U大学Vゼミ発表をきいて
私がその発表を是非聞きたいと思ったのはタイトルが「最貧国・途上国の経済開発」だったからだ。
開始冒頭司会者が「開発というとどういうイメージがありますか?」と場内に問いかけた。こういう時なかなか手を挙げる者はいない。彼女は一番前にいた私にマイクを向けた。私は
「ある特定の価値観で資本投下すること」と言った。
すると彼女は「開発はお金のことばかりではなく、人間の開発もある」と言った。これは危ないと思った。なぜなら開発というのは「利用価値」の無いものを利用できるようにする、行為だからだ。その「利用価値」とはまさしく「特定の価値観」の中だけで語られることが多い。
例えば北海道について和人は「開発」と言うし、アイヌ民族は「破壊」と言う。「人間の開発」という言葉は大変恐ろしい。人間をある特定の価値観の中で利用可能にすることだからだ。
ただ、私は批判者ではない。特に権力を持たないものや、若い人には批判的ではない。人生のトバ口に立った人の場合、批判するより刺激する方がはるかに有益であるからだ。以前ムスリムのゼミ発表の時、「ムスリムに関することだったらなんでもきいて」と促されたので「女性性器切除(FGM)はあるところではムスリムの慣習と言い、あるところではムスリムとは関係ないと言う。実感としてはどうか?」と質問した。
5,6人いたゼミ生は誰も一言も答えられず、先生が出てきて「ユダヤでは習慣ですね」とトンチンカンな返答をされた。私はそれ以上きいても意味がないと思い「ありがとうございました」と言って終わりにしようと思ったら、私の2列前に座っていた男性が私の方を向き「女性のことですよね!」と蒸し返した。おそらく彼も聞きたかったのだろう。私は「ええ、まあ…」などとごまかした。
そこで場を取り繕ろうとして「カーバ神殿の拝礼では誰もが神殿の一番近いところに行かれるのか、行ったら出られるのか?」と聞いた。何度もカーバ神殿のスライドを投射したからだ。ところがこの質問にもすんなり答えられず、かなり時間がたってから「出られます」と一言ボソっと言ったのみ。それは想像なのか?実証なのか?本当は確認したかったが(なぜなら私たちは科学的探究をしているのだから)しなかった。批判に転化しそうだったからだ。「ありがとうございます」と言って退いた。
このようにけして批判的な人間ではない。逆に質問者がいない場合、場を盛り上げようとして挙手するタイプだ。そして、どうせ質問するなら意味のある質問をしようとするかなり善良な市民タイプだ。
ゼミ生発表の「人間の開発」のひとつに教育があり、識字率の低下が問題という指摘があった。つぎに「世界の食料事情」というテーマで、食料生産量は莫大なのに分配がちゃんとされないから貧困地域が発生すると指摘し、私たちにできる方法として3Rを提案した。「食べ物を捨てない」「外食し残ったら持ち帰る」「残った食べ物で堆肥をつくる」???まあ、かわいい意見だ。
マイクロファイナンスのところでグラミン銀行を紹介しそれを「成功」と紹介していた。
質疑応答があり、次の質問をした。
「アフリカ諸国の問題は複数民族、複数言語で一国を形成しているところにある。その中で識字率を高くするということは、ヨーロッパ文字を習得させることか?それはヨーロッパ語の習得を意味するのか?所有言語にヨーロッパ文字を使用する試みはないのか」
この質問にはある伏線がある。インドネシアのある先住民族は、文字がなかったのでハングルを使用すると最近決めた経緯があるからだ。日本も中国由来文字を所有言語にあてはめて使っている。この方が効率がいいのだ。
実はそれに対する明確な返答はなかった。「現地に行っていないので」ということをボソボソ言っていた。
次に「グラミン銀行の金利は高く、しかも現金収入のある仕事をする人にのみ貸すので限界はないのか?」と質問した。すると回答者は「昨今は政府援助があり金利は1パーセントか2パーセントだ」と言った。私には信じられなかった。
最後に、と言い「疾病や食料の不足という急務な問題にはもちろん手当てが必要だが、貧困の根本原因がわからないと永久に貧困は続く、貧困の根本原因はなにだと思うか?」
これもマイクの譲り合いでちゃんとした返答がない。ある人がこう言った「父親の権力が強く、父親が正しく食料分配しない」この返答には正直言って驚いた。少し怒りも感じてきたので私は質問を止めた。
すると後ろに座っていた男子学生が
「植民地主義の清算をしないからじゃないんですか?それをせずに開発だ援助だというのは、上から目線にすぎないのでは」と怒気を含んだ発言をした。発表ゼミ生たちは「上から目線」という言葉には反応して、そうではないと言ったものの、理由を述べることは無かった。
なにかすごく怒りに近い感情があってその場所を後にした。だってタイトルは「最貧国・途上国の経済開発」だぜ。経済とは経世済民の意味だろう…
貧困の根本原因について、少なくともなにか言葉がきけると思った。奴隷貿易における人的資産の損害、文化・コミュニティーの破壊、食料生産の低下、紛争、識字率低下、すべて植民地支配の後遺症ではないか。キャッサバなど根菜類を作っていた農地に土壌に合わないヨーロッパで消費されるものを耕作させられ、民族間の軋轢を利用し支配関係を強化したり、ヨーロッパ文字を用いたり…ほんの一部ではあるが、なにかそんな言葉が欲しかった。そしてそれは現在でも続いている。養魚で生態系を破壊され漁業がなりたたなくなったり、環境汚染、少年兵士、中国のスーダンの農地買収、アパルトヘイトが無くなった南アフリカ共和国では貧困層は豊かになっていない。ジンバブエからの低賃金の流入労働者によってソエトの失業率は増加している。誰が得をしているのか?搾取されているのはアフリカではなく、貧困層なのだ。搾取はさらに過酷になっている。今度は「援助」というマントを着ているからだ…
家に帰ってきてから色々考えていたら眠れなくなってしまった。書けば眠れるだろうと書いてみた。