海はヨ〜〜海はヨゥ | ぶっ飛び沖縄‼︎

ぶっ飛び沖縄‼︎

突然沖縄に引っ越してきました。
楽しいこと、不思議なこと大好きです。


具志堅大地さんは
演歌が大好きな45歳の働き盛り。
特に村木賢吉の
「 おやじの海 」は
特別な歌なんだと言う。

真っ黒に日焼けして
よほどの悪天候で無い限り
毎日毎日、当たり前のように
船に乗って漁をする。

お守りは
船の柱に括り付けた
一升瓶の泡盛だ。

新潟県生まれの具志堅大地さんは
物心ついた頃から
母ひとり子ひとりの
母子家庭で育ってきて
風邪を引いては熱を出すような
ひ弱な子どもだった。

父親はガンで
30歳という若さで亡くなったため
赤ん坊だった大地さんは
父親の顔も知らなかった。

母親の両親は健在で
田畑を売ってくれたおかげで
10歳で発症した白血病から救われたけれど
大病を患った孫の先々を心配した祖父は
学校の休みのたびに
外遊びへ連れ出してくれたらしい。

山歩きや畑仕事やキャンプ。
特に、海釣りに夢中になった大地さんは
祖父と一緒に自転車で海岸へ行くようになり
釣った魚を祖母や母親に渡すと
そのたびに褒めてもらえた。
魚の種類により、焼いたり煮たり
味噌汁の具にしてくれる。
大地の釣ってきた魚は美味しいと。

中学生になって
母親の再婚が決まってから
大地さんの人生は変わった。

新しい父親の連れ子の女の子は
大地さんの姉と妹になる。
しかし新しい家族とは馴染めず
居場所の無いような不安感が付きまとう。
高校卒業と共に寮のある配送会社に就職し
母親のオンナの顔から逃げるように
実家から遠く離れた福岡市に引っ越す。

そこの会社で知り合った
事務員の女性は
同い年で沖縄の生まれ。

21歳同士で結婚した奥さんの実家に帰ると
5人の義兄たちに囲まれ
歓待されているのが分かる。
まったく言葉が分からないんだけど
大地さんにとっては心地良かった。
濃厚な家族の時間に染まって
いつしか漁師になることを
夢見ていたらしい。

奥さんの実家に帰るために
夫婦して節約して節約して
貯金した。

大先輩の義兄たちから
漁師の仕事のことや
沖縄の言葉を教えてもらいながら
奥さんの義父母や親戚たちと
泡盛を酌み交わすようになり
特に義父の思いやりと
義母のカメーカメー ( 食べろ食べろ )に
何度も何度も涙が出て
幸せを噛み締めたという。



で、2年が経った頃

体調不良が続いた大地さんを

奥さんが思い余って

無理矢理に実家に連れて来た。


白血病が再発したという診断に

義父の決断は早かった。

持っていた土地を売り払って

大地さんの療養費に当てた。


申し訳ないと謝る大地さんへ

義父は静かに言った。

やっとこさ覚えたヤマトグチで。


大地、お前は

もうすぐ父親になるんだから

何があっても死んではならん。

金の心配はするな。

金はどうにかなるから

俺たちに任せておけ。


大地さんも奥さん本人も

知らなかったけれど

父の言葉に驚いた奥さんは

病院で調べてもらったら妊娠していた。

だから、義父と義兄たちは

見えない神仏に向かって

大漁を祈ってから海に出た。


不思議なんだけど

毎回毎回の大漁に

義兄たちは大喜びした。

その思わぬ儲けによって

新しい技術の恩恵を受けられる

病院に転院した大地さんは

少しずつ快方に向かって行った。



3年後、快癒した大地さんのそばに

可愛い盛りの2歳になった

息子を抱いた奥さんがいた。


苗字も奥さんの

「 具志堅 」にして

婿さんになっていた。

それが自然だと思ったから。


漁師として独り立ちし

自信もついて来た頃だった。

2人目の息子も生まれて

次は女の子がいいな、と

夫婦で話していた矢先のこと。

青天の霹靂の如く

義父は船から落ちたことにより

泳げるのに溺死した。


体を真っ直ぐにしたまま

海に沈んでいく様子を見て

助けに行こうとした仲間は

誰一人として

金縛りにあったように

身動きが出来なかった。


引き上げられた死に顔は

やり遂げたような

いい顔をしていたという。

水を飲んでいない

まるで眠っているような

きれいなご遺体だった。



義父は

自分の命と引き換えに

大地さんの病気を消した

と、ユタのオバアから聞いた。


不自然な死を

いくら聞いてみても

頑として言わなかったオバアは

義父の姉貴に当たる人で

重い口を開いた時には

すでに10年が経っていた。


十回忌の席で

弟はユタの才能を持っていて

姉の自分よりもチカラが強かった

と、遠い目をして話し出した。


漁師の仲間たちに

アドバイスするのは

家庭のことと体のことで

とにかくカミさんを大切にして

女を見下してはいけない、と

口癖のように言っていた。


大漁の時が

あらかじめ分かるらしく

必ず仲間たちを誘って出漁する。

皆んなが潤ったから

味方も多かったらしい。


そのチカラを嫉妬した

チンピラ崩れの男は

大漁の日のウワサを聞いて

抜け駆けしたんだと。

独り占めしようとしたチンピラ崩れは

3日後に海岸へ打ち上げられていた。


顔が分からないほど

岩にぶつかって破壊されていたのに

身元が分かったのは

体に中途半端に入れた入れ墨だった。


そんなチンピラ崩れを

火葬して、葬ってやったのは

身内のいないチンピラの育ちを

よく知っていた弟だったんだって。

自分のウワサを聞いたという事は

仮にも関わったのと同じだからって。


さらにオバアは続けた。

どんなに大地を大切に思い

生きて欲しかったのは

今でも、大地の後ろにいて

満足そうにニコニコしている

弟を見れば分かる

と。


大地さんは実父の顔を知らない。

でも、自分の父親は

義父以外にあり得ないと

十回忌の席で大泣きした。



海はヨ〜

海はヨゥ

でっかい海はヨゥ

俺を育てた おやじの海だ🎵


毎月の義父の命日には

沖合に船を停めて

一升瓶の泡盛を海に蒔く大地さん。

口ずさむのは " おやじの海 "


亡くなった義父が

泡盛を飲みながら

俺の歌を聞いてくれる。

そう思うんだって。


海岸近くの

小高い場所にある大きな亀甲墓には

義父と義母、親族たちや

代々の先祖たちが眠る。

たまに、ゴミ拾いと草刈りに行くのは

大地さんの習慣になった。


大地さんの子どもたちは

男の子3人に女の子2人の賑やかさ。

部活で忙しい男の子は

たまにしか来れなくなったけれど

女の子2人は、お父さん大好きで

お弁当と水筒を持ち

墓の回りで半日遊び回るんだって。


海を向いている墓から

大地、死んではならん

と言っているように

今でも思うんだって。


義父の好きだったタバコ

「 うるま 」に火を付けて

大地さんは供える。

気のせいか

燃え尽きるのが早いみたいよ。


タバコに火を付ける時

思い切りむせている自分を

笑いながら見守る義父の顔が

脳裏に浮かぶんだって。


義父のことを思い出すと

いまだに涙が出て来る自分を

泣き虫はダメ、と

末娘に叱られるんだよぉ。

と、呟いていた。


大地さん

言葉のイントネーションが

すっかり沖縄なんだよ。

故郷は

ここ沖縄だったんだね。