うわぁぁぁぁぁぁぁ、ひっさびさにトラウマな作品観ました。デミ・ムーア主演「サブスタンス」。女性映画だと思ってオッサン一人、周りの目を気にしながら観に行くと、モンスター・ホラー映画でした。ラストは「そこまでせんでええやろ」と思わず目をそむけたくなるシーンが延々と続きます。
監督さんはコラリー・ファルジャと言う女性監督...えっ女性監督?心の中には我々男性には思いもつかない何かがあるんやろね?背中がパックリとわれて美しく、完璧なボディを持ったもう一人の自分が生まれるように這い出てくる...ってこれ「魔界転生」やないの?「古き骸を捨て、蛇は個々に蘇るべし」ではなく、この物語では「古き骸」もちゃんと置いとかなあかんのです。「母体」と「分身」が一週間おきに入れ替わらなあかん。「謎の声」は言います。「体は二つ、だが心は人格は一つ」なのに一週おきに目覚める「母体」は華やかな人生を送る「分身」にいつしか嫉妬するようになります。そしていつか人格は解離していく...ああーこわっ、怖いわ。
この怪演と言うべきか、渾身の演技でデミ・ムーアはアカデミー賞に臨みました。しかし主演女優賞の大本命に押されながら、「アノーラ」の新進女優マイキー・マディソンにかっさらわれてしまいます。なんかこの映画とダブるんやなぁ。デミ・ムーアは50代にさしかかったかつての大女優を演じています。しかし実年齢は62歳。あらっ私と一緒です。「セント・エルモイ・ファイヤー」で注目され「ゴースト/ニューヨークの幻」でトップ女優の仲間入り、可憐で泣いてばかりいた女の子は「ディスクロージャー」では悪女ながら男たちをやりこめるバリバリのキャリア・ウーマンに、そして「G・Iジェーン」では無茶苦茶かっこええ女性兵士。そりゃあねぇ、昔に比べりゃ肌艶は衰えますが私の衰え方に比べりゃ...失礼、比べる対象が悪すぎます。そんな彼女に敬意を示し多くの方にこの作品をご覧頂き「恐怖」を味わって頂きたいわけです。
数々の名声をほしいままにした大女優エリザベス・スパークルは50歳を迎え人気は陰りを見せ容姿も衰え始めていた。彼女の唯一のレギュラー番組だったエクササイズの番組も若い女性でオーディションを開き番組を刷新すると言われ、プロデューサーのハーヴェイから降板を言い渡される。失望した彼女は放送局からの帰り、運転中に大事故を起こしてしまう。奇跡的にも軽いけがで済んだエリザベスだったが心の大きな傷は癒えず、絶望の淵にいた。そんな彼女に一人の若い医師がそっとUSBを彼女のコートのポケットに忍ばせる。
自宅で「人生を変えた」と言うメモに包まれた〝THE SUBSTANCE〟と言う名前の入ったUSBに気づいた彼女は画像を開いてみた。そこには「一度の注射でより若く美しく完璧なもう一人のあなたを作り出す」と言う広告映像が。一度はバカバカしくUSBをごみ箱に捨てた彼女だったが思い直し広告の電話番号にかけてみた。すると翌日に住所が記載された紙と「503」と言うカードキーが送られてきた。告げられた場所に向かったがそこは廃墟のようなビル。半開きのシャッターをくぐって中へ入ると真っ白な室内にボックスが並んでいる。カードキーで503のボックスを開くと箱が入っていた。家に持ち帰り中を開けると注射器、薬品他キットと説明書が入ったいた。彼女は説明書通り注射を打つ。すると細胞分裂が始まり、背中が割れその中から「完璧で若く美しい自分」が誕生する。「新しい分身」は説明書通り「母体」に処置を施す。説明書には絶対的なルールとして「一週間おきに『母体』と『分身』が入れ替わらなければならない。そして母体からの体液の注射を打つこと」
彼女はすぐさまエクササイズの番組オーディションへ行った。弾けるような若さ、だれもが魅了される美しさ、完璧なボディ...他を圧倒した彼女は審査員もプロデューサーのハーヴェイもたちまちのうちに虜にした。新しい〝エリザベス〟は〝スー〟と名乗る。スーは一週間おきの撮影を条件に番組の主役に決定。新しく番組が始まると視聴率はうなぎ登り、たちまちのうちにスーはスターダムを駆け上がる。一週間置きにエリザベスとスーの体は入れ替わらなければならない。最初のうちはバランスが保たれていたエリザベスとスーであったが、スーは「ヴォーグ」の表紙や大晦日の番組司会者など大きな仕事が次々と決まっていく。するとスーでいる時間がだんだんと増えて行き、「7日間」のルールが守られなくなってきた。するとお互いの体に変調がきたす。「あなたは一つ、すべてはあなたなのだ」と言う教えから逸脱し、人格が別れてくる。スーでいる時は母体のエリザベスを疎ましく思い。エリザベスの時は華やかなスター街道を駆け上がる分身のスーに嫉妬するようになる。そして大晦日が近づいた時、「二人」には恐ろしい結末が待っていた。
前世で果たせなかった夢を野望を...と言うのが「魔界転生」でした。山田風太郎の傑作です。なんかようく似ています。それに加えてラストは「遊星からの物体X」と「リバイアサン」が加わってしまうと言うもうなんかようわからん映画になってしまいました。もうちょっとなんか女性監督らしい繊細さとかなんか...ていうとまた女性差別やとか何とか言う奴がおるんや。まあそんなことはともかく、デミ・ムーア渾身の一作といっていいと思います。本作にはかつてアメリカの良心を演じ続けきたといってもいいデニス・クエイド(メグ・ライアンの元だんなさん)がほんまなっさけなくてみっともない男の代表のようなプロデューサーに扮しています。自分が年寄りのくせして古くなったものは足蹴にし、新鮮で美しいものを求める。ほんまに醜い。印象的なシーンがあのきったないエビの食い方。この監督は年老いた男の口元を思いっきりアップにしてむしゃむしゃと大量のエビを食べ続けさせ、殻を吐きまくらせる。ホンマに汚い。それをいやと言うほどアップで撮り続けるんですなぁ。それはこういう汚い男どもが女の品定めをするんだと言わんばかりに...。まあこの作品にろくな男は出てきません。若いスーの恋人はスーの母体であるはずのエリザベスを罵る。向かいに住むアホな男は室内の物音がうるさいとエリザベスに怒鳴っているつもりがスーが出てくると態度がコロッと変わる。まあよっぽど男を目の敵にしとるんですな。そりゃしゃあない、一部の熟女好きは別にして大概の男は自らの容姿が衰えていくのは横に置いといて新鮮で美しいものに目が行く。逆に女性もしかりです。けど、驚いたのは分身であるはずのスーを演じたマーガレット・クアリー。バカな男じゃなくとも目が行きます。美しい!ハリウッドにはこういう女優さんが綺羅星の如くおるんやなぁ。これからが楽しみな女優さんです。
それにしてもです、自分がなんか嬉しかったのが「背中を割って新しい自分が生まれてくる」と言うこの奇想天外な発想!これを60年も前に日本の作家が小説に書いていたと言うこの事実。これが嬉しい!なんか出し抜いてやったと言うか、一本とったったと言うか...我ながら自分のレベルの低さに驚きます。けどまさか山田風太郎先生をヒントにしたわけやないよな?