渋谷のМ出版のKさんとランチの約束をした。

彼とも久しぶりだが、渋谷も何カ月ぶりだろうか。

Kさんとは、TSUTAYAの前で午後1時に会うことにした。

仕事で都内に行くのは、スガ婆がデイサービスに行く月、水、木と決めている。

午後6時に帰ってくるので、渋谷を4時半に出れば家には6時15分前には着く。

それまでは、渋谷で思う存分遊べるのである。イエーイ。

というわけで、ボクは1時5分前にBOOKOFFに行った。

そして、何の疑いもなくKさんを待った。

時計はちょうど1時。だが、Kさんは現れない。

1時5分。Kさんはまったく現れない。

何かおかしい・・・はっ・・・まさか・・・

そう、ボクは完璧に勘違いをしていたのだ。

BOOKOFFではなく、TSUTAYAで待ち合わせだった。

またやってしまった。これで何回目だろうか。

どうしていつも間違えるのだろう。

若年性認知症の文字が頭に浮かぶ。(ゲッ)


でもそれは、おおかた見当がついている。

うちの近所にあるTSUTAYAはBOOKOFFと併設している。

だから、TSUTAYAにDVDを借りに行くときも、

「BOOKOFFに行ってくる」と、つい言ってしまったりする。

言ってみれば、関ジャニとSexyZoneを間違えるようなものか。

いや、店名が似ているようで似ていないから、

前田敦子とまえだまえだを取り違えるようなものかもしれない。


ということで、ボクは一目散にTSUTAYAへ駆けた。

駅の正面にあるから間違えるほうがどうかしている。

しっかりせんかい、こら! と脳に言う。

それにしても渋谷のTSUTAYAって全然違う。ほかの店と。

そう、いわゆるド派手ないつものコーポレートカラーではなく、モノクロだ。

まるで漂白剤で洗ったスガ婆のパンツのように、

黄色みを帯びてはいるが、限りなく白に近い看板。(そんな例えはいらん)

そして、そこにはスターバックスを併設している。

都会的な洗練されたTSUTAYA。

近所のとは違う、カッコいいTSUTAYA。

もし、そんなTSUTAYAが近所にできたら、

今度はスターバックスとTSUTAYAを間違えるのだろうか。

脳って、奇妙だ。


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「来週、飲みにいきませんか?」 

と、Nさんから誘いのメールがあった。

ああ、Nさんか・・・と少し憂うつになる。

同業のライターさんで、一度、仕事を依頼したことがあるが、

これがなかなか、雑。

インタビュー記事が欲しいのに

ほとんど事前資料をまとめたような記事を平然と送ってくる。

そんな、大胆不敵で超大雑把な中年男。

しかも子供が6人もいて、まだほしいようなことをぬかす絶倫ちゃん。

まるで子作りマシーン。ネズミか、あんたは。

そういえば何となくネズミ顔のNさん。

子作りに余念がないというか、子作りのために生きている顔だ。

オイラにもわけてほしいっす、ってバカな考えはさておき、

子作り以外に魅力を感じない、このネズミ男の誘いにボクは、

「すみません、介護があるもんで」

と、言って断った。しかもメールが来て二日後に。


「悪よのお、お前さんも。母親をダシにするとは。貴様のような悪は打ち首じゃあ」

「お代官様、それは違えますだ。あっしは本当に介護で忙しいんでさあ。たまに叩いたり、死ねとか言ったりしますが、それは本心ではなく、出来心というか若気のいたりというか。でも本当は愛しているんです。だって、だってオイラの母ちゃんなんですから、クウウウ」

