夕刻の時代§3 皇帝の死
自分は彼女にとってどの様に思われているのだろうか?
変わり物の異邦人と思われているのか、はたまた頼もしい男性と写っているのだろうか?
もんもんとして眠れ無くなってしまった。
3階へ上がり彼女の部屋のドアを階段から人に見つかるのを恐れてただ眺める。
俺は何を考えてるんだ?
果たして自分は今こうして居る事さえ自問自答している。
と、ドアが開いた!
出てきたのはマルコだった。
「おい!何してるんだ。」
マルコを呼び寄せる。
「おしっこ。」
「違う、お前此処で何をしてるんだ?」
「あぁ、夜は暗くて恐いからおねえちゃんと寝ているの。」
「お母さんはどうしたの?」
「お母さんはお父さんと一緒だもん。」
「で、おねえちゃんと一緒なのか。」
「そう。おしっこ行ってくる。」
「あぁ。」
なぜか寝室に戻ると気を失うように良く眠れた。
寝坊したらしい。
とっくに日が登っている。
今日はヴァレン邸へ戻る日だった。
アウレス氏トヴァレン氏は朝食をあらかた平らげ会話をしていた。
表情から深刻な話らしい。
帝国も繁栄期には戦争が無くなり平和も保たれ治安が良かったが、
ゲルマン、ペルシャ等との小競り合いは頻繁に聞かれ海賊も復活したという。
帝国の領土が地中海を取り囲んだ時に海賊は絶滅させた筈だったのに・・。
それは400年前、共和制末期から帝国制初期の頃の話だ。
それらの海賊が何処の出身で何処の部族かは解らないが、
帝国海軍も手が廻ら無くなってきたと言うことだ。
テーブルに着き「被害とかは出て居るのでしょうか?」と聞く。
実際にアウレス氏の積み荷がやられた事も有るそうだ。
「帝国の辺境でも無いのに海賊が出現するとは・・。」
かつて無敵を誇ったローマ人で構成されていたローマ軍団だったが、
平和が続くうちに金髪碧眼の野蛮人、ゲルマン人の親ローマ派種族を編入し軍隊を構成していた。
親ローマ派種族の1つ、フランク族は帝国の国境に居住区を与えられ
ローマ帝国の国境警備を一手にローマ人に任されている。
しかもローマ帝国はこの生まれながらにして戦士の部族無しには帝国を維持出来なくなっていたのだ。
民族大移動の影響は深刻だ。
テオドシウス帝が15年前にキリスト教を帝国の国教とすると宣言した後、
宗教により国家をより堅固な物にすると言う期待は裏切られていた。
追い打ちを掛ける様に極東からフン族がヨーロッパに進入し、
ゲルマンその他の部族は押し出され各地で民族紛争が激化した。
そして1部の種族は帝国内領土に落ち着いてしまって居る。
そして現在の皇帝、テオドシウスが亡くなった後、帝国は2分されたのを最後に
西ヨーロッパが再び中世暗黒時代から脱するのに1000年を要するのだ。
これから何が起こるか知っている自分には、この話は居たたまれない。
もう少しで迎える5世紀。
この時代には各部族が次々と何度もローマ市で略奪を続け、
最後にはゲルマン傭兵隊の謀反により最後の西ローマ皇帝(幼児)が惨殺されるのだ。
なんとしてもこの平和な土地を守る為食い止めたいが、
彼らにこれから起こる事を説明しても信じてもらえないだろう。
日没迄に途中の宿泊施設に着きたいので荷物の整理を始める。
ヴァレン一家に準備を促し、車の点検を始める。
モニターで地形を確認すると取り敢えずは海岸線に沿って走れば良い。
西に走るので南風を利用するのに帆を45°に保てばそのまま次の宿泊地に着けそうだ。
帆の角度を合わせてロープの長さを調整した。
ドアの後ろの窓からロープを引き込み、そこから前へ持っていきドアの内側の取っ手に結ぶのだ。
敷石を歩く音がしたので振り向くとエレナがやって来て、「さみしいわね。」と言う。
「あぁ、でもちょくちょく来れるように努力するから。」
と言うと彼女は微笑んだ。
「手紙も出すようにするから。」とも付け加えた。
だが、このE-Mailの無い世界、
手紙を送るのにも早くて片道で数日掛かるのだ。
お世話になったアウレス一家にお別れを済まし、数百キロの家路へ急ぐ。
ドナも要領を得てクッションを並べ横になり、殆どの時間を睡眠に当てていた。
マルコに至っては畳んだ帆を布団代わりにしてこれも走行中殆ど寝ていたのだった。
途中1回だけ宿泊施設を利用しただけで順調に帰途に着いた。
彼らにとって良い旅だった事を確信する。勿論自分にとっても。
カタラネスに着き1番にした事は使用人に鍛冶屋に頼んだ物が納品されているかの確認だ。
旅に出る前に必要だと思い図面を渡し加工の仕方を指示しておいたのだ。
それは後輪のホイールに取り付ける円盤の様な物で、
車体をジャッキで持ち上げこの円盤にロープを掛け風車小屋や
水車小屋の回転軸からダイレクトに車輪を回し発電する事が可能だ。
直接発電すれば走行時間程度の充電時間で済む事になる。
そう、これで車を運転する機会が増えるのだ。
まぁ、仮に走行時間分の充電が不足でも帆走と言う手段もある。
またヴァレン氏にお願いして屋敷で使っている風車小屋のうち1っを
充電スタンドとして使わしてもらう事になった。
この時代の技術では発電所そのものを作ることは出来ないのでこの方法で暫くやっていくしか無いだろう。
ヴァレン氏にわがままを言いっぱなしだが、彼は自分を評価してくれている。
車の中でも話したのだが自分もいつまでも居候で居る訳にもいかず、
恩返しをする為にも仕事を見つけて働きたいと言ったのだが
彼は相談役として、又マルコの教育係として此処に居てくれと言うのだ。
自分としても光栄だがラテン語もままならぬ自分に教育係が勤まるだろうか?
