2012年ドイツ/ルクセンブルク/フランス
出演:バルバラ・スコヴァ
ヒトラーの忠実な下僕であり、最高指揮官アイヒマンは、
逮捕後の裁判で
「私は総統の命令を忠実に遂行したまでだ」と言い放った。
大勢のユダヤ人を虐殺したにも関わらず、
彼はサイコなイカレた極悪人ではなく、
平凡な真面目な役人だったのだ。
ただ、指揮官の命令に疑問を持たず、
「思考」することをやめただけ。
哲学者ハンナ・アーレントは「思考停止」がいかに危険か説いている。
思考をやめ、全体主義になることは
誰もがアイヒマンのように大量虐殺を平気で命令することができると。
ワンマンの社長や上長のいるサラリーマンにもこの「凡庸な悪」は多くみられる。
思考し、抵抗しつづけることは、
ストレスの高いことだけど、抵抗し続けなきゃ、
自分の人生を生きてるとは言えないわね。
私はこれを観た当時、2016年だったか。
会社の上長のあまりにも理不尽な方針に腹をたてっぱなしだった。
目をつむっても、どう反撃するか。
どこがどう間違っているか、理路整然と説明するにはどの知識とどの言葉を使おうかと
思考が止まらない苦しい時間を過ごしていた。
またその方針に意義をとなえるのは私一人だった。
みな反撃する気力を捨て、ていよく仕上がっていた。
その時にCMで耳にした「思考停止」という言葉。
思考は停止してはいけない。
大衆に流されて、思考をやめてはいけない。
多数決で多数派でいることに安堵してはいけない。
って、少数派の自分の行動に苦しんでいた時期だから、
これでいんだと、自信をもてた作品。
私の睡眠障害は、ここからはじまったのだけどね。
一日たりとも入眠剤を手放したことはない。
この映画を観たのは「井上芳雄による『夜と霧』〜苦しみの果て、それでも人生に然りと云う〜」に
行った直後だった。
ナチスの強制収容所を経験した心理学者ヴィクトール・E・フランクルの記事を
漁っていたときにも、ハンナ・アーレントに行きついた。
タイミングといい、いい映画だった。
ヒトラーは死んでしまったから研究をすすめようがないが、
アイヒマンは生き残ったから、多くの学者がアイヒマンを研究していて、
それがいろいろと映画になっている。
そのすべてがおもしろい。
いい映画だったな。
<実際のハンナ・アーレント>