
堀切への旅 その1 花菖蒲に促され 2011.1
関屋への旅から何日か経ち、「風にさそはれて漂泊の思ひやまず(奥の細道)」ではないが、足を関屋のひとつ先、堀切へと向けた。
京成電車の駅は「堀切菖蒲園」で、かなり有名である。
私も小さい頃から知っているが、行ったかどうかの記憶が曖昧である。
関屋への旅から戻り、関屋という雅な地名に感嘆していると、菖蒲が頭に浮かんだ。もし「堀切」だけだったら「漂泊の思ひ」はなかったかもしれない。花の咲いていない時期の「菖蒲園」というものにも関心を持った。
ところが、私は20代前半に「Last night in 堀切」という散文を書いている。しかもイラストつきだ。私は毎晩のように堀切に住んでいたある女性を車で送っていた。
この詩の事情についてはいつか語る時が来るだろう。稚拙な文章だが愛着がある。
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Last night in 堀切
いつ頃からだろう…
通い慣れたと思いはじめたのは…
さほど古くはない過去だ
でも過去には違いない
無限に拡がる闇に隣接した橋
その橋の途中にはつくりかけの高速道路
闇を抜け、微かに右に折れると街の灯が待っている
別世界への旅のようだった
そこにひとつの幸福を見ていた
その幸福が成就すればいいと思った
しかし、やけにわざとらしい幸福
つくりかけの幸福
突然の終りの失望に恐怖した
自分から終りの日を決めた
最後の夜
無関係の僕が危惧するつくりかけの幸福に包容されて…
ほんとうに祝福できる幸福があれば…
みせかけの幸福
それでも僕は祝福する
きょうは最後の夜だ、と言いきかせて
自分から終りの日を決めたり
みせかけの幸福を祝福したり
ほんとうはそんなに哲学的じゃあない
なす術が無いだけなのだ
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ここで言っている橋は「堀切橋」のことだろう。
ところが驚くことにこの散文には「髪をほどいて」という続編がある(笑)
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髪をほどいて
私は車の中しかも都電の踏切の前
遮断機が降りている
彼女は下校途中
思わず声をかける
声をかけた勢い「送っていくよ」
彼女が元気に少々乱暴に車に乗り込む
私もよく知っている友人をひきつれ
彼女はリアシート、しかも倒れているところに
シートを立て、座席を作る
よく灼けている、海の匂いがする
信号で止まって、後ろを見る
彼女髪をほどいて、灼けた顔で微笑する
全然知らなかった美しさ、少々驚愕
動揺し赤面する
信号に助けられて前を見る
夕方の空
とても楽しい黄昏時の10数分のドライブ
波乗りの話し、大東へ行ったとか
私はプールでの失恋の話し
とても楽しく聞いてくれる
橋を渡るとドライブの終わりが近づく
街は夕方の雑踏
堀切という街
とてもにぎやか
彼女達が下車しても余韻が残る
ひとりほくそ笑んでみたり
会話を思い出してみたり
もうすっかり夜
でも、それにしても
いったいなんの余韻だろう
車中にくまなく拡散している
ほどいた美しい黒髪の余韻だ
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今では記憶があまり確かではないのだが、墨堤通りから千住曙町を左折し堀切橋に入ったと思われる。ところが彼女を下した場所を全く覚えていない。
橋を渡るとドライブの終わりが近づく
街は夕方の雑踏
堀切という街
とてもにぎやか
となっているのだから、堀切菖蒲園駅前交差点周辺だったのだろう。
