄の私にとって、車窓が楽しめない新幹線はつまらない。しかし高速移動においてはその威力は絶大で、ありがたい存在なのも確か。しかしネット化や回数券の廃止などにより、乗客は実質的に以前よりちょっと高い金額を支払うことになる。ネット化は時代の流れだし、上手く使えば効率は上がるから否定しないが、客に金銭的メリットがないと食いつかない。そんなJR東海の策略に引っ掛かり、彼らの軍門に下るしかないのか。ケチな私の模索は続く。