未来の技術も此処で実現出来る事が有れば援助するので何でも試みてくれとも言う。
でも産業基盤の無い時代でいきなり自動車やコンピューターが作れる筈も無く
あまり期待してもらっても困るのだが。
ヘロンと言う哲学者、科学者が居た。紀元前何百年も昔のギリシャ時代の事。
彼はピタゴラスやアリストテレスに匹敵する天才で、自動聖水機なる物を作った人物としても有名だった。
これはコインを入れると重みで一定量の水が出ると言う自動販売機の元祖である。
しかし、同時代の賢者を凌ぐと確信するのは蒸気機関の発明である。
祭壇に火を灯すと熱で鉄管の中の水が蒸気になり、その圧力でロープを巻き上げ神殿の門を開閉するのだ。
これは信仰に貢献はしたがその技術が継承される事は無かった。
当時は奴隷による労働力がただで手に入ったのでその技術が必要とはされる事は無かったのだ。
もっと役に立つ事に使われていたら歴史が変わっていただろうに・・。
考えた末、自分は街で優秀な鍛冶屋を屋敷の側に住まわせ、日々此処で実現出来る技術を検討した。
数ヶ月が過ぎ工場にはようやく人に見せられる試作品が完成した。
鉄製品を作る事が出来る文明なら実現可能で構造も簡単な蒸気機関だ。
エレナからの手紙は毎週の様に届き「ちっとも来てくれないじゃない。」と不満を度々ぶつけられるが、
手を掛けた今の仕事を早く完成させ安心したい処なのだ。
技術的な問題も在りかなり大きな物になってしまったが、近いうちにお披露目をしたいと思う。
何日も稼働試験をして満足する結果だったのでヴァレン一家を集めて見て貰う事にする。
要は2っのシリンダーが交互に伸縮を繰り返し、機関車の動輪の様に車輪を回すと言うシンプルな物だ。
ピストンが伸びきった処で蒸気圧が穴から解放され、その頃には反対側のピストンに圧力が掛かる。
ボイラーも含めた大きさは5m程にもなってしまったが当面は船等に登載予定をしている。
ヴァレン氏を始め皆が喜んでくれた。
この技術を独り占めにする事は出来無いだろうが民間や帝国に売る事だって出来る。
ヴァレン氏も最近海賊の被害等で海上貿易に陰りが出て居るがこれで挽回出来ると商魂たくましい。
試作用の貨物船の提供はアウレス氏に協力をして貰った。
彼には蒸気船輸送のパイオニアに成って貰いたいと思っている。
また、ゆくゆくは蒸気機関ユニットの小型化を目指し汎用動力として陸上輸送期間にも応用したい。
この開発援助は引き続きパトロンであるヴァレン氏に頼ることになる。
アウレス氏の船がマッシリアより此処カタラネスに入港した。
今回は速度試験も兼ねるので大きな速度の遅い輸送船ではなく
細身の速度の出る軍船をベースとして提供してもらった。
駆動システムを登載して尚かつ燃料用、貨物用のスペースを確保している。
早速、港の一角を専用ドックに改造し関係者以外は立入禁止とした。
船の周りには足場を掛けシートで覆いをし警備を付け厳重に管理したのだ。
燃料としては薪でも油でも手に入る方を利用出来る様な仕様にした。
勿論、火力を一時的に上げる場合は燃焼室に霧状に燃料を噴射する事が可能だ。
推進方法としてはスクリューの方が速度が出るのだが燃費を考えて外輪船とした。
船体の後尾に水を掻く水車が取り付けてあるタイプだ。
蒸気動力の2、3号機はまだ完成していないので試作機を載せてしまう。
設置、稼働試験も早々に済ませ、調整も大体満足する結果を得られた。
それから約1ヶ月が経ち漸く進水式を行う。
ヴァレン氏により「プロメテウス」と命名された。
ぶどう酒を船首に蒔く。
これは血の代わりで大昔は本当の生餐を使ったらしい。
現代ではシャンパンを使用するが。
ヴァレン一家全員が乗り込み試験を兼ねた処女航海に出る。
港から沖合までは帆を併用し、障害物の無い広い水域で速度試験を行う。
今回は日帰りの小旅行だ。
地中海は比較的穏やかで空気もアフリカからの風により湿度も低い。
安定して他の船には及ばない速力で巡航する「プロメテウス」だが
船尾に来るとジャバジャバと水を掻く音が少しうるさい。
外輪船は20世紀のミシシッピー川等でよく見られた船だ。
スクリューが下に飛び出していないので
水中の浮遊物や水底に接触しにくく浅瀬でも航行出来る特徴を持つ。
これは海からそのまま川を遡れる事も可能だし
港が無い水路でもかなり陸地に接近出来る事を意味する。
この様な特徴は今後大いに役に立つだろう。
帆船やオールで漕ぐ船には労働者が沢山必要だが、
この船ではボイラー室に数人居れば特に甲板には船長以外に船員は必要無い。
今回の船長はヴァレン氏と仕事上の付き合いがある優秀な人で信頼も置ける人だった。
とかくむさ苦しくなる輸送船だが、
「プロメテウス」でのドナは客船の乗客の様に寛いでいる。
依然飽きもせず地中海の島々を眺めてドナが言う。
「いいわねぇ、船って。」ぶどう酒を飲みながらとても幸せそうだ。
「その船も昔の様に安全に航海出来ればもっといいんですけどね。
この船が普及すれば海賊船に追い付かれる事も無く平和に成りますよ。」
と日頃思っている事を言う。
御機嫌なドナは「あぁ、それは素晴らしい事だわ!」と突然頬にキスをする。
後ろでマルコの声が。
「あ?アンディってお母さんと仲がいいんだね?」
「うっ!違う違う!これは違うって!」とマルコを甲板の反対側へ連れて行き
「黙ってろよ?他の人に変な事言うなよ?」と念を押す。
「アンディ、ほっぺたに跡が付いてるよ。お父さんも良く付けてるけど。」
慌てて頬を拭く。
ボイラー室で次の補給先でどの位燃料を買えば良いか
機関士に相談に行っていたヴァレン氏が甲板に上がって来た。
自分は同意を求めてマルコを睨むと彼の目は泳いだ。
冷や汗をかく事もあったが万事問題も無く港に帰る事が出来た。
夕食でヴァレン氏と船長も交えて相談をする。
