ヘルマン・ヘッセ 翻訳の謎 Braunschweig その3
内陸部にあるブラウンシュバイクがなぜ「海岸」になったのか?
この謎を解くには言語的アプローチが必要と思った。
ある人から言わせると、ドイツでは海岸線が最北部の一部にしかないから「海」という表現がややこしいと言うのだ。例えばMeerは中性名詞のゲルマン系言語で主に南部で使われるが海でもあり湖としても使われる。Seeもゲルマン系言語だがこちらは主に北部で使われ、男性冠詞だと湖で、女性冠詞だと海なのである。もうひとつギリシャ系言語でOzeanがあるが、これは男性冠詞がつき「大洋」を示す。
Für den Norden und für das Meer hatte Knulp...Braunschweigische gekommen.
その部分の原語は前段に―北Nordenと海Meerに憧れをもっていた、となっており後段で―ブラウンシュバイクまで行った、となっているのだが地名のブラウンシュバイクがBraunschweigischeとなっていて語尾に-ischeがつき形容詞化しているのだ。
これはシンプルに訳すと「ブラウンシュバイクの」となるので、前段の「北」「海」に掛かると考えてしまうと「ブラウンシュバイクの海岸」になってしまう。
その意味で植訳は誤訳と言えるだろう。
私が疑問なのは地図を見るということをしなかったのだろうか?ということだ。
常盤新平がハードボイルド小説でジャックダニエルズJackDaniel’sを「ジャックダニエル印」と訳した翻訳家がいたと本に書いているが時代的限界あるいは情報的限界もあると思う。(知らない人はあまりいないと思うがJackDaniel’sはテネシーウィスキーの有名ブランドである)
「翻訳家には本当の教養が求められる」とはある大家の言葉だか、本当に恐ろしい。