第2部 公認会計士というお仕事
●新人時代のジレンマ
Lesson-29 初めて現場に行った日
念願の試験突破を果たし、やっと「会計士のタマゴ」になることができました。
他の合格した受験仲間の大部分がそうしたように、わたしも、大手監査法人に就職することとなりました。
「これでやっと社会人になれる」
ようやく人生のスタートラインに立てたような気がして、毎日が夢心地でした。
10月中旬、わたしは国内部門に配属されました。その後、あしかけ2週間の新人研修を経て、11月の初旬に初めての現場へでることが決まったのです。
初出勤を翌日に控えた夜のことです。母から電話がありました。術後順調に回復したため、退院の許可をもらった、との連絡でした。そのことを聞いた瞬間、一つ肩の重荷がおろせたような気分になったのを、今でもおぼえています。
「それでね…」
母が、言いにくそうに言葉を飲み込みます。
「なにか問題でも?」
「実は、これまでの入院費の未払い分、20万円近くを支払わないと、退院できないんだって。ちょうど手持ちが今、なくってねえ。困ったよ」
20万円といえば、つい昨日まで無職同然の身だったわたしとしては、大変な金額です。
「まだ、給料日は先だしなあ…あ、そうだ。そういえば、大学時代に作った〇×デパートのキャッシュカードで、ちょうど20万円まで借りれたはずだよ。とりあえず、それで入院費を払おう」
あまり気が進まなかったのですが、背に腹はかえられません。退院が延びれば、それだけ余計に入院費がかかります。
「悪いね。仕事をまた始められるようになったら、いずれ返すから」
母は、とてもばつが悪そうでした。
(つづく)