燃料は薪だと嵩張るし火力も弱い。
自分はブリタニア(現イギリス)で産出される石炭が最適だと助言する。
彼らは石炭と言う物を知らない訳では無かったが、
一般的な燃料では無かったので判断が付かなかった。
自分はそれを使えば高熱が出る事、それにより総重量は減らせる事を説明し
ブリタニアルートから大量に取り寄せて貰う事にした。
現在次の案を実行に移している。
実験船とは別の実用へ向けた新型の蒸気船である。
またその案を実行に移す為の準備として再びアウレス氏に船を用意して貰っているのだ。
今回このプロトタイプの蒸気船をマッシリアへ届け、
その帰りにまた改造に使うベースの船を貰い受けると言う手筈。
アウレス氏には図面、技術者の内の1人を付けそれを参考に現地で複製を生産して貰うのだ。
彼にはそれを可能にする財力が有る。
必要最低限の乗員、自分とヴァレン氏、養成した技術者その他の乗員での旅となる。
今度は地中海の遊覧と言う訳には行かず全速力で一気にマッシリアへ向かう。
前回の狭い車による長旅では無く、船の甲板で寛げるので解放感は抜群だ。
船旅もたまには良い物。
潮の香りを嗅ぎながらの海の旅は心身共に充電される様な気がする。
マッシリアに向かう途中海岸線に沿って航行するので絶えず左側に陸地を見ながらの旅となる。
船上でヴァレン氏と次のプロジャクトに付いて相談を行う。
海賊から逃げきる輸送船の次は海賊をしとめる戦艦だ。
実はアウレス氏がガリア州(現フランス)の提督と面識が有り、
完成の暁には必ず帝国海軍に納品させる自信が有るらしいのだ。
これで俄然やる気になって来た!
そんな時だった、テオドシウス皇帝の死が伝えられたのは。
帝国は2分され、
東ローマ帝国の首都コンスタンチノープル(現イスタンブール)には長男のアルカディウスが、
西ローマ帝国の首都ローマには次男のホノリウスが引き継ぐ。
一人では弱体化した全ての帝国領土を維持出来ないと言う判断だ。
しかし戴冠される2人の兄弟は皇帝には若すぎる少年だった。
これが理由となり後に傀儡政権が始まるのだ。
帝国中の民が喪に服す中、カタラネスの秘密工場はフル操業に突入した。
製作中の蒸気機関2号機、3号機を早く完成させるべく全力でこれに当たったのだ。
マッシリアに到着した我々は「猫じゃらし」と命名した計画を実現する為行動を開始した。
打ち合わせに無かった2隻目の船を急遽アウレス氏に調達して貰い、
プロトタイプ1号船を引き渡し、また全速力でカタラネスに向かった。
エレナというおまけも付いて。
エレナはこう言ったらしい。
「叔父さんは新しい仕事を始めたのでしょう?
だったら私もそれを勉強してはいけないかしら?
忙しいだろうし助けが必要だと思うんだけど。」と。
アウレス氏は将来アウレス家を継ぐ唯一の孫に役に立てばと容認したらしい。
彼女の話によると・・。
まぁ自分としてもエレナに来て貰うのはやぶさかでは無いが。
「アンディ、お久しぶりじゃない?」
「あぁ、まあね」
「あまり返事書いてくれなかったじゃない。」
「だって返事書こうとするうちに次のが届くし、忙しかったから・・。」
「でももう手紙書く必要無くなったからよかったでしょ?」
「あぁ。」
しかしこれからは返事を書くのに費やされる時間よりも
彼女の話に付き合っている時間の方が多くなるだろう。
こうして彼女も「猫じゃらし計画」に参加して貰う事になった。
カタラネスに着くと蒸気機関2、3号機とも完成していて後は取り付けるだけになっていた。
早速ドックで到着した2隻への取り付けと共に、新型の大型蒸気シリンダーの制作に取り掛かる。
財務担当のエレナに言わせるとかなりの支出になるらしいが、
この投資は必ず回収出来ると彼女を説得した。
その後ヒスパニア州(現スペイン)、ガリア州(現フランス)の優秀な武器製造業者、
鍛冶屋を呼び寄せ技術者の養成を行い、
完成した巨大シリンダーを出来次第2号船、3号船に取り付ける。
それ以外の数本は船には登載せず他の使い方の研究、開発を行う。
またアウレス氏に連絡を取り合い提督のコネで戴冠式に参加出来るように取り計らって貰った。
彼(提督)の名で参加する事を条件に。
「猫じゃらし計画」の始まりである。
続く
夕刻の時代§2 マッシリア
目が覚めると21世紀の夢を見ていた事を思い出す。
肉親や友達はどうしているだろう?帰れる宛はあるのか?
しみじみと自分の置かれた立場を考えると不覚にも泣いてしまった。
この家族には自分は事故により未来から来たとは伝えたが、
変化を恐れる権力者に知られると殺されかねないので
口外しないでくれと約束してもらい未来の事は教えられないとも説明した。
此処の朝は早い。
市場へ行って買い付けをしたり、船主と交渉したりするのだ。
マルコは車で行こうとせがむ。
自分としては水素バッテリーの電圧が下がるので遠慮したいところだが、
いろいろ世話になったヴァレン氏は是非乗せてあげたい。
港との往復なら大して電力も使わないだろう。
荷物が多いと困るので一応、荷馬車を牽いて行く事にした。
助手席のヴァレン氏は非常に興奮していた。
前方に馬も居ないのに滑るように走って行くからだ。
通りすがりの人々も横を通過する度に悲鳴をあげていく。
荷馬車はからっぽで馬が居る筈の処には箱があり、
その幽霊の様な荷馬車が猛スピードで通過するのだから。
市場へ着くと早速マルコは食料や飲物を買い付け馬車へ運ぶ。馴れた物だ。
ヴァレン氏の方は大口の輸送船のオーナーと商談が成立したらしい。
戻って来るとヴァレン氏はこう聞く。
この馬車はいづれ力が無くなって止まるのか?と。
そうだ。と答える。
また、どうすれば力が付くのだ?と聞かれる。
自分にもどうして良いか分からない。
肩をすくめてみせた。
もし、その時が来たら?
