北海道ツーリングでの最大の敵は、スピード違反を取り締まる警察ではない。最も怖いのは野生動物だ。これは命にも関わるので、彼らの習性を理解しておきたい。
北海道は自然の宝庫。だから野生動物が多い。その遭遇頻度は他の地域と比べて遥かに多い。また人口も少ないので、店やガソリンスタンドも限られている。この点も北海道以外の日本各地と全く違う。この2点において今回は書いてみる。
3.野生動物、特に鹿に注意!
北海道で目撃する野生動物の中で、その筆頭は鹿と狐。狐は問題無い。道路上や路肩でよく見掛けるが、こちらを認識するとすぐに隠れてしまう。もう何十回も遭遇しているが、狐と接触しそうになったことはない。しかし、鹿はそうはいかない。こいつは危険だ。鹿と遭遇しても襲ってくるような気配は全く感じないが、問題は彼らの習性にある。
半世紀に渡って北海道ツーリングをしているが、昔は鹿を見ることはそうそうなかった。しかし、近年、この10年ほど前から頻繁に目撃するようになった。鹿に遭遇する傾向は日本各地で見られ、北海道だけではないが、北海道で目撃する頻度は他とは違って非常に高い。数えたことはないが、私は通算100回前後鹿と遭遇していると思う。大自然の中だけでなく、主要幹線でも頻繁に出没する。根室エリアの道の駅では、鹿と車の事故事例が掲示されていた。事故は実際に起きている。
数年前、こんなことがあった。道路上に鹿を発見!鹿もこっちを見ている。瞬間的に鹿が動いた。その瞬間、私は鹿の動きとバイクの動きを計算して、このまま行けば十分回避できると判断した。ところが、一瞬動いたのに鹿が止まった。それはまるで硬直したかのようで、いわゆる「固まった」という感じ。このまま行けば鹿の横っ腹に激突し、バイクは大きく空中を舞い、私もどこかに投げ出されるだろう。必死でブレーキを掛け減速し、寸でのところで回避できたが、生きた心地がしなかった。
こういうパターンもある。路肩にいる鹿がこちらに目を向けている。路肩だし、こっちを向いているから大丈夫かと思っていたら、道路上に出ようとしている。普通なら茂みに逃げ込むだろうに、なぜ?!もう一つ、こういうこともあった。道路上の鹿がこちらに気が付いて、道路の外の森の中へ逃げ込んだ。これで安心かと思ったら、その鹿の後ろから何匹もの鹿がピョンピョン跳ねながら、まるでバンビのように道路に飛び出してきて、私の前を横切って行った。鹿はハーレムを形成するので、こういうことがある。
ホーンで蹴散らすと、隣接するサラブレッドの牧場内へと逃げ込んだ(2022年日高町)
一言で言えば、鹿の動きは挙動不審だということ。こちらを見ているから、この後こう動くだろうなと思っても、それに反する動きをすることがある。ではどうするか。鹿を目撃したら減速し、鹿が道路外に確実に退避するまで見届けること。そしてその際、後から追随する鹿の存在にも注意を払うことである。もう一つ注意すべきことは、鹿は夜間活発に活動するので、夜や早朝、薄暮の時間帯は昼よりも頻繁に出没するそうだ。つまり、そういう時間帯に走らない方が賢明ということ。夜間は発見も遅れるから尚更だ。
現実には鹿の方がずっと実害があるのだが、心理的に怖いのはやはり熊。私は過去半世紀の間に14回北海道をツーリングしており、できるだけ人や町が無い道路を好んで走っている。林道も好きで大概の林道は走ったし、今でもそういう道を走っている。しかし、熊を目撃したのはたったの1回だけ。それは20年程前、道北の山の中の片側一車線の直線の舗装路でのこと。100~200m前方の道路の真ん中、センターラインを跨ぐように巨大な黒い物体が落ちていた。落ちていたと判断したのは、足は無く全く動いていなかったから。しかし、何か変だ。あんな巨大な岩石のような物体が道路上に落ちているなんて。瞬間的に熊だと感じた。急停止。その物体は微動だにしない。1~2分程度経っただろうか。交通量も少なく、対向車も含め他の車も来ない。心臓はバクバクしていたが、この道が通れないと非常に困る。どうしたものかと考えていると、黒い物体はムクリと起き上がり、何事も無かったかのように傍らの森の中へと消えていった。熊はどうやら道路上に寝そべっていたよう。それにしても、そこは一応国道なのだが。
