「トップガン マーヴェリック」を手離しで賞賛できない【ネタバレ注意】 | 直球オヤジの自由奔走生活

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座右の銘は「"行きたい"、"やりたい"、"欲しい"と思った時が"その時"」。55歳で早期退職し、高齢者と呼ばれるまでの今が"その時"。趣味のバイクや自転車は年齢的に待ったなし。エコノミーな生活で趣味を楽しむ。これをどう追い求めるかが、このブログのメインテーマです。

いやぁ~、面白かった。これぞ映画。映画の面白さがここに全て詰まっている。・・・でも、この映画を素直に褒めたたえていいのだろうか。引っ掛かることがある。※【ネタバレ注意】

コロナ禍によって、公開が延び延びになっていた
トム・クルーズ主演の「トップガン マーヴェリック」。今や大ヒット公開中!。「Yahoo!映画」でレビュー評価4.7という驚異的な高得点で断トツ1位。「KINENOTE」でも86.5点という記録的な高得点で1位(ともに6月5日時点)。投稿されたレビューの殆どが大絶賛。この評価の高さに釣られて映画館に足を運んだ。

私は
1986年に公開された「トップガン」は観ていない。その時は私はまだ30歳そこそこで、血気盛んなお年頃。正直、アメリカが好きでは無かった。世界を牛耳る超大国が「世界の警察」かのようにアメリカ的な正義を振りかざし、世界各地の紛争に加担や干渉、直接派兵もしていた。当時、そんなアメリカを象徴する「トップガン」を観たいとは思わなかった。その続編が36年ぶりに公開された。それが「トップガン マーヴェリック」だ。

鑑賞後の感想は、「これは面白い!これぞ映画!」。私的評価では、5点満点で
4.5を付けそうになった。でも、しばらくして落ち着くと、どうにも引っ掛かる部分がある。それはいわゆる”突っ込みどころ満載”という類のことではなく、この映画において重要な点であり、「まっ、映画なんだからさ、そんな野暮なことは言いっこ無し」とはできない。

細かい点は書かないが、この映画は、トム・クルーズ率いる戦闘機の隊がミッション・インポッシブルな使命を遂行するお話。その使命が問題。ある第三国、その国の名前は一切出てこない。敵側の人間の顔も映らないし台詞も無いし、敵機の機種名も言わないので、その”
ならずもの国家”がアジア系なのか、中東系なのか、スラブ系なのかわからない。ここは意図的にぼかしたのだろう。そのならずもの国家では、核兵器の材料となる濃縮ウランのプラントが稼働寸前。トム・クルーズの隊が戦闘機でそれを急襲し破壊するというミッションである。そのプラントに到達するまでの間には地対空ミサイルや敵機が配備されているが、それをどうかい潜ってミッションを達成させるかがポイント。このシチュエーションも攻撃方法も「スターウォーズ」のデス・スター攻略と酷似している。

トム・クルーズがバイク(カワサキGPZ900とH2)に乗るシーンではノーヘルだったことも気になったが、まあスターだから顔を見せたいのだろうし、アメリカは自由の国だからヨシとしよう。そんなことより私が引っ掛かったのは、その敵対するならずもの国家が国際ルールに違反して密かに活動しているからと言って、
他国が勝手に侵入しその国の財産を木っ端みじんにしていいのかという点だ。そう、これはロシアのウクライナ侵攻とどう違うのか。

もちろん違う。ロシアは他国の領土を奪おうという
領土侵略であり、更に核の使用をちらつかせ脅してもいる。映画の中のアメリカにはそう意図は無く、程度の差は歴然だ。しかし、例えそれが国際ルールに違反していようが、他国の主権を侵して一方的に攻撃を加えるという行為は正当なのか。ウクライナへの侵略戦争においてロシアの正当性は一片も無く、ロシアを擁護する気など全く無いが、歴史を紐解けばロシアを非難する西側諸国、特にアメリカはそんな偉そうな口を叩けるのかと思ってしまう。

太平洋戦争ではアメリカは日本中を焼け野原にし、市民を大量殺戮した。こんな昔にまで遡らずに、第二次世界大戦後、国連が設立された以降に焦点を当てる。ベトナム戦争(1955~1975)ではアメリカ軍もソンミ村事件のように民間人の虐殺行為を行っている。ベトナム戦争ももう半世紀近く経っているから、もう少し現代に近づいて21世紀で見ても、アメリカは様々な戦争に手を出している。特に酷いのがイラク戦争(2003~2011)だ。イラクに大量破壊兵器があるという理由(後にそれは間違いだったことが判明)で一方的に侵攻した。NATOだって決して清廉潔白ではない。ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争(1992~1995)で何をしたか。国連で否決され国連として派兵できない中、NATO軍はセルビアの都市を空爆した。そこでは多くの民間人も犠牲になったはずだ。

ロシアからすれば、これら西側諸国の行った過去のことと今回のウクライナ侵攻は五十歩百歩と言いたいのかもしれない。もちろん、領土侵略と核兵器による脅しという点を加えれば、五十歩百歩とも、目くそ鼻くそとも言えないのは当然だが、西側諸国には一点の曇りも無いとは言えない。
どの国も脛に傷を持っているから何も言えないとなると、ロシアの蛮行を認めることになり、世界の秩序はめちゃくちゃになってしまう。そんなモヤモヤ感を当初から抱いていた。

そこに「トップガン マーヴェリック」がやって来た。映画の中では二転三転の危機を脱して、無事にミッションを達成し、帰還した空母の上で歓喜に包まれる。こんな私だって「良かった、良かった」「アメリカ万歳!」「やっぱり、世界はアメリカを頼りにするしかないな」なんて思ってしまう。「映画なんだからそれでいいじゃん」と思いたいが、スターウォーズやスタートレックと違って全て架空のお話ではなく、この映画の主役はアメリカ軍だ。映画館を出る頃には、「
ならずもの国家だからと言って、そんなことしていいのか?」という考えがもたげてきた。

この映画は大ヒット間違い無し(但し、西側諸国だけ)。映画として間違い無く面白いし、迫力もあるし、お涙もちょっとある。カタルシスも感じる。溜飲も下がる。還暦間近になってもトム・クルーズはカッコいい。でも、この映画のミッション設定を鑑みると、この映画を諸手を挙げて賞賛したりお勧めは、私にはできない。


現実の社会や戦争では、国際関係、自国内の事情、経済など様々な要素が複雑に絡み、攻撃したくても叩くことができない。でも独裁者プーチンはそれを本当にやってしまった。そんなことはせめて映画の中だけにしてもらいたい。スカッとした映画とは裏腹に、現実を見ると一向に晴れないウクライナ情勢が続く。