この上、車まで動かなくなったらこの世界に置いてきぼりにされ、
これからどう生きて行かなければならないのだろう。
この世界に充電スタンドは無いし、家庭用電源も無い。
とても悲しくなってきて海の方へ目を向け物思いにふける。
愛着のある車を手放すのはとても辛い物だ。
せめてガソリン仕様車両であったら石油や油等から燃料を作る手段があったかも知れない。
と、物思いにふけり海を眺める。
輸送船は帆に風を一杯に受け力強そうだ。
力?そうだ!
急いでヴァレン氏の処に駈け付け相談を持ちかける。
用件はこうだ。小型の帆船用の帆を手に入れられないか?と言う事だ。
港の外れの造船所に行き、まだ組み立てて居ないマスト、帆、ロープ等を手に入れ、
今度は鍛冶屋へ向かう。
車を持ち込みフロントフェンダーのトランク部分にマストが立つ様に台座を取り付けて貰う。
半日掛かってマストをフロントに立てたポルシェ911が完成した。
もう、日が傾いている。早速テスト走行だ。
帆を斜めにして海から来る風を受け流す、
と同時に少しだけ傾けた帆に当たる風の反作用で前へ進むのだ。
これは横流れしないフィンキールを持つヨット等が使用出来る技術である。
追い風で無くとも横からの風でも前へ前進できるのだ。
(限界はある。正面からの風には対処のしようが無い。)
窓を開け、心地よい風を受けながら回帰電力ブレーキ(発電機)
によりバッテリーの電圧は持ち直して行く。
フル充電とはいかないが、この帆による走行を併用すれば安心して長距離も走れる。
家路に付くと早速皆で旅行の話になった。
しかし自分としてはフル充電して安心したい処だ。
古代では前代未聞の乗り物によるツーリング。
夕食はテーブルの中央に地図を広げいつ行こうか、何処へ行こうかの議論となった。
自分はなるべく風の力を使いたいので海岸沿いの国道を使用する事を勧めた。
唯一驚いたのは奥方も行く気になっている事だった!
ここはカタラネスと言う場所で、現在のバルセロナ市に比べるとかなり小さな街である。
しかも街の中心地は現在よりも海に近い。
ヴァレン一家は荷物を運ぶ以外は殆ど駅馬車を利用し、
高層マンシオーネ(馬車駅ホテル)【マンションの語源】には
休憩所兼事務所に使用する部屋まで用意していた。
今で言うならホテルの一室を事務所に借りている様な贅沢だ。
自家用の馬車も持っているが、最近治安が悪く大事にしている馬を失うのを恐れているのだ。
もう、すっかりこの一家にはお世話になってしまって仕事を手伝いたいのだが、
荷物運び以外に手伝える仕事が無い。
何か役に立つ事は出来ないだろうか?
自分ではこの時代の地理に詳しく無いので、皆が用を足す間事務所で勉強する事にした。
この辺は内陸へ物資を運ぶ為の中継地となっている。
ここまで海路で運ばれた荷物を陸地へ乗せ代える訳だ。
早めに帰ってきたドナが事務所に寄った。
知らない単語が出た時はホログラフウォッチのお世話になっていたが、
すでに日常の簡単な会話なら意志は伝わる位にはなっていた。
彼女はテーブルを挟んで身を乗り出し地図のいろいろな場所を指さし、アドバイスをしてくれた。
自分と言えば、彼女が魅力的なのと顔が接近している事もあり、
どぎまぎして話など頭に入って居なかった。
そんな事を知ってか知らずか彼女は愛想良く振る舞ってくれるので、
無口に成りがちな自分にとってはその場の雰囲気を楽しむ事が出来た。
そうこうしてるうち、皆が用事を済ませて帰ってきた。
ドナは先程と変わらない愛想で主人と息子に応対した。
自分も家族の一員に認められているのだろうか?
この家族には良くして貰い名残惜しいが、いつかは此処を出て行かねばならない。
明るくそれぞれの報告を聞く家族を眺めながら物思いにふける。
「では行きましょう?」の声ではっと我に返り自分の仕事を思い出す。
市場の馬車が置いてある方へ急ぎ足で向かう。
最近愛車は充電の為に帆で走らせる事が有ってもあまり外には持ち出さない。
彼らも乗りたいのは山々だが、早く車に充分「力」を付けて貰い、
ツーリングに出掛けたいのだ。
仕事が有るので1日中帆走している訳にもいかず、なるべく合間に充電をしていると言う訳だ。
荷馬車に荷物を積んでいると現代でも聞かれる夫婦の会話が聞かれた。
ドナは旅行に備えて新しい服を買ったのだが、
ヴァレン氏はそんなの家にあるだろ!と言っているのだ。
ドナは前に買ったのとは違う、これはこれで必要だ、
と馬車に乗っている間中ずっと弁明していた。
屋敷に着くと既に旅行の行き先は決まっていた。
マッシリアだと言う。聞けばドナの実家が在るらしい。
彼女の実家も貿易業らしく裕福な家庭だったらしい。
此処へ嫁入りしてから何回も帰って無いので是非この機会にと、
旦那を納得させたらしいのだ。
車は数日以内には出発しても良いと家族に伝えて在ったので、
もう彼らは殆ど準備が出来ているらしい。
しかし、ポルシェ911に4人で長旅は困難だ。
大人2人は前席に乗れるが、後部座席は狭く長旅には窮屈だろう。
どうしよう?安請け合いをしたこちらにも責任がある。
フロントのトランク蓋のパネル(ボンネット)を
マストを立てる為に取り外しているので、マルコにそこへ座って貰うか?
