年始恒例 干支の歌 「TOO MUCH MONKEY BUSINESS」 | 鳥肌音楽 Chicken Skin Music

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2016年です。今年も恒例の干支にちなんだ一曲でブログ「鳥肌音楽」をスタートしたいと思います。


The Monkees - Too Much Monkey Business (Live - Chuck Berry Cover) - RARE


あっちいったり こっちきたり
工場じゃはたらきっぱなし
郵便を見落としはしないけど
来るのは督促状ばかり
インチキすぎるぜ 
インチキすぎるぜ
俺の周りはインチキだらけ

セールスマンの売込みが 
俺を悩ませる
買うなら今しかないですよ
お支払いは来週でいいんだから
インチキすぎるぜ 
インチキすぎるぜ
俺の周りはインチキだらけ

金髪のおねえちゃんが 
俺を誘惑する
結婚してよ 家を買ってよ
真っ当になって 本でも書いてよ
インチキすぎるぜ 
インチキすぎるぜ
俺の周りはインチキだらけ

毎日同じことばかり
朝起きて学校行って
不満も口にできねぇ
言ったとしてもすぐ却下!
インチキすぎるぜ 
インチキすぎるぜ
俺の周りはインチキだらけ



今回アップしましたのは「トゥー・マッチ・モンキー・ビジネス」をモンキーズがカバーしたというおサルづくしな音源です(正確にはモンキーズのメンバーだったミッキー・ドレンツによるカバーです)。


モンキー・ビジネスっていうのは直訳すれば「猿のお仕事」となりますが、勿論、比喩表現で辞書によれば意味は「災いをなす欺瞞的な行為」ということです。日本語でも猿の付く成句は「猿真似」「猿芝居」のようにいかがわしさを感じさせる言葉が思い出されますが、英語でも同じようなニュアンスがあるようです。例えばマイケル・フランクスのヒット曲のタイトルとしてなじみのある「モンキー・シー・モンキー・ドゥー」はずばり「猿真似」「猿芝居」って意味のようです。

ローリング・ストーンズやキンクス、ホリーズなど実に多くのカバーのある「トゥー・マッチ・モンキー・ビジネス」ですが、オリジナルはその曲調からもお分かりのようにチャック・ベリーの作になるもので56年にシングルとして発表されR&Bチャートで4位というヒットになり、1stアルバムである『アフタースクール・セッション』にも収録されたベリーの代表曲です。日常生活の中の喜怒哀楽を歌った歌詞は黒人だけではなく白人の若者にもストレートに受け入れられていったとモノの本には書かれていますが、もちろん事はそんなに単純ではなかったでしょう。



このシングルのB面には「ブラウン・アイド・ハンサム・マン」という曲が収録されています。これまたベリーの代表曲のひとつなのですが、茶色い目をしたイケメンが世の女どもをメロメロにしていく、おおざっぱに言えばそんな歌です。この歌最初にベリーが作った時のタイトルは「ブラウン・スキンド・ハンサム・マン」だったと言われています。つまり茶色い肌のイケメンが女を狂わせるというものだったのですが、夢中になる女として裁判官の妻やミロのヴィーナスなどといった白人女が歌われているという当時としては完全にアウトなもので、スキンをアイに変え人種をぼかすことで世に出すことができています。

同じような事はベリーの名前が若者だけでなく白人の大人たちに知れ渡った後の大ヒット曲「ジョニーBグッド」でも繰り返されています。Where lived a country boy named Johnny B. Goode(そこには、ジョニーBグッドというなの田舎者が暮らしていた)という部分がもともとはWhere lived a colored boy named Johnny B. Goode(そこには、ジョニーBグッドというなの黒人の少年が暮らしていた)という歌詞だったと言われています。ロックンローラーとして成功したベリーが自分の生い立ちをそのまま歌ったような歌なのですが、黒人が大成功するような歌をおおぴらに歌うほどには白人社会は寛容ではないという判断をレコード会社側が下したということなのでしょう。販売元のチェスは黒人音楽中心のレーベルとはいえ白人がオーナーの会社ですからね。

という状況を踏まえて”朝、眠いのに起こされ尻を叩かれ学校に行くけど、そこは自己主張しても「規則」で却下されてしまうインチキな場所だ”という「トゥー・マッチ・モンキー・ビジネス」の歌詞を読み直すと、学校っていうのは白人社会のことで、そこで黒人が自己主張しようとしてもつぶされるだけだといった歌に聞こえてくる気がします。

Chuck Berry - Too Much Monkey Business


とは言え、ベリーの書きかえは100%レコード会社からの押し付けだったかといえばそうでもないようで、ベリーはことあるごとに「売れるためだったらなんでもする」という言葉を吐いていたようで、こういった書きかえについても「売れんだったらOKだぜ」という感じだったのかもしれません。逆に言えばベリーには黒人として自分の置かれた状況を客観視して「人種」のフラストレーションを「若者」のフラストレーションに普遍化した歌詞にするという才があったということだと思います。

こうして出来上がったベリーの黒人としての思いが裏に隠された歌の数々は、表向きの歌詞に共感したいちびった白人のバンドマンたちにカバーされていくことになります。ある意味ベリーにだまされていることを知ってか知らずか(笑)。

なんだかこの構図自体がモンキー・ビジネスのように思えます。

挙句の果てがモンキー・ビジネスででっち上げられたアイドル・バンド、その名もモンキーズのメンバーによってカバーされる、最高のブラック・ジョークかな。






「ジョニーBグッド」が黒人少年の歌だったら、ここまでのR&Rスタンダードになっていたのだろうか?



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