思ってることをよ、かっこつけずに思いっきし叫ぶ それが、ビートルズだ | 鳥肌音楽 Chicken Skin Music

鳥肌音楽 Chicken Skin Music

WRITING ABOUT MUSIC IS LIKE DANCING ABOUT ARCHITECTURE.



>宗男:でも、あれだっぺ、思ってることをよ、かっこつけずに思いっきし叫ぶと何だか力がでるっぺ。それに、笑えるっぺ、なんだか・・・・・。

それが、ビートルズだ。

だから好きなんだ俺は。うん、何でもいいんだ、うん。難しいことじゃなくていい、何でもいいんだ。腹立つことでも、仕事休みてぇーでも、あの娘が好きだーでも。何でもいいんだ、今思ってることを叫ぶんだ音楽に乗せてな。エレキ・ギターとかでよ、ウワーっとでっけぇ声で叫んでるべ、「うるせぇわー」っと思うかもしんねぇヶど、でもアレはできるだけ遠くまで届けるためなんだ、気持ちをな。だからでっけぇ音なんだ。

だからよ,聴いてると、何か心が晴れるんだ、一緒に歌いたくなるんだ。でよ、それがレコードとかになるとイギリスから茨城まで届くんだ、すげぇね、もう。



先週末の「ひよっこ」は「ビートルズきちがい」の宗男おじさんの一人舞台でした。
宗男おじさん演じる銀杏ボーイズの峯田和伸くんの髪が異常長いため、マッシュルーム・カットをデフォルメしすぎているとか、時代考証やビートルズの取り上げ方が雑だとか、俗っぽいドラマでビートルズを取り上げるなとかいろいろと外野からの批判も多いようです。

でもまぁもともとビートルズを描いているドラマでもないし、宗男おじさんを通じてのビートルズ体験やその他もろもろの出来事によって集団就職で東京にやってきた田舎娘のみね子(有村架純)が成長していく様を描く物語なので、ビートルズそのものというよりはみね子や宗男他の当時の市井の人たちがビートルズをどのように捉えていたのかっていうのがエピソードの要なんだと思います。

で、宗男のワンマンショーとなるわけですね。




宗男の言葉はもしかすると後世の「ビートルズ来日」の評価に寄せ杉なのかも、本当はもっと整理できない混沌としたものだったのじゃないのかなとは思いながらも、おおむねそういうものだったのだろうなと。(この後の物語で何故44歳で英国との戦争を体験した宗男が英国のR&Rバンドであるビートルズに夢中になったのかが語られます(涙)。)


おそらく「ビートルズ来日」が一般的に事件だったのは東京を中心とした都心部の若者たちだけで、地方では言うほどの「大事件」ではなかったのじゃないかとも思われます。先週の前半で描かれていたように一般的にはビートルズより加山雄三やロス・プリモスだったというほうが正しいのだろうとも思います。

黒沢明とロス・プリモス「ラブユー東京」

(頭の♪七色の虹が消えてしまったの♪の歌詞はシュガーベイブの「ダウンタウン」に影響を与えています)


それでも、ビートルズの来日という出来事によって東京周辺だけでなく日本中の若者たちの心の中にあった「何かsomething」の扉が開かれてしまったのだと思います。それは宗男の言葉で言えば「思ってることをよ、かっこつけずに思いっきし叫ぶと何だか力がでるっぺ。それに、笑えるっぺ、」という気持ちでもあったろうし、それはおそらくはビートルズじゃなくても普段の生活の中で何かのタイミングで感じることがあったもの、でも自分たちより前の世代の人たちは大人になるためにはいつかは忘れていった「何か」。


The Beatles - Rock & Roll Music


その「何か」をもったままでも大人になれるんだという、イギリスやアメリカの若者たちはすでに10年前には経験していて、それは日本の若者の中にも徐々に育ってきていた思い。それは、何かのきっかけさえあれば一気に爆発するそんな状態に66年の日本は、東京はなっていた。その導火線になったのが、ビートルズがやって来たヤァ!ヤァ!ヤァ!ということだったんだろうなぁと俗っぽいドラマを見乍ら思うこの頃でした。



宗男のワンマン・ショーのラストでは茨城に比べ星が少ない東京の夜空に向かって、みんなで「ビートルズ待ってっぞー」と叫んで終わります。夕陽を追いかけ渚を走る青春ドラマそのもの、でも「ロック」という概念がいまだなかった時代ですから、そんなもんなんでしょう(笑)

The Beatles - I'll Follow The Sun - Lyrics