黒部峡谷鉄道と大井川鐡道の違い | 直球オヤジの自由奔走生活

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座右の銘は「"行きたい"、"やりたい"、"欲しい"と思った時が"その時"」。55歳で早期退職し、高齢者と呼ばれるまでの今が"その時"。趣味のバイクや自転車は年齢的に待ったなし。エコノミーな生活で趣味を楽しむ。これをどう追い求めるかが、このブログのメインテーマです。

今回の富山の旅の目的は「黒部峡谷鉄道」に乗ること。この鉄道の魅力とは何か。そして、同じような鉄道路線が私の住む県にもあるが、それとどう違うのかが私の関心事項だった。

全国鉄道完乗を目指し、僅かに残っている数少ない未乗路線のひとつがこの黒部峡谷鉄道。宇奈月温泉まではバイクや富山地方鉄道で来たことがあるが、ここから先の立山連峰と後立山連峰の間の黒部峡谷の奥部まで伸びる黒部峡谷鉄道には乗ったことがない。今回の旅の一番の目的は、この鉄道に乗ることだ。

この路線は黒部峡谷を遡る絶景路線として有名で、全国有数の
観光鉄道である。その日、朝一番の便に乗るべく宇奈月駅に向かった。この駅は小さな路線の小さな始発駅だと思っていたら、かなり大規模な駅だった。切符を販売する窓口が6つもあり、それが7時40分になると一斉に開く。このことからしても、多くの人がこの鉄道に押し寄せることが伺える。改札が始まったのでホームに降りる。出発までの時間、駅構内の様子を見てその広さにちょっと驚いた。この鉄道は「トロッコ列車」を売りにしており、小さな車両が細々と走っている零細極小鉄道だと思っていたが、この駅の規模の大きさや、構内に止まっている車両や見掛ける社員の数からして、かなりの規模であることが伺える。



宇奈月駅は予想より遥かに大規模な駅だった

トロッコ車両は完全なベンチシート

座席は指定されないが、号車は指定される

普通の車両もあるが、割増料金が掛かる

 

そうこうしていたら、私が乗る車両とは違った編成が隣のホームに入って来た。まだ次の便までだいぶ時間があるのにおかしいなと思ったら、出発を知らせる電光掲示板には「工事専用車両」と出ていた。この黒部峡谷鉄道は観光の為だけに存在しているのだと思っていた。しかしこの鉄道に乗ってわかったのは、ここから上流部には発電所関連施設が点在し、補修や点検に伴う工事をしていること。そこに工事資材や人員を運ぶにしても道路は無く、この鉄道しかない。つまり、一見するとこの鉄道は観光路線としか見えないが、黒部川沿いの発電所関連の業務用途として現役バリバリで使われているのだ。人員資材が集結する宇奈月駅がこんなにも大きな駅である理由の一つはこれのようだ。因みに、この鉄道会社は関西電力の100%子会社だ。



沿線には随所に発電所があり、その構内に線路が伸びている

 

さあ、出発だ。鉄道の旅はこの出発時のガタンゴトンにワクワクする。今回はトロッコだから尚更だ。そして、駅を出てすぐ黒部川を横断する大きな鉄橋を渡るのも、その期待値を一層盛り上げてくれる。電車はV字谷の渓谷沿いを遡ってゆく。その渓谷の深さ、そびえる急峻な崖や山がすごい。黒部”渓谷”鉄道ではなく、黒部”峡谷”鉄道という名のように、まさしくここは峡谷だ。そんなとんでもない山奥に発電所やダムが突如現れる。道路が無いこんな場所にどうやって作ったのか。そこに重機ダンプカーがあるのも不思議。どうやってここに来たのだろう。終点の欅平駅近くのビジターセンターで、その疑問をぶつけてみた。答は予想通りだった。重機やトラックを鉄道の貨車に積めるように分解して運び、現地で組み立てるという。

 


宇奈月駅を出発した直後、この大きな橋を渡る

 

