「コリーナ・コリーナ」のこりないお話  | 鳥肌音楽 Chicken Skin Music

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言わずと知れた1992年に発売されたエリック・クラプトンの『アンプラグド』です。元々はMTVの人気番組(ボン・ジョヴィのジョン・ボン・ジョヴィとリッチー・サンボラの提案によって企画された、一流アーティストによるアコースティックを基調とするライブ番組。1989年に放送を開始。ウィキより)での演奏をアルバム化した企画アルバムでしたが、過去のどのアルバムよりも売れに売れ、累計でなんと770万枚の大ヒット作になっています。

そんなアルバムの中の1曲が発売から四半世紀近く経った今頃になって訴訟問題となっています。その曲というのはアルバム10曲目に収録された「アルバータ Alberta」です。米ヤフーの記事をもとに音源も交えて紹介させていただきます。


Eric Clapton Alberta Unplugged


Alberta, Alberta,
Where you been so long?
Alberta, Alberta,
Where you been so long?
Ain't had no loving
Since you've been gone.

Alberta, Alberta,
Where'd you stay last night?
Alberta, Alberta
Where'd you stay last night?
Come home this morning,
Clothes don't fit you right

この「アルバータ」のアルバムに記載された作者のクレジットは「Traditional, arr. by Huddie William Ledbetter」となっています。作者知らずの伝承曲でハウディ・ウィリアムス・レッドベターが編曲したものということです。ハウディ・ウィリアムス・レッドベターっていうのは「おやすみアイリーン」などでお馴染みのアメリカのフォーク、ブルースのレジェンドであるレッドベリーのことですね。

ではレッドベリーの「アルバータ」はどんな感じなのでしょうか?

Lead Belly  Alberta
  

うん?これが元歌、なんか違う気がします。ネットで歌詞を拾ってみると以下のようになっています。

Alberta, Alberta,
Where you been so long?
Alberta, Alberta,
Where you been so long?
Ain't had no loving

これだと確かにクラプトンと同じなのですが、実際の歌を聞けばあきらかに違った歌詞で歌われています。この2曲あきらかに違った曲に思えます。

では、クラプトンがカバーした「アルバータ」の元歌は何なのか?

今回の訴訟と言うのは、この「アルバータ」がボ・カーター作の「コリーナ・コリーナ」で、『アンプラグド』のクレジットが間違っていたために、本来受け取るべきであった印税を受け取れなかったというもののようなのです。

では「コリーナ・コリーナ」を聴いてみましょう。

Bo Carter - Corinne Corrina


歌詞は

Corrine, Corrina, where you been so long?
Corrine, Corrina, where you been so long?
I ain't had no lovin', since you've been gone

アルバータとコリーナという出て行った女性の名前が違いますが、後の歌詞やメロディはクラプトンが歌ったものの元と言われれば、そうですねこっちですねという感じです。

ボ・カーターの管財人の訴えではクラプトンが『アンプラグド』でトラディショナルをレッドベリーが編曲したとクレジットしている「アルバータ」はボ・カーター作の「コリーナ・コリーナ」のタイトル・フレーズだけをアルバータに入れ替えたものであり、クレジットは当然ボ・カーターであると主張されているようです。

そして、ボ・カーターの作であることをクラプトンは知っているはずだとしているのですが、その根拠としては2011年にクラプトンが発表したウィントン・マルサリスとの共演ライヴ・アルバム『プレイ・ザ・ブルースPlay the Blues: Live from Jazz at Lincoln Center』で当の「コリーナ・コリーナ」を取り上げていることを指摘します。

Wynton Marsalis & Eric Clapton - Corrine, Corrina


ということで、クラプトンに対して「アルバータ」のクレジットが本来あるべきの「ボ・カーター」としてクレジットされていれば得たであろう印税などを含め総額500万ドルを支払うように訴えているわけです。凄いですね5億円強ですよ。

ところで、何故クラプトンはクレジットを誤ってしまったのか?

ボ・カーターは「コリーナ・コリーナ」を1928年に録音しています。そして1930年にザ・ミシシッピ・シェイクスThe Mississippi Sheiksというグループが「コリーナ・コリーナ」を「アルバータ・ブルース」(ウィキでは「スウィート・アルバータ」となっています)というタイトルでカバーします。

Mississippi Sheiks- Alberta Blues


これが、おそらくはクラプトンが元歌とした「アルバータ」なのでしょうね。クラプトンはこの歌をアンプラグドで歌いアルバムに収録する段になって作者が思い出せなくって(知らなくって?)、検索をかけたんじゃないでしょうか。ちなみに米ヤフー検索で「Alberta」「Song」というワードで検索をかけて出てくるウィキの頭には「Alberta is the name of more than one traditional blues song.Lead Belly recorded a song "Alberta" in four versions. 」と書かれています。「あぁそうかレッドベリーか、なるほどなぁ」っていうことで疑いもなくクレジットをしちゃったのではないか。なんて軽くはなくてちゃんと調査しているのでしょうが。

ちなみにASCAPのデータベースで「コリーナ・コリーナ」を検索するとしっかりとボ・カーターが権利者であることが分かります。ですから「コリーナ・コリーナ」として検索すれば間違えようはなかったものを「アルバータ」で検索した(無理ないですよねその名前で憶えていれば)ために間違ってしまったということなのでしょうね。行き違いのケアレス・ミスだと思われます。

ただ今回のケースでは「コリーナ・コリーナ」が1928年発表ということと作者であるボ・カーターも1964年に亡くなっているので歌自体がパブリック・ドメインではないかということで、勝訴は難しいのではないかというようなことが書かれてはいます。

Corrina Corrina-Rod Stewart


実は、2013年のロッド・スチュワートのアルバム『タイム』のボートラとしてもこの曲が収録されており、クレジットはトラディショナルとされていました。この時もボ・カーターの管財人は訴訟を起こしましたが敗訴となっているようです。そこで、今度はクラプトンにお鉢が回ってきたみたいなところもあるような感じです。さてさて、どうなりますことやら。


PS.ますます著作権についてシビアな社会になっている気がしますね。こんなん言いだしたらツェッペリンなんか訴訟の嵐になりそうです。せちがらいというかなんというか。





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