そうすればドナは後部座席を1人で横になって寛げる事が出来る。
マルコに聞くと喜んで是非そうしてくれと言われた。
結果オーライとしよう。なんとか4人で快適な旅ができそうだ。
地図で確認しても海岸線に沿って国道1本で行ける。
しかも大陸の奥へは交通量が多いが港同士の交通は船が一般的なので、比較的道路は空いているのだ。
トランクには追い風用の帆も念の為積んで置いた。
取り外したマストは車の後部から屋根に架けて積めるように鍛冶屋にキャリアを付けて貰っている。
車の前まで突き出たそれは911を甲虫に見せる効果を持っていた。
同じく屋根に乗せた鞄などの荷物も甲虫の背中の角の様に見えて滑稽だった。
いよいよ旅行の日だ。
街を出るまでは電力による通常走行で行き、交通量が少なくなってきた所で帆走に切り替える。
今回は追い風用の帆(スピンネーカー)を試す。
これは微風でもしっかりと風を捕らえ、風向きの変化には弱いが長距離には向いている。
南からの風は順調に吹き、バッテリーもほぼフル充電だ。
途中2ヶ所マンシオーネ(馬車駅のホテル)で休憩した以外は殆ど走りっぱなしだった。
マルコも最初のうちは特等席(前部トランク)ではしゃいで居たが、
1日も経つと畳んだ残りの帆の上に丸くなって寝ている。
皆が口を揃えて言うには馬車に比べれば断然に静かで乗り心地が良いと言う事だ。
ゴムタイヤとサスペンションの効果は絶大だ。
マッシリアに着いたらしい。
【Massilia:フランス-マルセイユの古代名】
ローヌ川の近くにあるこの港は古くから海洋貿易で栄えていた。
市街地に入る前に帆を畳み漁網で飛ばない様にトランクの中で抑え付ける。
その上にマルコは正面を向いて座って居る。
幼い時に来た事が有るらしいのだが、初めて見る街の様に真剣な眼差しだ。
おそらく覚えていない程幼かったのだろう。
此処は確かに今までの街よりは立派で綺麗だ。
近付くにつれ建物の装飾も凝った物だと関心した。
ある城の様な屋敷の前まで来るとドナは「此処よ!」と声の調子が高まり、
まるで少女の頃に戻ったかの様なはしゃぎ振りだった。
門を通過し敷地の中を通って行くと老人を先頭に数人が屋敷の中から出迎えに来た。
ドナの騒ぎ方に比べるとヴァレン氏の方はむしろ緊張している様に見える。
最初はにこやかに近付いて来た老人だが、側へ来ると「馬はどうした?」と一言。
「説明が長くなりますので。」とヴァレン氏が後を引き継ぎ屋敷へ向かう。
車はと言うと、強引に馬を取り付けられ馬小屋の方へ引っ張られて行く。
今まで気が付かなかったがこの方法でも充電ができるかも知れない。
使用人が荷物を運び、取り敢えず応接室に落ち着くと此処、アウレス家の紹介が始まった。
先程の老人はドナの父である。
母親はこの前に来た時に亡くなったらしい。
前回は臨終に駆け付けたのだろう。
その老人に連れ添う様に横に居る、ほっそりとして落ち着いた感じの女性はドナの姉だと言う。
また、後ろに控えて腰の低いのはその旦那さんと紹介された。
食堂に場所を移し会食となる。
そこで新たに若い女性がドナから「姪のエレナです。」と紹介された。
初めまして、と一応在り来りな言葉を掛ける。
歳は20代の始めというところだろう。
両親と比較するとかなり活発な印象を受ける。
実は今まで馬小屋で車を見物していたらしい。
次々に自分に向かって質問をするのだが、ヴァレン氏は此処ぞとばかりに自分を差し置いて話し出す。
義理の父親に対して注目をされたいのだろう。
自分は答えようと口を開いたのだが、ヴァレン氏の方を見てゆっくりと口を閉じる。
エレナはそんな自分を見て目配せして微笑むのだった。
この日は夜まで話しが盛り上がり、いろいろな話題が尽きず楽しい一時だった。
疲れたので早めに就寝する。
ヴァレン一家は2、3日此処に滞在する予定だ。
朝、食堂へ行くとヴァレン氏が「若い者同士、海にでも行って来たらどうだね?」と言う。
即答はせず「そうですね?行ってみます。」と言葉を選んで返事をする。
エレナに「海に行かない?」と言うと間髪を入れずに「行く~!」との返事。
彼女は直ぐ部屋に戻り支度をすると階段を音を立てて降りて来た。
その行く手を遮るマルコ。
「僕も!」
「ま!あんたも行くの?」
「うん。」
「本当に行くつもりなのね?」
「うん。」
子供は遠慮しない者だ。
と言う事で、3人でのドライブとなった。
マルコは後部座席の窓から地平線迄続く景色を眺め、比較的大人しくしていた。
エレナは上機嫌だった。
今まで不機嫌な処を見た事が無いが、それでもいつもより上機嫌に見えた。
馬車と比べ物にならない位のスピードと滑る様に走る初めての車に興奮している。
オーディオメモリのお気に入りのポップな曲を選択する。
「何か忙しい曲ね、ちょっとうるさいわ。」と言われてしまった。
無難にクラッシックを試してみるがこちらの方は気に入ってくれたらしい。
「この音楽は何処から来るの?」と聞かれ、
電気も知られていない世界でどう説明したら良いのだろうと思案した。
「これは音楽を記録しているんだよ。」
「どうやって音を?」
「あぁ、なんと言うか・・音楽の空気を貯めてあるのさ?」
「ふ~ん?」
そう言う事にしておこう。
昨日何回かお世話になったホログラフウォッチに付いても
声を含んだ空気を貯める技術があるんだよ。と言う説明で済ましておいた。
渚に着くとマルコはいつの時代の子供も同じ様に浜辺で1人遊びを始めた。
折角なのでこの際、泳がせてやりたかった。
彼には退屈しないようにスペアタイヤを与え、浮き袋として遊べるようにアドバイスをした。
彼は早速タイヤの上に腹ばいになりバタ足で沖の方へ行き、波と戯れる。
要領の良い奴だ。
彼女と言えば車に掛けた帆の陰で着替えを済まし、既に波の狭間に居る。
自分はマルコの様子を見てトランクの今は使われていないウレタン製の仕切板を
