「いえ、実は平成8年の4月に公認会計士として登録しているのですが、それをうっかり履歴書に書くのを忘れていました」
「えっ!」
所長さんと副所長さんが同時に小さく驚きの声をあげました。
ここまでは、あるていど覚悟していた展開です。あとは熱意と気合で押し切るだけです。
「もちろん公認会計士としての資格はありますが、申告書の作成実務という点では、新人のつもりで仕事をしたいと思っています。当然、給料面でも、無資格の人と同レベルになることは承知の上で来ていますので、どうかご一考ください」
ひとしきり私の主張を聞き終えると、二人は顔を見合わせていました。
あきらかに困っているようです。
「あの…」
さっきからほとんど口をきかなかった副所長さんが、はじめて重い口を開きました。
「まことに申し上げずらいのですが、今回の募集は、税理士の受験生で、20歳代前半までの方か、あるいはすでに税務申告書の作成経験者に限らせていただきましたので、当方では、柴山先生のニーズにはお答えできないと存じます」
どうやら、雰囲気だけではなく、言葉づかいまで変わってしまったようです。
「副所長が申し上げましたように、公認会計士の先生には、十分な雇用条件を提示するのが難しい、という現状をご理解ください。たしかに、さきほど柴山先生がおっしゃったように、新人と同じような待遇で、という道もあるのでしょうが、それでは現実問題としておさまりが付かないと思います。私どもも心苦しいですし…」
「そうですか」
「ただ、いちど副所長と私とで相談の上、あらためて採用の可否についてご連絡申し上げます。正直言って、現段階では、どうするかについては白紙とお考え下さい」
面接はここで終了となりました。
(さらにつづく…)