現在の日本の会計基準では、損益計算書の表示区分は
次のようになっています。
【営業損益】
1売上高A
2売上原価B
(1)売上総利益A-B
3販売費及び一般管理費C
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(2)営業利益A-B-C
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【経常損益】
4営業外収益D
5営業外費用E
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(3)経常利益(A-B-C)+(D-E)
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【特別損益】
6特別利益F
7特別損失G
(4)税引前当期純利益(A-B-C)+(D-E)+(F-G)
8法人税等H
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(5)当期純利益(A-B-C)+(D-E)+(F-G)-H
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以上をご覧いただいてもわかるように、
(3)経常利益は、損益計算書の冒頭(売上高)と末尾(当期純利益)の
中央に位置しており、まさに「業績表示のおへそ」にあたるわけですね。
従来、日本の経営者は、この経常利益を業績判断の重要な柱として
利用してきました。
経常利益は、俗に「ケイツネ」などと呼ばれて親しまれてきました。
なんか、仲のいい友達のあだ名みたいですね。
「おーい、ケイツネ!今夜あたり、いっぱいやらないか?」みたいな(笑)。
わたしも経営者のはしくれですので、かんたんに社長の立場でみると、
「本業の儲けに、金利の純支払額を引いたら、いくら会社に残るんだ?」
という観点で会社の儲かり具合を判断する、という感覚がすごく
フィットするんですね。
日本の経営環境としては、銀行借り入れによる間接金融への依存度合いが
非常に高いため、本業の利益=営業利益から利払いを引いて残った分が
税金の支払および借入返済の原資になり、それでもなお残った分が
経営者一族の取り分だよね、というイメージなんです。
特別利益、特別損失は、経営破たんした相手先の不良債権処理額とか、
設備の大規模な廃棄とか、ノーマルな営業活動の範囲外として扱う
項目なので、毎日の業績判断から除外できるわけです。
この損益計算書の表示文化は、いわば日本の伝統的な経営環境に
非常にマッチしていました。
これが、国際化のあおりでIFRSが導入されるようになると、
まず「経常利益」という利益概念が公表用財務諸表から消滅します。
もちろん、国際的な視野はもちろん大事ですが、
なんでもかんでもグローバルスタンダードがいい、ということでは
ないように思います。
日本には日本の土地にあったやり方、文化もあるわけで、
それは日本の会計実務にも確実に存在します。
要は、新旧のバランスではないでしょうか。
ケイツネは、財務会計(法律でがちがちに縛った公表用の会計)では
将来、国際会計ルールの波で消える可能性がありますが、
管理会計(経営者の裁量で採用する内部管理用の会計)では、
ぜがひともしぶとく生き残っていってほしいな、と思います。
柴山政行