地球規模の変動で海面が260㍍上昇した未来―。

 

「華竜の宮 上」

上田早夕里著 ハヤカワ文庫

(398頁)

 

 地球を襲った大変動の様子を描いたプロローグの後―、

 (大変動については、前回のブログでやんわり書きました)

 

 25世紀の海上都市・エア01から物語はスタートします。

 ※

 主人公・青澄誠司(アオズミ・セイジ)は、外交官をしています。

 ある晩、急報を受け、港湾ブロックで”獣舟(ケモノブネ)"という怪物と対峙しました。

 

 ―獣舟とは、“魚舟(ウオブネ)”という巨大生物が変異したモノです。

 

 魚舟は遺伝子改造された海上民の“対”として、一緒に生まれる生物です。その“稚魚”は海で成長し、元の群れへ戻ってきます。

 海上民はその巨大な魚舟(全長30㍍くらいです)に居住スペースを作り、生活するのです。

 

 しかしながら、戻ってこない魚舟も多数います。それらが―おそらく海洋汚染が原因で―狂暴な獣舟に変異するのです。

 

 ※

 

 ―この時代、各国は陸地の大半を失っており、“連合”という形でどうにか存在しています。

 

 旧アメリカが主体の“ネジェス”、そして旧中国周辺の”汎アジア連合(汎ア)”、そして“オセアニア共同体”などです。

 

 日本は、ネジェスに所属し、対汎アの最前線としての役割を担っています。

 

 青澄が公使(大使の次席)として勤務するのは、公海上の海洋都市に設置されている”外洋公館”という部署。ここは海上民の権利と生活を守るのが主な仕事―。

 

 ただ、どこの政府も陸上民が中心で、海上民自体を下に見ています。当然、外洋公館も、外務省の中では格下です。

 ※

 敏腕交渉人として海上民からも信頼されている青澄に、外務省から日本近海にいる海上民の帰属問題が持ち込まれます。

 

 総数3千頭という桁違いの魚舟船団を率いるツキソメというリーダー(♀)と交渉―。

 これにはワクチン密売の問題も絡んでいます。

 

 この時代には、“病潮”という感染症があり、いまだ治療法が確立されていません。その為、人類は定期的にワクチンを打たねばなりません。

 

 陸上民生体タグというモノを体内に埋めています。これによって、納税からワクチン接種から、果ては人口まで管理しています。

 

 しかし、魚舟に乗って自由に暮らす海上民は、文字通りの”タグ付け”を嫌います(やっぱり納税がネ‥‥)。

 

 ―この病潮ウイルスはクラゲ由来なんです。もしも、ワクチン無しでそのクラゲの群れに出会ってしまえば、その海上民の船団は全滅します。

(ですから、背に腹はかえられずタグを着けている海上民もいます)

 ※

 ツキソメは謎の資金源を持っていて、密売ワクチンを船団に行き渡らせています。ですから、単純にワクチンを餌に”タグ付け(日本への帰属)”は出来無いのです。

 

 ―ここで”交渉人”青澄公使の出番という訳です。

 

 ツキソメが欲しているのは、海上民の為の”交易ステーション”―。無論、そこにワクチンの生産プラントも設置します。

 

 いくら資金が有っても、約1万(注)という数のワクチンを常に揃えるのは大変―。

 それに海上で暮らすのにも、陸上の技術や資材が必要です。そして、それらは常に不足しがち‥‥‥。

 (注:海上民は家族単位で魚舟上で暮らしていますから、だいたいその数になります)

 

 青澄は、この”交易ステーション”こそ、ワクチン密売を根絶する方法であると考えます。ステーションの建設・運用と、“タグ付け”を天秤に掛けたいのですが―。

 

 ステーションの建設には莫大な費用がかかります。そして、いつの時代も、財政はひっ迫しています。

 そして、なにより陸の政府は、海上民の為の支出を嫌います。

 

 何とかツキソメからの信頼を得る事には成功した青澄ですが、そこへ別な問題が持ち上がります。

 

 なんと、汎アの政府が、海賊退治と称して周辺海域の”タグなし”海上民達に軍を差し向けたのです。

 

 取って返して、汎アの上層部との接触を試みる青澄ですが―

 

 ※※※※

 

 この未来社会では―

 

 陸上民は皆―性能の差こそあれ―“アシスタント知性体”と接続しています。人型のボディーもしくは、脳内に響く”声”という形態で日常生活ををサポートするAIです。

 

 メインストーリーにおいては、青澄ではなく、彼に接続しているAI”マキ”の《僕》という視点で語られているんです。つまり―

 

 主人公・青澄の内面すら客観的に語る真顔

 

 視点が主人公の”主観”じゃないというのは、とても新鮮でした。

 ※

 終盤―、

 科学機関が―おそらく百年以内に起こる、壊滅的な大変動の存在に辿り着きます。

 

 ―そんなこんなで全く希望のないまま、下巻へ続きます真顔 

 

 

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