ボディボードよろしくその上に腹ばいになり彼女の方へ向かった。
彼女はそれを見るや大喜びで歓声をあげて俺に近づき、それを奪った。
彼女の水着はよく似合っていて、21世紀の女性と比べても全く遜色が無い魅力を持っていた。
昼食にはパンと果物と言う簡単な物だったが、屋外、特に海で食べると言う事は素晴らしい事だ。
普段食べ慣れている物でも美味しい気がする。
午後は軽く腹ごなしをした程度で早めに引き上げる事にする。
今日はマストを積んでいないので視界を妨げる物が無く景色が楽しめて爽快だ。
帆走も楽しいが、これが車本来の楽しみでもある。
開けた窓からは涼しい風が入り、火照る身体には気だるくも心地よい感覚だった。
エレナとマルコはとっくに居眠りを始めていた。
傾いた日差しには助手席のエレナの髪を透かし、その整った顔は神々しくも見える。
音楽のボリュームを下げ、20世紀末期ダイアナ妃(UK)の為に作ったと言われる
エルトン・ジョンのバラードを聞きながら、静かな落ち着いた帰途となった。
アウレス邸に着くと皆が出迎えてくれ、各自がシャワーを浴びた後夕食と言う事になった。
自分はと言えば日没前に洗車をしておきたかったので馬小屋に寄った。
砂塵を被ってしまったし海に行った後は洗車しておくに越したことはない。
ボディ、シャーシ等はカーボン製なので錆びる心配は無いが、金属製部品も多いので念の為だ。
大急ぎでざっと洗車を終わらすとシャワーを浴び夕食に間に合う様急いで着替える。
自分が席に着く頃にはとっくに準備が出来ていたらしい。
「遅くなりました、すいません。」
エレナとマルコは仮眠を取ったせいか元気だ。
自分は急いで洗車をしてきたせいもあり、ちょっと疲れている。
早く休みたい。
ドナが「みんな、顔赤いわね?」と言う。少し日に焼けたようだ。
エレナも自分の方を見てにこにこしている。
楽しく食事も終わり、皆もう片付けを始め、各自部屋に戻り始める。
身体が火照って熱いのでテラスへ涼みに出る。
月を眺めていると、あの日の事を思い出してしまった。
あのクレーターで目覚めた時の事を。
エレナがそっと後ろからテラスに出てきたのに気付き、後ろを振り返って
「今日は楽しかったね?」と声を掛ける。
エレナは頷き微笑む。
ランプや月明かりの明るさを差し引いても彼女の顔は明るく輝いている。
決して日焼けやぶどう酒ばかりのせいでは無いと思う。
顔を上げゆっくりと瞼を閉じる彼女を思わずそっと引き寄せた。
続く
夕刻の時代§1 陽の堕ちる国
20XX年。
それは宇宙望遠鏡のデータに異常な兆候が発見された時から始まった。
宇宙の彼方から巨大な質量の塊が太陽の裏側まで移動していたのだ。
そしてそれは人類が気付く頃には既に太陽表面から地球付近にまでに達していた。
その回転して偏平になった極小ブラックホールが地球の大気に衝突すると、
通過した範囲の物質は消失し、それはまた宇宙の彼方へ飛んで行った。
地表に衝突した時の衝撃波によるクレーターを残して・・・。
昼も大分過ぎて日も傾いてきた頃。
バルセロナの青年、&y@kins(アンディ アトキンズ)は道路脇で
ガードレールに腰掛け、友達の~☆(ウェブスター)を待っていた。
ふと空を見上げると太陽辺りから巨大な流れ星の様な物がどんどん近付いて来る。
見た事も無いその光景にそのまま呆然としていると、
あっという間に空が真っ白に発光し目がくらみ、何も見えなくなった・・。
気が付くと自分は競技場程の広さ程のクレーターの淵に倒れていた。
その卵型の窪みの中央は深くえぐれ、巨人がバンカーショットを打った後の様だ。
その大きく窪んだクレーターの中央に行って見た。
そこには自分が居た周辺の歩道の敷石、植木、車の屋根、
切り離されたガードレール等が散らばっている。
何処へか飛ばされてしまったようだ。
残骸をもう1度よく確認する。
車の屋根?近くにアンテナらしき物も砂から突き出している。
取り敢えず掘り出してみよう。
ここが何処であろうと街にはたどり着けるだろう。
何かシャベルの代わりになる物を探す。
ガードレールの切れ端を代用する事にした。
これらの残骸は爆発で飛ばされたにしても、このガードレールを切り離した物はなんだろう?
レーザーか何かではないとこうはきれいに切れないだろう。
疑問を感じつつ数時間掛かってやっとそれは姿を現した。
それは道路脇に停めてあった、2028年式ポルシェ911EVだった。
このポルシェ911EVはメーカーとして環境に無関心では無いと言うところを
示すために作られたエレクトリックヴィークル(電気自動車)である。
環境問題がうるさくなってきたこの時代、真っ先に非難されたのがいわゆるスポーツカーメーカーだ。
高出力な燃費の悪いエンジンばかり作って環境に配慮してないではないか!と言う事だ。
これはそう多くは生産して無いがEV車でもマニュアルミッションでスポーツ走行を楽しめるモデルだ。
しかも動力系はコンパクトで、911の特徴であるRR(リアエンジン・リアドライブ)の通り
車体後部にパワーユニットが搭載されている。
平たい水素バッテリーはボディ下部に収まり、フル充電で500kmの走行を可能にしている。
ブレーキは回帰電力式となっていて減速時には発電機となりバッテリーへ電力を充電する。
20XX年のEUでは主要道路に使われているソーラー道路も近くには通って無い様だ。
ソーラー道路は太陽光で発電し、走行中の車に充電するシステムなのだが、
充電スタンドかソーラー道路が無くてはこれからの車での移動は不安だ。
鍵が掛かっているのでガラスを割ってドアを開ける。
そしてエンジンルームを開けバッテリーからの配線をセキュリティキーシリンダをバイパスして
直結しモーターが回る事を確認。
さらに始動ボタンを押せばモーターが回るように配線しておいた。
電圧は充分では無いが、これで新しい展開になってきた。
まぁ、不幸中の幸いとでも言うべきか?
