映画 TAR / ター 搾取するだけして、あとはポイッ | 気むずかしい いろいろ

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すげぇ、女優やなと思った。

ケイト・グランシェットに当て書きしただけあって、ザ・ブランシェット ショーだった。

 

指揮者界隈でも、女性の活躍はなかなかハードルが高いはずなのだが、

この映画ではあえて、ジェンダー問題には触れてなかった。

ブランシェット演じる天才的指揮者リディアは、ビアンで結婚していて、子ども持ちという設定もあり、

そのジェンダーのハードルをすべて超えて、今現在の地位があるという設定だった。

 

だから、リディアがたどるカリスマからの転落が、とても鮮やかに描かれていた。

ちょっとした不注意が、油断が、配慮にかけた発言と行動と、驕りが招いた、転落。

妬みと、嫉みにまみれた敵意。

修復不可能なまですれ違ってしまう、愛する人への甘え。

 

地位をえたせいで、背負わされた役割と責任。

本来、自分が愛したものが霞んでしまうほど、欲してしまった権利と権力。

 

その明暗がとても鮮やかで、不安で、不愉快で、圧倒された映画だった。

もう1回みたいかと問われると、もうシンドイのでエエですわとなるが。

 

 

指揮者って、交響楽団を指揮する時、燕尾服を着ないとアカンドレスコードがあったはずだが、

リディアは黒のジャケットやったな。

女性でも、燕尾服相当の後ろが長いジャケット着用が必要だったはずだが、

リディアはそれすらも免除される存在だったんだろうか。

 

 

指揮棒を振るリディアの後姿は、とても頼もしく、男性の姿勢と同じにみえた。

不思議と、漢っぽい背中ってのがあるのだけど、たぶん宝塚の男役の人がよくする姿に似てると思う。

ようするに、ホレボレしたのだ。

 

転落するにはしたが、最後には、

自分が愛する音楽をシンプルに追及する姿にもどり、

これはこれで人生という大きな視点にたてば、幸福な選択だったのかもしれない。

 

このカリスマは、まわりへの愛が足りなかったのか、

人種的に、献身さや、思いやりってものが重要視されないのかな。

なんか、こうも冷たいのかと、がっかりもする。

 

猿之助なんて、歌舞伎界が一生懸命、再生の道をさぐっているのに、

欧米人は残酷やわ。

いや、映画の世界だけやと願いたい。

 

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2022年アメリカ

脚本・監督:トッド・フィールド

出演:ケイト・ブランシェット、ノエミ・メルランニーナ・ホス