歩くメロス | ぶっ飛び沖縄‼︎

ぶっ飛び沖縄‼︎

突然沖縄に引っ越してきました。
楽しいこと、不思議なこと大好きです。


いかにも

宮古島生まれでしょ😼

みたいな、鼻が高くて

彫りの深い顔立ちをした

輿那覇 ( よなは ) 邦夫さんは

体を動かすのが好き。


フィッシング🎣

山歩き、キャンプ、ゴルフ

クルーザーを乗りこなし

白いボルサリーノをかぶり

白いシャツが似合う。


タバコは

いつものラーク。

煙の行方を目で追いながら

話してくれた。



今年、数えの97歳の祝いの

「  カジマヤー 」迎える邦夫さんは

ルミ子姉さんの従兄弟に当たる。


小学生の頃から

野球が大好きで、高校生の時には

首里高校野球部の部長をやっていた。


近所の幼馴染みの昌光さんとは

ずっーっと仲が良かったから

物心ついた頃には毎日飽きもせず

キャッチボールをやった。


邦夫さんの両親は

東京で宝石商を営み

裕福な商家の長男だったから

離れに寝起きしていて

女中さんが身の回りの世話をする。

親の目が届かない事を幸いに

毎日毎日昌光さんが

遊びに来るようにしていた。


だけど、ある日高熱を発してから

体が強張るようになった昌光さんは

当時、原因は分からないけれど

日に日に体力が落ちて行き

ゆっくり歩くことしか

出来なくなっていた。


それでも

邦夫さんが野球の話をすると

目をキラキラさせて

うなづきながら聞いてくれる。


ある日

戦争が始まるという話を聞いた

邦夫さんが、昌光さんへ言った。

教科書の中に出て来た

「 走れメロス 」は

2人にとって、友情のバイブル

そのものだった。


俺が昌光を背負って

逃げてやるから安心しろ。

メロスは

友だちとの約束を守るために

命をかけて走ったんだ。



昌光さんは崖から身を投げて

亡くなっていた。

少しだけ動く左手には

邦夫さんからもらった

野球ボールを握りしめていて

棺桶の中に入れようとして

ボールを取ろうとしても

誰も出来なかったという。


何年か経って、昌光さんに

会いに行った邦夫さんは

昌光さんが亡くなっていた事実に愕然とし

昌光さんの祖母から聞き出した。

なかなか話したがらない固い口から

吐き出された辛い言葉。


もし空襲がきたら

邦夫は僕を助けにやって来る。

こんな体の僕を背負ったら

邦夫は助からない。

だから、僕は先に行くよ。


孫から静かな声で言われた祖母は

まさか、と思ったって。

先に行く、は別の意味なんだと

無理矢理に思い込んだんだって。


しばらくの間、沖縄を離れて

横浜に住んでいた邦夫さん。

パスポートを持って沖縄へ帰ってみたら

邦夫さんと昌光さんの住んでいた

安里地区は激戦区になり

カタチが変わるほど

ものの見事に破壊し尽くされていた。


でも、未だに

邦夫さんの閉じたまぶたの裏には

風にそよぐサトウキビ畑がある。

サトウキビの葉っぱで傷だらけになっても

夢中になって遊んだ幼馴染み。

昌光さんの笑顔が

鮮やかに浮かぶんだって。



邦夫さんは

資産家としてハワイに渡って

事業で大成功した。

何もかも順調だった。


女性と付き合っても

結婚する気にならないまま

溜まったお金は

恵まれない子どもたちへ

寄付をしていた。


ただ

毎年の5月のシーミーの時には

沖縄へ帰って墓参りを欠かさず

昌光さんの実家の墓にも行き

線香を供えていた。


でね。

75歳になった時に

かつて使っていた使用人に強盗に入られた。

勝手知ったる雇い主の家だから

やりやすかったらしい。

その時、自宅の金庫には

かなりの現金が置いてあった。

で、金庫を開けさせた犯人は

簡単に大金を手に入れて

一目散に逃げて行った。


ショックのあまり

警察に電話出来ないほど

具合が悪くなった邦夫さんは

寝込んでしまっていた。

だけど、不思議なことに

警察に自ら出頭した犯人が

不可思議な自首の理由を語る。


息子が言うんだって。

お父さん

隣りにいるお兄ちゃんが

心配しているよ。


なんの事か分からず

息子に聞いてみる。

息子より少し上の男の子が

父親の隣りに立っていて

顔を見上げている。

こんなことをしてはダメだ。

ちゃんと話しをするんだ、と

語りかけているらしい。


このことを

警察官から聞いた邦夫さんは

あゝ、昌光だ。

アイツだ、アイツに違いない

と、大声で叫んでいた。


で、すっかり善悪忘れた邦夫さんは

昌光さんの供養にと

犯人の息子さんの心臓手術の

費用をすべて出してあげて

犯人の釈放のために

事情を話したらしい。


アイツの足は

細くて硬くて不自由だったから

今頃やっと、自分のところに来たのか。

昌光の足じゃ、沖縄からハワイは遠くて

ずいぶんと難儀だっただろうになぁ、と

ハワイから沖縄へ向かって

手を合わせたんだって。



昌光さんは

うれしかったでしょうね。

来世は一緒に野球が出来る友だちが

いるのですから、と

私は言ってみた。


さっきまで

クールにしゃべっていた邦夫さんが

顔をクシャクシャにしたと思ったら

突然、大粒の涙を

ポロポロ流し始めた。


淑女たるもの、紳士の涙は

見なかった事にして

少しビーチを歩いてみる。

生温い海水が気持ちいい。


遠くから聞こえてきた。

僕を泣かしたんだから

君はなんてイヤなオンナなんだ。

罰として今夜は

ディナーに付き合ってくれ!


ふふん

強がり言ってやがる。

満月の今宵は

泡盛の古酒を飲みながら

幼馴染みに語りかけて

おとなしく泣いていろ💢


と、ルミ子姉さんへ

邦夫さんへの伝言を伝えて

私は急ぎ那覇へ帰る。

なぜならクーラーを最強のまま

つけっぱなしで出て来た事を

思い出したから💧


濡れた足を拭いてる場合じゃないさ。

裸足のまま運転したよ。

ヤバいくらいに野生が

よみがえるぅ✨✨


途中、セブンイレブンに寄り

ついつい裸足のまま店に入ってしまった。

まぁ、いっか!と

コーラを買ってきた。

意外だけど皆さん見るのね。

ハロー!皆さま

私のことは

ほっといておくんなさい‼️