前部ボンネットのトランクには持ち主が釣り好きだったらしく釣り竿が入っていた。
ディスプレイコンタクトレンズの視界の隅に表示してある【COMMAND MENU】の
【ZOOM】と【range】を選択し【ENTER】に視点を移す。
目の前に数百メートル先の風景が手の届きそうな距離に映る。
周囲の地形を確認するとクレーターの周りには建物等の姿は無かった。
ここは何処だろう?なぜここへ居るのだろう?
インターネットにも繋がらない。
ディスプレイコンタクトレンズの電波受信表示は圏外だ。
このアイテムは無線充電システムなので
このままではバッテリー切れを起こしてしまうだろう。
少なくとも近くには街は無い様だ。
地平線まで変わり無い草原が続いているだけの景色。
なんか、とてつも無い場所に居るらしい。
日もくれたので車の中で就寝する事にする。
疲れ切っていたのですぐに熟睡する。
夜が明けると朝日が車を照らし、眩しさで目を覚ます。
ディスプレイコンタクトレンズのサングラス機能を使おうと思ったら
【COMMAND MENU】が表示されていない。
とうとうバッテリー切れになってしまった。
また車の周りの砂を掘らねばならない。
ようやくタイヤが出て走れる様になったのはもう、日が高く上がった頃であった。
腹が減ってきたのでまず、食料を調達しよう・・。
風が吹いてきた。微かに潮の香りがする。
海に行けば食料にあり付けるかも知れない。
僅かな可能性でもそれに賭けよう。5kmも走ったであろうか。
海が見えてきた。遠くには漁船も見える。
なんとか餓死するのは免れそうだ。
渚の手前に911を残し釣り竿を抱え釣りの準備に掛かる。
岩場に座り糸を垂れながら左腕のホログラフウォッチをGPSモードに切り替えてみる。
なんと、衛星が1個も捕まらない。
電波の基地局も衛星も捕まらないなんて、いったい此処は?
と考えているうちに晩飯がかかったようだ。
もう、とっくに日が傾き夕日が綺麗だ。
何の魚かは解らないが食べるしか無い。今日は何も食べていないのだから。
さて魚でも焼くか?釣具の道具入れにライターが有ったのは幸いだった 。
自分は煙草は吸わず持ってなかったからだ。
流木や枯れ草を集めなんとか火を起こすと魚を串刺しにして火であぶる。
もう、日が落ちる。寝床が他に見つからない以上、車に戻らねば。
車での2日目の就寝。ここからいつ帰れるのだろう。
そしてここはいったい何処だろう。
移動する度に車載のナビゲーションシステムでもGPS衛星を探す。
依然として衛星が1つも見つからない。
最終位置の表示は自分の居た街となっている。
だが、現在そこには草原しかなかった。
どうも、これはあまりあてに成らないのかも知れない。
この辺は夜になっても明かり一つ見えない。
地平線に船らしき物の照明が微かに見えるだけ。
近くに港も無いようだ。かなりの距離の所を運航している。
まぁ、誤差があるとしてもナビゲーションマップを参考にすると
大きな街の港までは北に行った方が良いらしい。
早朝に北へ向かう事にする。
朝日と共に目が覚める。
車のナビゲーションシステムを地磁気による自立航行システムに切り替え、
人工衛星のデータに頼らないナビゲーションで航行する。
それにしても地図上に存在する自分の居た街は何処へ行ってしまったのだろう。
しばらく海岸線に沿った道路を走って行くと明らかに民家が存在する街並みが地平線に見えてきた。
道路も石畳で歴史が有りそうな街だ。
だが、自分が目指しているのはバルセロナ市なのだ。
ここには旧市街地の様な低い街並みしか確認出来ない。
取り敢えず市街手前の港に寄る事にする。
港に寄ってみるとどれもこれも木造船ばかりで漁船に至っては帆船である。
低い高速挺らしき物はムカデの様にオールが並んでいる。
映画のセットだろうか?
又、人々の会話の発音から少なくとも自分が生まれた国の言葉では無い事は確かだった。
賢そうな子供を捕まえ(年の頃は10才位だろうか。)
2、3聞いてみる。ここは何処かとか食料は無いかとかを。
全然通じないらしい。
シャツの袖をまくりホログラフウォッチで会話を試みる。
イタリア、フランス、スペイン語等で数単語ヒットするが、
用意されている外国語ではうまく変換する事ができなかった。
彼は漁師の子には見えなかったが、この辺は詳しいらしく市場へ連れていってくれた。
パンを幾つか袋に入れ食料を確保する。
パン屋の親父が胡散臭そうにこっちをじろじろ見ている。
財布からユーロカードを出しその親父に突き出す。
が、手を払いのけられカードは地面に落ちてしまった。
カードを拾いその親父を見ると凄い形相。今にも殴られそうな勢いだ。
それを見ていた子供は間に割って入り、その親父と怒鳴り合っている。
その子供が腰からコインを取り出し、奴に渡した。
どうもゴチになったらしい。
ありがとう、と言うと笑って付いて来いと手招きをする。
港の入り口に車を停めてきたのでそっちに先に寄ってもらう。
馬車と並んだ愛車は一際目立つ。
なめる様に車を眺める子供に少しは残っているプライドをくすぐられる気がした。
車に乗ってもあれこれ質問攻めにあうが、
運転中、ホログラフウォッチを操作出来ないので話が理解出来ない。
ナビゲーションシステムを起動すると又、騒ぎだし何度も同じ所を指さす。
あぁ、此処へ行けって言うんだな?
