マイナス表現の何がまずいのか
世の中には、マイナスの表現ばかりする人がいます。
学生の頃、アルバイトをしていた飲食店に常連さんがいました。本当に頻繁に来るのですが、いつも何も言わずむすっとした感じで注文します。
店員が笑顔を振り向けようと、全く気にかける様子もありません。時には「これ、いつもより味が薄くない?」など、クレームともとれることを言っていきます。
しかし、その後も変わることなく頻繁に食べに来ています。
(ちなみに私は調理担当だったため、実際に対応したのはどうしても忙しくて回らなかった時の1度くらいで、あとは接客担当の人から話を聞くだけでした)
この人を見て、どう思いますか?
ほとんどの店員は「感じ悪いよね」と言っていました。
普段は何も言わず、口を開けば嫌味や文句ばかり・・・
それでは「良い感じ」がするはずもありません。
しかし、よくよく考えると、そんなにまでして通うということは、よほどお店を気に入っているのでしょう。接客や味の変化にも敏感で、お店のことをちゃんと理解してくれているとも考えられます。
実は、もともとコミュニケーションが苦手で、照れ屋なだけのかもしれません。少なくとも、1度接客した感じでは、無愛想ではあるけれども、悪意や故意は感じられませんでした。
その後、コミュニケーション能力抜群の新しいバイトの子が、接客担当として入ってきました。
その子が私に「あのお客さん、他のみんなに嫌われてるみたいですけど、どんな人ですか?」と聞くので、私はネガティブな印象を与えないように、「そこまで悪い人では無い気がするよ。もしかしたらこんな人かもね」と上のような話をしました。
すると、その子は「じゃ、話してみます!」と言っていろいろと話しかけはじめ、すぐにそのお客さんと仲良くなってしまいました。
実は、お客さんはその店の大ファンだったわけですが、その子の大ファンにもなりました。
そして、「実はそんなに悪い人ではないらしい・・・」という話が店員の間にも伝わり、他の店員とも良い関係になりました。
そのうちに、時々差し入れなどを持ってきてくれるようにさえなりました。
このように、固定観念を持たないで人と接することが大切だという話ですね。
・・・と、これで終わるはずはありません(笑)
ここで問題にしたいのは、そのお客さんの「ありかた」です。
むすっと注文するくらいは良いと思います。しかし、たまに発する言葉が文句やクレームだけなのは良くないですよね。
クレームを言うことが悪いのではなく、クレーム「しか」言わないことが悪いのです。そんな「マイナスの表現」しかしない人を、好きになるのは無理と言うものです。
もちろん、接客する側としては色眼鏡なしで接することは大切です。公平な態度でお客さんの心を開いたバイトの子は本当に素晴らしいと思います。
しかし、そのこととお客さんの「ありかた」は別の問題です。
マイナスの表現をするかしないかはその人次第です。
同じ意味のもう少し違った表現もできたはずです。
何より、マイナスの表現をすることで、損をするのは結局自分なのです。
「自分、不器用ですから」
こんな有名な言葉があります。
これ、よく間違って使われますよね。
「不器用だから誤解される」ことはあっても「不器用だから嫌われる」とは限りません。
上のお客さんも不器用な人なのでしょう。
しかし、「不器用」なのと「マイナスの表現をする」のとは別の話です。
不器用であっても、たまに発する言葉や表情がプラスであれば、与える印象は良いはずです。
不器用でない人でも、マイナスの表現ばかりしていれば嫌がられます。
本人からすれば「いつも通っている」ことがプラスの表現なのかもしれませんが、それだけではなかなか相手には伝わりません。
「このお店が好きだからいつも通っているよ」と一言でも言ってから、「でも今日は味がいつもと違うね」と言うだけでも、全然印象は違っていたでしょう。
教室でも、ことあるごとにマイナスの表現をする生徒がいます。
「素直な生徒ほど伸びる」という話は有名ですが、反対にネガティブな生徒ほど伸びません。言霊の力ではないですが、自分のマイナス発言で自分自身が縛られてしまう部分があって、それがマイナス発言の多い生徒ほど伸びにくい要因の1つとなっています。
また、実はそれだけでなく、本人はマイナスのつもりが無い発言しかしていなくても、それを聞いた周囲の人間が嫌な感じを受けてしまうと、それによってネガティブな評価をされたり、言動を悪いほうに取られたりと、回り回ってマイナスの影響が自分に返ってくるという要因もあります。
そのため、「本人にマイナス発言をしているつもりがあるかどうか」だけでなく、「周りがどう感じているか」のほうも問題になってきます。
反対に、ネガティブさが減っていくのと平行して成績が伸びていくのを何度も見てきましたし、むしろ、そうなるようにネガティブさを減らし、ポジティブさを育てる指導をすることが、効果的に成績アップを実現するコツの1つとも言えます。
そして、マイナスの表現をするのも1つの「習慣」ですから、授業や普段のやり取りの中で修正していくことが大切です。特に、このあたりは大人になると直しにくいため、若いうちに直しておくほうが良いですし、個人的には、細かい勉強の知識を教えるよりも大切なことの1つだと思います。
