ようやくストリング5月号が下版した。今月は実に厳しかった。予定していた記事が、先の号になったり、新たな記事が入ったり、広告が突然入ったり(勿論有り難いことだ)……書いていて、これは毎月当たり前のように起こることだな、と思ったが、それでも今月は、なんか厳しかった。ブログを書く時間も無かった。無いことはないのだが、気持ちに余裕がなかった。この気持ちというのは、何に例えると理解していただけるだろうか。一歩踏み外したら転落するような崖っぷちを歩いているような感覚? あるいは、海底で、じっと潜んで、爆雷の攻撃に堪え忍んでいる潜水艦に乗っている感覚(勿論、経験はないが)?  爆雷で思い出したが、この体験をした人は、人生で怖いものは無くなったらしい。 あるいは、明日コンサートの本番なのに、何もさらっていないことに気づいたときの感覚? 考えてみれば、毎月必ず何かしらのトラブルはある。思い返してみると、そのトラブルの多さと重みに、押しつぶされそうになる。しかし、よく切り抜けてきたなぁという感慨もある。忘却は有り難い人間の特性だ。うまく回転し出すと、ジェットコースターに乗っているようなダイナミックでスリリングな展開になる。 こういう時の感覚は苦しくも快感である。別にMではない。その趣味はない。ただ、トランペットを吹いているときは、多少Mかもしれない。当代随一のトランペッターであるエリック宮城さんが、トランペッターは多少Mなところがある、と土屋賢二先生のヤマハ銀座のスタジオでのライヴで言われていたが、分かるような気がする。モーツァルトのシンフォニーや管弦楽作品でトランペットを吹いていると、オーケストラを邪魔してはいけない、でも、気づかれない程度に、オーケストラのサウンドを締めなければいけない、しかも、皆にちょうど心地良いくらいに、トランペットが聞こえていなければいけない。といった自己犠牲……。 でも音がはまると、これが快感。ほとんどMかも。
先日、母方の従兄弟から聞いた話だと、母方のルーツは、どうも伊達藩らしい。明治維新で武士は職を失い、いろいろ苦労したが、結局、都落ちして?東京に来たらしい。そして、やれることがないから、剣道の道具を作る職人になったとか。親戚一族郎党そうであり、男は、竹刀を作る家、胴を作る家、面を作る家…といった具合に分かれていたらしい。
道理で、初めて仙台に行ったとき、初めてなのに懐かしい感じがした……初めてなのに懐かしい、という場所は、ときどきある。前世、あるいは、DNAが、呼び起こすのか。新潟に行ったときもそんな感じがした。海外では、そのように感じたことは一度もなかったから、やはり、前世も日本人だったのだろう。
父のルーツは、今度調べてみよう。
ヴァイオリニストの五嶋みどりさんから、メール・インタヴューの原稿が来た。彼女が力を入れているICEP(インターナショナル・コミュニティー・エンゲージメント・プログラム)についての原稿だ。カルテットのメンバーを募集し、自らカルテットの一員として、アジアの子どもたちのために演奏をするのだが、この活動の意味、意義といったものを述べていただいた。誤解を許さぬ正確な文章から、彼女の本当に真摯な姿勢を感じた。中でも、音楽は、ホールの為に作られたものではない、といった趣旨の言葉に、使い古された言葉だが、本当に目から鱗という感じだ。五嶋みどりさんには、二、三年前に、短時間インタヴューをしたことがある。五嶋さんからは、演奏と同じで、何のスキもない言葉が満ちあふれていた。半年後くらいに、ロング・インタヴューの可能性が大だ。スキだらけの私が、スキのない彼女から、どんな話が引き出せるのか、あたって砕けろである。今から楽しみである。

ところで、トランペットを演奏して、難しい場面で、進退窮まることがよくある。こういう場合、わずか1,2秒の間に、様々なことが頭に去来する。何故、自分は、こんな難しい楽器を選んでしまったのか、しかも、何故、1,2秒後に、演奏しなければいけない状況なのか。今からでも辞めることはできないのだろうか。中学時代、フルートを始めたのに挫折し、高校に入って、もう一度やろうと吹奏楽部に入ったものの、空きが無く、トランペットに回されたのが今になってこういう目に遭う原因だった、あのとき、無理にでもフルートにしておけばよかった。僕をトランペットに回した先輩は許せない。しかも、その後、大学でも同じ楽団にいたことはもっと許せない……といったことを、わずか、1,2秒の間に思うのだ。本当である。

こういう場合、以前は、よくあたって砕けろと思ったのだが、これは、たいてい本当にあたって砕けてしまう可能性が大である。そこで、私は、以前にも書いたが、意図的脱力奏法を行なう。そして、あたって砕けろ、と思うよりは、いてまえ、と思った方が成功する確率がどうも高いようだ。もっと言えば、何も考えない方がもっと確率は高いようだ。