「そうか、そちも大変のよお。ならば無罪放免にしてつかわす」

「あ、ありがとうごぜえますだ、お代官さまあ」


ということで、ボクはスガ婆の介護を理由にせっかくの誘いを断った。

この断わりの理由はまったくの嘘ではない。

スガ婆の通う小規模多機能型デイサービスは、最終夜9時過ぎに送り届けてくれる。

仮に東京で飲むと自宅まで1時間半はかかるので、7時半には店を出なければならない。

ゆっくり飲むためには、5時くらいから飲む必要がある。

だけど、5時から飲んでくれる人はそうはいない。

つまり、東京だとゆっくり飲めないので、泣く泣く断わるのである。


以上が半分の言い訳。

あとの半分は、仕事が雑なのに大家族をつくる、

このヘラヘラな生き方にボクは賛同できないのである。

せめて3人で終わりにしていたら・・・


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何事もなく終わろうとしている夜は不安だ。

スガ婆が布団に入り、すでに10分ほど経過した。

疲れているとそのまま寝入るが、そうでないと寝ない。


そう、この日は疲れていなかった。

いきなり襖が開く。さっそうと現れた、認知姫スガ婆。

「ばっ、寝てしもうたばい」

寝たことを悔やんでいるようだ。

そしてそのままトイレに直行する。

用を済ませると、居間のテーブルと椅子を押したり引いたりして、

それらが正しく整列していると思い込むまで行う。

やがて寝床に入る。だが、それで終わりではなかった。

これはただの序章にすぎないのだ。


どこからともなく聞こえる、「ゴジラ」のサウンド。

音楽に合わせて、再び襖がパーンと開いた。

そして、悪魔のささやきが家中を恐怖におとしいれる。

「ばっ、寝てしもうたばい」

もちろんトイレへ。しばらくして、開けっ放しトイレの中から、

ジョジョジョという小便の音が・・・

その間、2秒。それ以上はしない。(あんたは鳥か)

そのままトイレを出ると扉を閉めて寝床へ。


その夜はそんな行為が30分ほど続いた。

10回以上はトイレに行った。近いにもほどがある。

紙オムツを履いているが、それで用を足すことはない。あくまでもお漏らし対策だ。

いつも多いが、この日は特に多かった。

おかげでトイレットペーパーは激減し、水も大量に消えた。

<そういえば水道代三カ月分未納だ、やば>


静かになったスガ婆の部屋をそっとのぞくと、

布団が90度回転し、毛布と枕が部屋の隅に飛んでいた。

掛布団はというと、雪だるまのように丸くなって、その中でスガ婆は、

これが正しい寝方じゃあ、と言わんばかりに寝ている。

<どんな寝方なんだよ!>


布団をはがすと、「うう(やめてケロ)」とスガ婆がうなる。

まるで冬眠を起こされたミノムシ娘。

トイレからの一連の行動は家にじっとしていた運動不足解消のためか・・・

あるいは何らかの考えがあってのことか・・・ないない


この日、最も長くて濃厚な30分がこうして終わった。

ぐったり。



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日曜は朝からふたりきり。

暗黒の休息日である。

案の定、よせばいいのに早起きだ。

パソコンを打つかたわらで、スガ婆が独り言を言っている。

「あんでねえ、オリがわるかったとよ」

なにやら自分を責めているようだ。

「ばっ、ヒー様がいっぱいばい」

窓に顔をつけて日差しを浴びている。

「ばっ、オナゴ衆が走っていったばい」

どこかのおばんさんが自転車で走って行った。

ああ、今日も始まった認知なサンデー。

あまりにうるさいので、外に連れ出し散歩した。

口もきけぬほどに疲れさせてやろうという作戦だ。


まっすぐに延びた住宅街の道を無言で歩く。

いや、無言なのはボクだけ。

スガ婆はあらゆるものに話しかける。

「元気だね、よかったね」と松の木に話しかける。

「ごめんなさいねー」と猫に謝る。

いったい何をしたっていうだ、猫に?

「よしよし、よしよし」とポストを手でなでる。

やめろって、ポストが迷惑すんだろ!

「ばっ」

今度はなんだよ。

「カギ、掛けてきたかねえ?」

たら~ん。認知のくせに妙なところに気が回る。

やがて家から200メートルほど歩いて、Uターン。

ヒー様が照って、微風が頬をなでる。

もうすぐ春、でも心は冬。

わずか15分ほどのミニ旅行がこうして終わる。

かなり疲れた様子のスガ婆。

ひなびたナスのような顔で家に入る。


「疲れた?」と聞くと、

「うんにゃー、ぜんぜん」と答える。

決して本音を言わない、明治の女。こんな女に誰がした、ああ、罪深き女よ。

思ったとおり、スガ婆は疲れて寝た。

ソファに仰向けになり、うー、うー、とうめき声をあげている。

岩の隙間から風が漏れるような、枯れた声。

いつしか、わが家が呪われた館となる。


パソコンを打つのを止め、コーヒーブレイク。

いったい何のための散歩だったのか。

思うようにいかないブラックサンデー。


コーヒーメーカーがタンの絡んだ老人のようにガラガラと音を立て、

それに同調して、スガ婆がウウ、ウウとうめいている。地獄じゃあ~。



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今日も来ましたメジロご夫妻。


朝、家の窓から手の届く木の枝にミカンを差しておいた。

目ざとい彼らは、すぐに見つけて、

ちゅいーん、とやって来た。

メジロと目が合うが、

すでにミカンを食べ始めていたため,

少々のことでは逃げないのだ。

さすが、野生児。


そこで、すかさずカメラを構えると、

こっちを見て、ん?、と首をかしげる。

でも、すぐに、「まっ、いっか」と食べ続ける。


チャンス! バシバシバシ・・・

ってな感じで撮れたのでした。



スガ婆が行く-mejiro1




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