ドキュメンタリー映画 娘は戦場で生まれた 罪のない子どもたちを大量に殺すアサド政権 | 気むずかしい いろいろ

気むずかしい いろいろ

芝居、ミュージカル、落語、映画、
後輩、神社・読書・心理・呪いと祟りも。

眠剤が切れたので、一睡もできない夜に、シリア戦争に関する映画を見ることにした。

「プライベート・ウォー」、「メリー・コルビンの瞳」、「娘は戦場で生まれた」と順を追っての3作品。

 

イランで殉職したイギリスのジャーナリストの立場から切り取ったシリア戦争から、シリアの一般市民の女性目線で撮影されたリアルな戦場と。胸が張り裂けそうな夜だった。

 

3作品の中で、いちばん衝撃をうけたのがこの作品だったので、先にレビューをかくことに。ひとりでも多くの人にみてもらって、政府の堕落をほうっておくと、どんな結末があるのか想像してみてほしい。極端な例かもしれないが、結末のひとつであることには違いない。

 

これまでもシリア戦争を調べていたが、教科書レベルで理解しているに過ぎなかった。「戦後最悪の人道危機」と呼ばれるシリア戦争は、戦争でなく、ただの皆殺し殺戮だという想像が足りてなかった。それが、一般市民をも殺し、人々がどれだけ恐怖と絶望のどん底に陥れているのか、想像が足りてなかった。

外出しただけで政府軍のスナイパーに狙撃される恐怖を描いた「シリアにて」をみて、絶句するしかなかったのだが、このドキュメンタリー映画は、あの衝撃を軽々と超える。

 

はじめこの映画は、ドキュメンタリーと言いながら、再現映像との組み合わせの映画だと思っていたら、すべてがリアルな映像でショックだった。ショッキングな映像が苦手な人は、この映画の生々しさに目を背けるだろう。この映画には、ボカシなしで血も、ケガも、遺体も映っている。ついさっきまで生きていた人が、爆撃で瓦礫の下敷きになったり、爆風で破片がささり病院に運び込まれ、医師たちや家族が命を諦めるすがたを正面から撮影している。

 

病院に担ぎ込まれ、息を引き取る人の中には、幼い子供たちも含まれる。瓦礫の中から弟を助け出し病院に担ぎ込む10歳と8歳ぐらいの少年たち。助け出した時から息をしていないのは分かっていたが、それでも病院ならなんとかしてくれるのではと助けを求めて運び込む。医師たちの懸命な治療を、指を噛み声を押し殺して見守る兄たちだが、、、生き返ることのなかった弟の頭をなで、声を押し殺して泣く兄たち。

 

叔父の家が爆撃されあわてて駆けつけると、いとこが瓦礫の下じきに。瓦礫から救い出し病院に担ぎ込んだのは10歳にも満たない少年だった。妊娠10か月の女性が病院に運び込まれ、お腹の中の子供だけでも助けようと帝王切開でとりだし、息をしてない赤ん坊の体をさすり、ゆすり、叩いて懸命に治療をする医師たち。羊膜まみれの赤ん坊が少し微笑んでからようやく産声をあげた瞬間、処置室に歓声が湧きあがった。

 

そんな生々しい、シリアのアレッポの姿がおさめられている。オリーブ石鹸で有名な、あのアレッポ、、、。

 

シリアのアサド政権は、一般市民は攻撃の対象ではないと主張しているのだが、病院に運び込まれるのは子供をふくむ一般市民だ。病院の医師は20日間で850件の手術をし、病院には3000人が運び込まれたと涙を流す。

 

このドキュメンタリー映像のカメラを回しているのは、シリアのアレッポ大学に通うジャーナリスト志望の大学生ワアド。アサド政権に反対し、独裁政権から自由をえるため反体制派として友達とデモに参加していた。はじめは平和なデモ活動だった。広場にあつまり、自由を叫ぶ。ただそれだけだった。アサド政権の攻撃がなかなか終結せず5年間も爆撃され続けたあいだに、ワアドは、野戦病院で働く友達の医師と結婚し、戦火の中、サマを生んだ。

 

ワアドは苦悩する。サマを産んだのは正解なのか、間違えたのか。サマ生まれてからずっと、爆撃音に怯えながら暮らす大人たちに囲まれている。このアレッポに留まり戦うことは、サマにとっていいことなのか、不幸なのか。サマを反体制派の医師とジャーナリストの子として育てることで、サマ自身に危険が及ばないか。しばらく手放すべきなのか。アサド政権から一方的な攻撃をうけ、逃げ惑う毎日をおくりながら、母ワアドは、サマと子供たちの今と、未来を考えて苦悩する。

 

まあとにかく、アサド政権がひどい。この一族、3代前からシリア国民を苦しめる最低な大統領一族。強い恨みの念で、人を殺せるのなら、アサドは、とっくに死んでてもおかしくないのに。呪いや、祟りがきかない秘訣でもあるんだろうか。、、、余談やな。

 

「シリア戦争」と言われているが、これは戦争でなく、虐殺。シリアの大統領が、自分の政権に反対する自国民を片っ端から皆殺しにしている虐殺だ。これがなかなか日本にいるとイメージしにくいのだが、乱暴に日本におきかえるとこうだ。

 

自民党の腐敗にうんざりしたアンチ自民党の一般市民が、政権交代のデモを起こしたところ、首相派がアンチを片っ端から捕まえて皆殺し。とくに、維新支持者が多い大阪府のアンチを排除しようとして、大阪府全体に爆弾を大量投下して府民を皆殺しにしているようなものだ。自国だけでは資金が調達できないから、ロシアにも爆弾投下を手伝ってもらっている。というカンジ。そんなの許される?

 

 

これ▲が破壊されたシリアの街。反体制派の施設でなく、ただの住居マンション群。住宅街もおかまいなしで、アサド政権は攻撃したのだ。自国民を、自国の長が大量虐殺。36万人ともいわれている。

 

ユーゴスラビア紛争も悲惨だが、シリア内戦ふくむ「アラブの春」が絶望的。暮らしをよくしたく、民主化をのぞんだ市民の願いは、木っ端みじん。願いは命とともにぶっ飛ばされる。絶望しかない。

 

この映画には、爆撃で血まみれになった子どもたちが多く映されている。血まみれの大人より、血まみれの子どもの方が、メッセージのインパクトが強いからだろう。その狙いは的中で、今年いちばんの衝撃を受けた。血を大量に流した後、病院の床で息絶える子どもたちを見て、心がみじんも動かない人はいないだろうから。

 

シリア紛争がこんなにもヒドイことだったと、遠く離れた国の人に記憶されるだけでも、この映画は意義があると思う。

 

わたしは涙をながしながら、ねがう。

「もう、殺さないでくれ!!!」

 

_______

2020年イギリス、アメリカ、シリア

監督:ワアド・アル=カデブエドワード・ワッツ

出演:ハムザ・アル=カデブ、サマ・アル=カデブ、ワアド・アル=カデブ

 

▼まずは「知る」ことが、だいじ。

 

 

_________

<今日のいちまい>

48時間起き続けると、さすがに脳がしびれてくる。

明日は、超早朝出社だがちゃんとすっきり起きれるだろうか。

ねむれぬ私のかわりに、ぐっすり。