『福永武彦の海市の南伊豆』 | ジョリのブログ

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 12月17日からの週末に、南伊豆に行ってきた。今回の旅行の目的は、福永武彦の小説『海市』の冒頭に出てくる、子浦という海岸に行くことだった。

 他のブログで、何人かの方が、この小説の舞台である子浦について書かれていたが、自分も、この目で実際に見てみたかったのだ。

 福永武彦の海市を最初に読んだのは、忘れもしないネパールのカトマンドゥのホテルのことで、大学生の頃だったので、かれこれ30年も前のことだ。

 ネパールの日本語の古本を扱う古本屋に、なぜか福永武彦の、海市の単行本が置いてあった。文庫本ではなく、薄いグリーンの表紙の、しっかりとした単行本だった。

 その頃、福永武彦の小説は読んだことがなかった。なぜ、ネパールの古本屋で福永武彦の小説を手にとったのか、まったく覚えていないのだが、今となっては、なんだか運命的な出会いのようにすら感じる。

 最初に海市を読んだとき、まったくおもしろいと思わなかった。ちょっと難しいわけのわからない小説だと感じた。まだ若かったので、中年の主人公の気持ちを理解することもできなかったんだろうし、きっと描かれている男女の関係についても良く理解できていなかったんだろうと思う。

 昭和43年に発売されたこの小説だが、わりと最近発売された小学館のP+D BOOKSという活字で読むと、まるで違った世界のように読むことができる。書いてある内容は古く、読む人によっては少し退屈かもしれないが、繊細で奥の深い小説であることには間違いない。

 

 小説の話はこれぐらいにして、旅の話に戻そう。

 

 今回の旅は、しっかりと旅行の計画をたてていたわけではなかった。目的地を伊豆半島の先っぽの、子浦にしただけで、あとはとりあえず、全国旅行支援で安くなっていたホテルを予約しただけだった。

 金曜日の夕方、上野発、沼津行きの各停のグリーン車に乗り、夜、沼津駅で降りて、駅前のホテルに泊まった。次の日、修善寺でレンタカーを借りようと思っていたら、土曜日はどこもいっぱいで借りられなかった。それで、空きのレンタカーのあった三島駅でレンタカーを借りて、南伊豆の子浦に行くことにした。

 途中、修善寺に寄り、そこから車で少し行ったところにある、川端康成が「伊豆の踊子」を書くために逗留していたという、湯本館という旅館にも行ってみた。 

 湯本館は、想像以上に何もない場所にあった。湯本館の近くのとてもきれいな澄んだ水の流れている川の橋のたもとに車を停めて歩いて旅館の前まで行ってみたのだが、本当に静かな場所で、こんな何もない場所で、川端康成は小説を書いていたのかと感慨深くなった。

 自分には、長い間ホテルに逗留して何かをするなんて、経済的余裕はないが、何かを創造しようとするのならば、そういった場所に身を置いて仕事に集中することも、時には必要なのではないかと思った。

 

 次に峠を越えて下田まで行き、そこから目的地の子浦まで行ってきた。

 目的地の子浦につく頃には、残念ながら少し強い雨になっていた。子浦は本当に小さな集落で、ここが本当に、その目的地なのか、かなりあやふやな気がした。

 それにしても、なぜ、福永武彦は、こんなところを小説の舞台にしたのだろうか、と不思議に思った。

 わりと強い雨で、ゆっくりとその場を散歩するというわけにもいかなかったが、この辺鄙な静かな場所(住んでいらっしゃる方は、ごめんなさい)にいると、なんだか心が洗われるようなすがすがしい気がした。そして、福永武彦の『海市』の世界を、少しは味わうことができたことがうれしかった。

 その後、家に帰って『海市』を読み返してみたが、やはり、実際のその場所に行ってみたおかげで、本に書いてある地名が生き生きと目の前に浮かんできた。