これが私の唯一の熊との遭遇体験だ。昨今、熊に襲われる事故が報道されるが、珍しい事故だから報道されるのであって、決して日常茶飯事ではない。しかし、そう理解しても、やはり深い森の中の林道へ入っていく時は緊張する。だから、カーブを曲がる時には頻繁にホーンを鳴らすようにしている。地元の人に聞いたり、熊に関わる本を読むと、音には非常に敏感だそう。そして、事故に遭っている人は山菜取りとか渓流釣りの人が多い。私は北海道で林道の途中で休憩を取るとき、バイクのエンジンを切る前に大きく空吹かしをしたり、ホーンをしばらく鳴らしたりして止める。北海道の林道は概ね非常に走り易く、転倒はさほど恐れてはいないが、熊は怖い。熊スプレーも市販されているが、現実的な予防策としては音を立てることくらいしかないのが現実のようだ。
信憑性を確かめるため近くのダムの職員に聞いたら、本当に最近出没したと言う
4.少ないガソリンスタンド
北海道のガソリンスタンド(以下GS)と言えば「ホクレン」。本州ではJAのGSがあるが、北海道のJAが「ホクレン農業協同組合連合会」である。昔は、どんな小さな集落でもホクレンのGSがあったが、この20年程の間に急速に減って来た。GSの減少は全国的な傾向だが、北海道は町と町との距離が離れているので、ガス欠の恐怖が現実味を帯びる。私はガス欠を経験したことは一度も無いが、「これは厳しいなぁ。ギリギリだなぁ」と、大いに気を揉んだことは何度もある。
そういうこともあって、GS僅少エリアでは、「この先、〇〇kmGSありません」と書かれた看板を見掛ける。これはGSが客を呼び寄せるために立てたものだが、決して嘘ではないから無視は禁物。「セルフの方がいいな」とか「できればエネオスがいいな」「ちょっと高いな」などと考え、素通りしてしまうと、すぐに街並みは途絶え無人地帯になってしまう。人口数万人規模の町ならいいが、それより小さい市町村の場合、中心市街地でもGSは限られてしまうので、ガソリンの残量が少しでも気になるのなら、迷わず給油した方が得策。
とは言え、多くの場合、実際にガス欠になることはそうそう無いだろう。しかし、残りの燃料を気にしながら走っていたら、絶景も目に入ってこないかも。また集中を要するライディングの妨げにもなり、事故防止の観点からも良くない。北海道のGSの少なさは本州の比でない。「そのうち入れよう」と考えず、迷ったら即給油。これが原則だ。
以上、前回と合わせて4つの重大要注意ポイントを書いた。取締りの警察も怖いが、彼らは命まで奪わない。真に命に関わるのは3項の野生動物、それも特に鹿との遭遇。実際に鹿と衝突して亡くなったライダーもいる(この6月にも、埼玉県の山中で鹿と衝突したと思われる死亡事故が起きている。発生時間帯は真夜中だった)。
自然豊かな北海道ツーリングの魅力は格別だ。道路環境も素晴らしく、普通に走る分には恐れるような道は全く無い。しかし、少なからずリスクもある。注意を払うだけではリスクは排除できないが、そういうリスクが潜んでいることを事前に認識しておいて損は無い。ツーリングは冒険ではない。無事に帰ってナンボの世界。取締りと鹿の存在を常に頭の片隅に置きながら、有意義なツーリングを堪能してもらいたいと思う。