この「ザ・ホエール」と言う作品でブレンダンフレイザーが本年度のアカデミー賞主演男優賞を獲得しました。ブレンダンフレイザーと言えば「ハムナプトラ」シリーズでミイラ相手にインディジョーンズ張りの活躍が目に浮かびます。うーん、まあそれだけ...。このシリーズ後は相手役のレイチェルワイズの方がズドーンと突き抜けてしまいました。このあと色々あったらしく、役者生活からしばらく離れてこの作品がカムバック作品だそうです。こう言う話は同じく助演男優賞を獲得したキーホイクァンと一緒。何があったかよくは知りませんが「ハムナプトラ」では彗星の如く現れたニュー若手アクションスターのような感じだったのによくよく苦労されたんでしょうね。この作品では「ハムナプトラ」でのあの勇姿はどこへやら、同性愛に走って家族を捨て、相手は自殺、挙句の果てに過食症、200キロ以上の巨体になって命も危ないと言うマイノリティの引き籠り...あっ、こう言う発言は差別発言やねんね。
チャーリーは数年前に家族を捨てて同性愛に走った。だが同性愛の恋人が死を遂げたことで過食症に走り200キロを超える巨体となり、歩行器がないと動くこともままならない。その姿に劣等感を抱く彼は人前に姿を現すことを避ける引き籠りとなった。今は大学のオンライン受業の講師としてなんとか食い繋いでいたがその姿は決して画像には写さない。彼の友人と言えば亡くなった恋人の妹で看護師のリズ。彼女はチャーリーの世話のため毎日のように彼の元に訪れ何かと面倒を観ている頼りになる存在だった。
ある日、一人でいるときに発作を起こしてたチャーリーはたまたま勧誘に来た新興宗教の宣教師トーマスに救われる。トーマスがリズを呼び何とか事なきを得たのであった。リズはチャーリーに入院を勧めるが彼は頑なに拒む。そして命を救ったはずのトーマスにもすぐに立ち去るように勧告する。死んだリズの兄も同じ新興宗教の宣教師であり、兄が非業の死を遂げたのはその宗教が原因だったのだ。
一方、チャーリーは自らの死期が近いことを悟り、別れた娘エリーを呼び寄せる。幼いころに自らが捨てた娘は当然の如く父親を恨んでいた。高校を卒業することも危うい彼女は自分の父を「おぞましい姿」と罵り、ネットで写真を晒す。とんでもない娘であった。だがチャーリーは最後の贖罪のつもりで卒業するための課題となっているエッセイを見てやること、自分の財産を渡すことを約束し、ほんの少しの間でも一緒に過ごすことを希望する。果たしてチャーリーは心も離れ、性格も歪んでしまった娘の愛情を取り戻すことができるのだろうか。
この物語は、世界中を巻き込んで論争となっている差別問題が含まれています。自らを「おぞましい姿」と思い込んでいる主人公が一番言われたくない存在から一番言われたくない言葉を吐きかけられる。そう一人娘から「おぞましい姿」と吐きかけられる絶望的な状況が強烈な印象でした。引き籠り、過食症、200キロを超えるうっ血性心不全、おまけに同性愛と言う圧倒的マイノリティの彼が何とか娘との関係だけでも改善したいと言うその姿。カメラは部屋の外から殆んど出ません。まるでヒッチコックの「裏窓」みたい。この主人公チャーリーの世界観だけをこの監督さんは描きたかったんやと思います。けど過食症って怖いねぇ。心のバランスが崩れ常に何か満たされない気分になる。それは恐怖を紛らわせるものであったりもするわけで、あの大量のピザをほおばる姿は恐怖ですよね。
おそらくメイキャップも凄かったと思うけど自らの体重も増量したでしょう。「ハムナプトラ」の時から結構骨格は太い人やなあと思っていたけど、なんかあんまり凄い凄いと言うと差別発言なってしまいそうで...ああ生きにくい世の中。題名の「ザ・ホエール」ってクジラのような体のことを指しているのかと思いきやこの作品には〝Mobby Dick〟小説「白鯨」に関するエッセイがよく出てきます。両方やねんね。ラストの物語の閉じ方はなんかこうしっくりこんと言うかわけがわからんところがあったんやけど監督さんはダーレンアロフノスキーと言う人で「ブラックスワン」でナタリーポートマンにこれまたアカデミー主演女優賞をもたらした人。こっちは「見た目」よりも心の奥底に潜む、エゴ、猜疑心、名声欲と言った「おぞましいもの」を見せつけました。人間の「みたくないもの」を見せつけると言うか晒すと言うか、そんな監督さんです。