子供が指さした辺りを目的地として確認をすると彼は満足そうに頷いた。
1kmも走らないうちに大きな屋敷が見えた。
門から建物まで200mは在りそうだ。かなりの富豪らしい。
と言う事は金持ちの子供か。
驕ってくれるあたり気前が良い。
門を通過して離れに馬小屋があるのでそちらへ車を停めた。
こんな金持ちならスポーツカー位持っていそうなのに、
この屋敷には運転する人が居ない為か他に車は見当たらなかった。
車から降りるや否や使用人らしい人々が出迎え、子供は偉そうに何か指示をしている。
1人が突然屋敷の方へ走りだし建物の中を走り回る足音と大声が聞こえる。
ここの主人が出てきた。おそらくこの子供の父親だろう。
子供がすぐに駆け寄りこちらと馬小屋の方を指さし説明をしている。
一頻り話を聞いた父親はそこからこちらへ歩みだし、微笑みながら何か質問した。
響きはドイツ語の様で在り、スペイン語の様でもある。
子供(マルコと呼ばれていた)はその間にも父親に港での経緯を説明してる様だった。
話が長くなりそうなので屋敷に案内され、食堂で豪華な会食となった。
久しぶりの御馳走を前にして主人(ヴァレン氏と紹介される)は一向に解放してくれない。
質問の合間に急いで食べ物を口に押し込む。
知らない単語が次々と増えるので新たに100近い音声単語登録を行い、
意味の説明を受けるのに時間を要した。
彼は貿易商人で此処ではかなり羽振りが良いらしい。
それでも此処の文化水準はどうだ?電化製品の類は一切無い。
召し使いが数冊の地図や書物を持ってきた。
現在の場所の確認。イベリア半島を指さし、此処だと言う。
間違い無い、そこにはバルセロナ市がある筈。
だが、此処はどうだ?オリンピック会場跡も無いし、
スペインの誇るガウディのサグラダファミリアも地図に載って無い。
彼らにとって自分は明らかに特別な人間らしい。
何よりもポルシェ911EVとホログラフウォッチに興味を持っている。
それらを売らないか?と聞いているらしい。
が、丁重にお断りをした。これらは自分が故郷に帰る為に必要なのだ。
それ無くしては不案内な土地から帰る事は不可能だろう。
良く使う単語の登録を済ませた後には音声データの確認と文法のチェックを行った。
完全なラテン語と言う事が分かった。
現代では学名や医学用語に使われる程度の古代のヨーロッパ共通語だが、
単語はいざ知らず文法の複雑さと言ったら簡単に覚えきれる物では無い。
口語では少し砕けた表現でも何とか意味は通じる。
少しはこちらからも話さねば。
自分が住んで居た街の状況、
家族や友人に連絡を取りたいのだが何処へ行けばいいのかを聞く。
ホログラフウォッチはラテン語の音声データを発生、
入力を出来るように設定したので会話は今まで以上に進展した。
この土地の事を詳しく聞いてみる。
マルコが大きな世界地図を取りに行って戻ってきた。
そしてテーブルの上にそれを広げた。
地中海を取り巻く広大な領域。そして「S.P.Q.R.」と在る。
[Senatus Populus Que Romanus]
「元老院 人民 並びにローマ市民」ローマ帝国の公称だ!
いやな予感はしていたが、在りえない話しだ。
此処はまだローマ帝国が続いていると信じている
文明から閉ざされた土地なのではないだろうか?
何の時代か聞いてみるとローマ建国から1148年だと言う。
テオドシウス帝の時代だ。
西暦で言うと4世紀末期、彼の死により帝国は分裂しゲルマン人、
ペルシャ人の勢力が強まり帝国が一気に衰退してしまう時代なのだ。
これが5世紀になるとヨーロッパは完全に蛮族の支配に屈する事になる。
ローマの至福の千年紀(ミレニアム)が終わり
民族紛争、宗教戦争に明け暮れる千年の中世暗黒が始まる時代だ。
これが本当だったら大変な事だ。
ありえない話だが、どうも全ての事が符合する。
ナビゲーションシステムによれば海岸線は多少の誤差はあるが地図通りだし、
場所に関しては信用出来る。
つまり、あの隕石?のショックで本来の時間から外れたとしか言い様が無い。
僅かな望みは捨てては居ないがきっと帰って見せる!
こんな理不尽な事があってたまるか。
会食は一旦お開きになったが数時間後にまた晩餐会を開いて貰った。
今度は奥方、ドナも紹介され話が弾んだ。
彼女は自分の名前は変わっていると言う。
ローマ領土最北のブリタニア州(イギリス)出身なので、と言うと皆納得した。
子供、マルコの愛らしさは母親譲りと実感した。
母親、ドナは自分より年上に違いないが若々しく、かなりの美人だ。
この世界に来て、初めて楽しい時を過ごせた。
自分にあてがわれた寝室で一人になると酒と疲れている為か、直ぐに眠ってしまった。
続く
撮った覚えのない写真
自分はアメーバの他に画像倉庫としてGoogle+やGooglePhotoもやってるのですが
Google+にはおまかせビジュアル機能と言うのがあって
保存した連続する写真の中から写真を勝手に合成し生成するのです。
(オプション設定で自動作成OFFにすれば起こらない)
以前は雪を降らせたりキラキラ光らせたりしてましたが
最近はそう言う画像が加工されないので廃止になったみたいです。
いくつかの動画をアレンジし、音楽まで付け加え、
勝手に編集された動画を「新しい動画が完成しました!」と見せられた事もあります。
今回びっくりしたのはボツ写真を拾ってきて作ったらしい「パノラマ写真」。
どこをどうくっつけて作ったのか分からない程良くできてます。
しかし、現実の写真ではありません。
これからもどんなびっくりする事が起きるかちょっと期待してるので・・
おまかせ自動作成機能はあえてONのままにしています。
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