マイナス表現するネガティブな子供の親に共通すること
そして、そういう「マイナスの表現」をするネガティブな生徒の親に共通することがあります。
それは「親御さん自身もマイナスの表現をしがち」であることです。(ただし、反対の場合もあります。親がネガティブだと子供もネガティブ・・・だけの話で終わっては、当たり前すぎますからね。こちらについては後述します)
そして、そのことを親御さん自身は気づきにくい(どころか、むしろ自分はそれとは真逆だと思ってしまいがち)というのが、何とも厄介なところです。
実際に、マイナス表現を発している本人は「冷静な意見」「妥当な評価」「客観的な発言」だと思っていることが多く、そこにマイナスの意図を込めているつもりが全くないということも普通にあります。
これはマイナス発言の多い生徒たちもまさに同じで、周りが思っているほどに、自分で自分がマイナス発言をしていることに気づいていないものです。
そんな状態になっていないかを測るための1つの目安があります。
それは「小さなことで喜べるかどうか」ですね。実は、小さなことで喜べる人ほどプラス発想ができ、逆に小さなことで喜べない人ほどマイナス発想をしがちという性質があります。
自分のことに対する小さな事象はもちろんのこと、例えば子供がもたらした小さな成果だったり、不意に見せる小さな変化だったりに対して、喜びを表現することができているでしょうか。反対に「そんなの大したことない」という反応を返してしまってはいないでしょうか。
ここの違いが回り回って、子供が感じる(受け取る)マイナス表現の大小にも関わってきます。
そして、ここにも「親の背中を見て子供は育つ」が当てはまります。普段からマイナスの言葉を浴びるほど、自分もマイナスの言葉を使うようになり、考え方も行動もネガティブになっていく・・・これはとてももったいないことです。
さらに言えば、生徒のほうに全くそのつもりがなくても、周りにそう感じさせる発言をしていたらまずいように、親のほうに全くそのつもりがなくても、子供にそう感じさせる発言をしていたらまずいというわけですね。
子供たちに対して、無意識に「マイナスの表現」ばかりをしていないでしょうか?
もしそうであれば、変えるべきは子供よりもまずは私たち自身のほうです。
そして、生徒の皆さんも、わざわざ自分が損をするような、マイナスの言い方をしていないでしょうか?
上で言う「コミュニケーション能力」や「不器用さ」は社会生活上の有利、不利を決めるほどのとても重要な力ですが、その人の「個性」や「性質」ですから、なかなか直せません。しかし、マイナス表現を言うかどうかは「習慣」ですから、努力すれば直せます。
ぜひまずは、直せるところから直していきましょうね。
マイナス表現をする子供を持つ親のもう1つの特徴
なお、上で但し書きをしたとおり、親がマイナス表現をほとんどしなくても、子供がマイナス表現をしがちなケースというのもあります。
上の話は「親がネガティブだから、子供もネガティブだ」という流れですし、世間でもこういう意見は多いと思いますが、実はこれが全てではありません。実際には、親がポジティブでも、子供が反対にネガティブということは起こるものです。
これについて、現実に多いケースの1つが「母親は問題ないのに、父親にマイナス表現が多い(または、その逆)」というものです。一方は大丈夫なのに、自分がいないところで実はもう一方がまずい関わり方をしてくれていた・・・ということは、これに限らずあるものですよね。
そしてもう1つ意外とあるケースが、「親がマイナス表現をしすぎ」とは真逆の「親がマイナス表現をほとんどしない」というものです。強い光がより濃い影を生み出すように、一方が健全なプラスだからこそ、もう一方がマイナスに振れてしまうということがたまに起こります。(いわゆる反面教師の逆バージョンですね)
これは、職場環境や友人関係でも起こることなのですが、物心両面における距離が極めて近い家庭内でこそ、最も起こりやすいことだと言えるでしょう。
実は、プラス表現とマイナス表現のどちらが良くてどちらが悪いという話ではなくて、本当はその間の適度なバランスを保つのが正解です。
プラスの表現のほうが正しいというような論調や風潮もありますが、人の感情や人生といったものがプラスオンリーのはずがないですよね。むしろ、適度なマイナスがあってこそ、プラスのありがたみが分かるものです。
そのため、もしも親が「子供のマイナス表現を直したい」と思った時、単純に「自分のマイナス表現を減らそう」とするだけでは改善しない・・・どころか、むしろ悪化させる可能性もあることは、踏まえておいても良いのではないでしょうか。
最後に、具体的にどうすれば直るのかという話は、生徒の立場か保護者の立場か(はたまた教師の立場か)でも変わってきますし、もともとのネガティブさの程度によっても変わってきます。
こういったあたりは、実際にお寄せいただくご相談やメッセージなどを踏まえながらでないと実のある話にはなりにくいですから、引き続きメールマガジンの中などで折に触れて扱っていきたいと思います。
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