上橋菜穂子の小説「守り人」シリーズは
ファンタジー小説であり 図書館では「こどもの本」の部屋にある
けれども 年老いた私でも 読み始めると
しだいにその世界に引き込まれてしまう
小説やドラマというものは
どんな時代背景であり どんな人物設定であっても
そこに「共感」できる部分があるかどうかで
面白さが決まる気がする
時折 テレビドラマを見ていても
どうしても入っていけないときがある
それは 人物描写が不自然であったり
ストーリー展開に 必然性が感じられなかったりして
共感できないからだろう
頑張って製作しているのだろうが と残念に思う
一方 彼女の物語では 架空の世界が描かれ
しかも 現実では考えられないことも 多々起きてくるのに
それでも
そこに登場する人物たちの立場や その関わり方が 丁寧に語られていること
一人ひとりの心の動きが 巧みに描写されていること
それらが 一見突飛にも思える物語を
目の前でありありと展開されている感覚で満たしてくれる
陰謀や思惑などが渦巻く 複雑な立場にいながらにして
しっかりと 芯となる考えを持つ登場人物が表現されている
そして 彼らの身に起こる様々な できごとを通して
微妙に変化していく 彼らの心模様をも 感じ取ることができ
しだいに深く引き込まれていく
極めつけは
その「考え方」の中に 私たち自身の夢や願いを見ることができ
魂を揺さぶるような 清涼な感性が読み取れる点である
彼女の作品は 常に読み応えがあり とてもワクワクするけれども
今回の『虚空の旅人』では特に 為政者の苦悩に 心惹かれた
このシリーズの最初に登場したころの あの幼いチャグム王子は
今では 国の民を率いる 14歳の皇太子に成長していた
大切な跡取りとして 大事に王宮の中だけで育てられたのとは異なり
途中まで 王宮から排除される運命にあった
そのため 宮中だけでは得ることのない 様々な経験を経たことによって
世間の違和感を敏感に感じ取り
細やかな配慮もできるようになっていった
そしてそれでもなお その中に汚れない純粋な心根も
しっかりと 保ち続けていた
国の民を守るためには 様々な駆け引きも必要である
時に それは非情に見えることさえもある
一人の小さな少女の命が 大きな策略の中で 蔑ろにされそうになった時
チャグム皇太子は それを見捨てることができなかった
ただ そこに気を奪われると 国の行く末が危うくなり
結果的に 多くの民を不幸に陥れることにもなってしまう…
彼は思い悩み続ける
今回 彼はその自分の危うさに気づく
しなければいけないことと こういう自分でありたいこととの
相反する気持ちの 葛藤の連続であった
それでも彼は その希望を失わないで生きていくことを誓う
わたしは、あえて、この危うさを持ち続けていく
天と海のはざまにひろがる 虚空を飛ぶハヤブサのように…
…そして、いつか、…兵士が駒のように死なない国に……
……(自分自身が)直接民と向き合える国にしたいと思う
目の前で起きた 悲惨なできごとに もがき苦しみ
人々の命を救おうと 必死に闘ったそのあと
ようやくもたらされた ひと時の静けさ
その静寂の中でつぶやいた彼の最後の言葉が 読後しばらく経っても
私の脳裏でぐるぐると回り続け 心を揺さぶり続けた
そして 私の心の奥深くに
優しいぬくもりと 言いようのない哀しみが湧き上がってきた
私自身も…
たとえ その時には 現実世界との折り合いをつけるため
思い通りのことを実行できなかったとしても
理想とする思いは 捨て去ることなく ずっと持ち続けていきたい
光り輝く 純粋な思いは ずっとずっと抱きしめていたい