怒濤のように過ぎた2023年。
年末になってようやくお休みができ、仕事以外の書籍に手が伸ばせるようになりました。
たまたま某講演で耳にした小説。
講演者の熱い想いもあり、また大好きな原作をモチーフに原題の日本に置き換えての作品というじゃないですか
時間が出来たら必ず読もうと心に誓っていたのです。
そちらの作品とは、水村美苗さんの渾身の小説
本格小説(上)(下)
新潮社HPからざっくりとあらすじを引用します。
ある夜、作家の私に奇跡の物語が授けられた。
米国での少女時代に出逢った男の、まるで小説のような人生の物語。
それが今から貴方の読む『本格小説』。
軽井沢に芽生え、国境を超えて育まれた「この世ではならぬ恋」が身を切るような悲哀を帯びる。
脈々と流れる血族史が戦後日本の肖像を描く。
著者七年振りの最新作は超恋愛小説
エミリー・ブロンテの『嵐が丘』のあの世界、そしてあの人間関係、その複雑な構造を戦後直後の混乱からバブルが崩壊するまでの激動の日本社会で改めて体現しました
しかも、あの複雑な人間関係の中に、作者の水村美苗も語り部のように登場するのです。
その世界の中心にいるのは、まるで磁石のような魅力を備えたヒースクリフ的な東太朗という人物
彼のすべての人生を知る者は誰もいないのね。
ですが、幼いころから大富豪にのし上がるまでの太朗の人生でのそれぞれのステージで、時を同じくして過ごした登場人物とのエピソードや体験が描かれ、断片的ではありますが、徐々に太朗の生き様、そして太郎が愛し抜いたようことの絆。
卑しいと子供のころから、家族からもいじめられ、なじられている太朗。
ですが、もともと頭脳明晰でかつ行動的、器用でなんでも要領よく本質を見極めていく能力があるので、自分をかつてあれほど苦しめ、かつ没落している上流階級への仕返しのような打ち手には感心しきりでした。
ビジネスで大成功し、ひとかどの人物になっても、やはり心は少年のまま成長していないのが切なかったわぁ。
一途に一人の女性を愛し抜き、その人との世界を守りたかっただけなのにね
小説家である講演者もおっしゃっていたけれど、『嵐が丘』を愛しているから故なのか?
本当に読んでいて不思議な感覚でした
舞台は活況だったNYであっても、まだ華族・士族が幅を利かせていた日本の、例えば軽井沢であったとしても、頭の片隅には、常に強風が吹きすさぶ嵐が丘をイメージしているんです
タイトル通り、本当に『本格』小説でした
これを読んで、世の中ではライトな作品が多いんだなぁって改めて思ったわぁ。
もちろん軽めの読みやすい内容も必要だけれど、こちらの作品のように読者の心に楔をどーんと打ち込み、打たれた楔の音の余韻をいつまでも楽しめるような小説も絶対的に必要です
あの激動の時代をこれほど熱く、激しく生き抜いた一人の人物の生き様をあなたも覗いてみませんか?
いつも拙ブログにお越しくださってありがとうございます。
画像がないと寂しいので、映画『嵐が丘』(←何度も映画化されていますが、私の好きな1992年の作品)
ヒースクリフはレイフ・ファインズ。ツンデレな演技が素敵だったわぁ
キャシー/キャサリン役は、ジュリエット・ビノシュです
画像はお借りしました。