この鉄道は線路の巾(軌間)が762mmの狭軌(ナローゲージ)のいわゆる軽便鉄道なので、山肌をトレースするきついカーブでも、盛大にレールのきしみ音をあげならクネクネと走ってゆく。全線に渡って断崖絶壁トンネル。シチュエーションはほぼこの二つだけ。トンネルは狭く、トロッコ車両から手を伸ばせば壁に届いてしまいそう(禁止事項)。そのちょっとしたスリルが楽しい。沿線の見どころについては、富山県出身の女優向井滋さんによる観光ガイドも邪魔にならず、分かり易い解説だった。

 

 

重連(二両の機関車)で登って行く

ナローゲージなので山間の崖っぷちをクネクネと走る

トンネルは狭く、素掘りトンネルも多い

 

そうして全く飽きることなく1時間15分後、終点の欅平駅に到着。そこは黒部峡谷の奥部なのに、驚くほど大きな駅があった。なんせ15両編成が到着するのだからホームも長い。終点だから全員下車するので、ホームは大賑わい。駅舎に出ると土産物屋や立ち食いそば屋、レストランもある。一大観光地だ。



終点の欅平駅も大きな駅だった

 

欅平周辺を散策し、一時間後再び電車に乗り宇奈月温泉を目指す。盲腸路線なので先ほど見た光景を再び見ることになるが、断崖絶壁を絶えず走るので決して退屈しない。途中の駅で欅平に向かう対向列車と行き違うが、15両の車両には老若男女、多くの観光客が乗っていた(土曜日)。また、工事専用車両とも行き違った。全国各地の鄙びたローカル線に乗ると、「この路線は果たして存続できるのだろうか?」と心配になってしまう路線ばかり。しかし、この黒部峡谷鉄道は全く違う。活況を呈していた

私が住む静岡県にも黒部峡谷鉄道と酷似した路線がある。それは
大井川鐡道の井川線。その鉄道も大井川上流部にダムを建設する為に敷設され、今ではほぼ観光目的の為に存在している。井川線も深い谷を形成する大井川沿いの断崖絶壁を走り、ダムや発電所も望めるし、ダム湖を横断する絶景ポイントも有名だ。また、少ないながらも沿線には住民が住んでいる(いた)ので、秘境駅も数多くある。しかし、あまり賑わっていない。黒部峡谷鉄道とは雲泥の差だ。大井川鐡道は度々テレビでも取り上げられ、特に通年運行しているSL列車は有名で、知名度もそれなりに高いはず。しかし、本線から先に延びる井川線になるとグッと乗客は減ってしまう。同じような境遇、環境のこの二つの路線はどう違うのか。

それはやはり
「黒部」という観光ブランドの強さではなかろうか。「クロヨン(黒部第四ダム)」や「黒部アルペンルート」に代表される黒部の知名度は、車はもちろん、歩いてもいけないとんでもなく山深いエリアに、誰でも容易に行ける観光地として確固たる地位を持っている。そんな超山間部に電車で気軽に行けるのは大きな魅力だ。井川線も山深く走っているが、その深山幽谷度は圧倒的に黒部峡谷鉄道の方が上。井川線沿線や大井川上流部のダムには道路も通じており、鉄道を使わなくても容易に行ける。よって秘境レベルは黒部よりずっと低い。つまり、旅において重要な非日常性は黒部峡谷鉄道の方が優っているということ。これが両路線の大きな違いだろう。

この鉄道は単なる観光路線だと思っていた。しかし、沿線の
発電所の維持管理のために無くてはならない存在で、その輸送手段として日常的に運用されていることがわかり、鉄道のあるべき姿を見たようで鉄道ファンとしてもうれしい。

 

こうしてなかなか乗る機会が無かった黒部峡谷鉄道に乗車し、これでまた一つ未乗路線が減った。九州を除くエリアで、未乗のまま残っている唯一の路線が富山市内にある。今回は時間の都合でそれに乗ることはできなかったが、その路線に乗れば北海道、本州、四国は全てクリアし完乗となる。その未乗路線に乗る機会はまた作ろう。今度はバイクで行くぞ。県民割を使ってね。