先日、現地時間3月27日(日本時間3月28日)に例年通りアメリカ、いや世界最高峰のエンターメント業界の式典、第94回アカデミー賞の授賞式が行われました。作品賞「コーダあいのうた」(私一押しの作品でございます❣)、監督賞ジェーンカンピオン「パワー・オブ・ザ・ドッグ」、主演男優賞ウィルスミス「ドリームプラン」、主演女優賞ジェシカチャスティン「タミー・フェイの瞳」、助演男優賞トロイコッツァー「コーダあいのうた」、助演女優賞アリアナデポーズ「ウエストサイド・ストーリー」。
うーん見事に割れましたねぇー、それだけ今年の作品のレベルが高いと言うこと。日本から殴り込みをかけた形の「ドライブマイカー」も作品賞、監督賞にもノミネートされましたが主要五部門での受賞はならず、でも国際映画賞(昔でいう外国語映画賞ですよね)をがっちりとキープ、関係者の皆様おめでとうございます!今年は質が高かったですよー。ちょっとアンラッキーやったかな?でも今年のハイレベルでの中でのノミネートそして国際映画賞の受賞は凄いです。作品賞を受賞した「コーダあいのうた」は私の中では大本命。いい映画です。そんなハイレベルな今年のアカデミー賞なのに受賞作品よりも「ある事件」がスポットライトを浴びてしまいました。そう、「ウィルスミス、クリスロック張り手事件」です。
私も後でビデオでみたんですけどね。クリスロックがプレゼンターで登場した時、いつもの如く毒舌ジョークを飛ばしました。それがウィルスミスの奥さん、ジェイダピンケットスミスが丸坊主にしていることに関して「『G.Iジェーン』の続編は?」とかなんとか、軍の特殊部隊に女性隊員が入隊する話やねんけど、主演のデミムーアが軍に入る時に丸坊主にするシーンがあるんやけどこれに引っ掛けて揶揄したわけやね。その瞬間、確かにジェイダは顔を曇らせました。でも一瞬、ウィルスミスは笑ってたように思うたんやけどね。けど次の瞬間、テレビカメラはつかつかと舞台に上がっていくウイルの姿を映していました。と、思ったらバッチーン!響いてました。そのあとも席について「妻の名前を口にするな!F●●K!」とかなんとか。これがみんなの脳裏にずーっと残っちゃいました。
で、このあと主演男優賞を獲ってしまったから、バツが悪いんちゃうかと思いきや悪びれすることなく、涙を流しながら、「アカデミーの会員の皆さんに謝りたい、ノミネートされたみんなにも謝りたい、また呼んで下さい」とまあこのあたりはさすがアメリカ人、日本人と違って照れも隠れもせず頂いて帰りはりました。しかしまあ一週間近くたった今でもネットではスミスが悪い、ロックが悪いと賑やかな事です。
しかしアメリカと言う国はわからん国ですねぇ。当然映画文化の発祥地、私は当然好きな国なんですがまあ完璧で完全無欠の国だとは思いません。「病んでません?」と思うことも度々思います。ウイルスミスの奥さんは脱毛症の病に悩まされており、瞬間やはり不快な顔をしておられました。やれ、Mee Toだ、トランスジェンダーだ、マイノリティだと人権人権と言いながら、会場には笑い声が溢れてました。スミスの平手打ちに「暴力は許されない」「オスカー剥奪」とかいいながら、ベトナムは?イラクは?アフガンは?広島、長崎の原子爆弾は?これ以上の暴力がある?クリスロックはお構いなしですか?まあ偉そうに言ってもどこの国も似たり寄ったりのことしてますな。私の結論を偉そうに言わしてもらいますと「もうええやん」です。私、正直言うとウイルスミスとクリスロック、どちらもそんな好きではありません。スミスはあんまりにも人種差別のこと言い過ぎ。ハリウッドでマネーメイキングスターの座に就いて発信力もあるんやろうから主義主張は大いに結構ですが、このコロナで東洋人を小突き回しているのは黒人です。黒人だけが差別されているわけではありません。それからクリスロック。傲慢です。アジア人の私から見ればこの人のジョークで私は笑ったことがありません。今回のように人を傷付けることが多いんでね。握手して終わりでええんやないの?それよりみんないい映画たくさん作って俺らを楽しませてえな。それがあんたらの仕事。
まあ、前置きが長くなってしまいましたがこのハプニング・オスカーナイトで今回観たケネスブラナー監督作品の「ベルファスト」、これも今回7部門でノミネート、脚本賞を受賞しました。このケネスブラナーって人、イギリスの映画人です。役者として監督としてほんとにいい仕事をしています。王立演劇学校を首席で卒業、まさに舞台のため、映画のために生まれてきたような人です。今回もモノクロを駆使し、遠い遠い国であるはずなのにベルファストと言う不安定な土地で、なぜか日本人の私でさえ郷愁を覚えてしまうようなこの作品。ケネスブラナーの自伝的作品だそうです。なぜか観ている者を望郷の彼方へ誘うような映像。憎しみが絶えず暴力が蔓延る町ベルファスト、絶望、悲しみ、怒り、やるせなさ...。でもこの町が好き、生まれた時からこの町しか知らない。この町の人しか知らない、この町しか愛せない。ケネスブラナーの思いが込められた作品です。
1969年ベルファスト。9歳の少年バディはこの町で生まれた。父と母、そして兄との4人家族。近くにはやさしい祖父と祖母がいる。町の人々はみんな誰もが自分のことを知っている。父はイギリスへ出稼ぎに行っており2週間に一度しか家に戻って来ない。それが少し寂しかったが学校には好きな女の子もいる。父が帰ってきた時は家族で教会へ行き、そのあとみんなで映画を観に行くのが楽しみだった。ごくごく幸せな毎日を過ごしている。この日もいつものように夕刻、母が外で遊んでいるバディに「夕食だから帰っておいで」と声をかける。いつもの何も変わらぬ平和な日常だった。だがその時、バディの目に異様な光景が目に入った。武装した集団が突然ある一定の家に襲撃をかける。襲っている集団はプロテスタントの過激派集団、襲われているのはカトリック信者の家だった。バディは何が何だかわからない。母は外に飛び出し怯えるバディを家に連れ戻した。
暴動が終った後、町にはバリケードが築かれ、警官達の見回りが厳しくなる。町はプロテスタントとカトリックの家族が混在する複雑な土地だった。プロテスタントだったバディの家に被害はなかったが、その日を境に家に戻って来た父に町の過激派プロテスタントのリーダー、ビリーが仲間に入れと強硬に誘うようになる。ベルファストのある北アイルランドは複雑な土地であった。1920年代ようやくの思いでイギリスから自治権を得たアイルランドだったが独立に猛反対だったプロテスタントが多数派を占めるアイルランドの北部6州が北アイルランドとして独立したアイルランドから離脱、イギリスに留まることになる。依頼、アイルランド独立の図式はプロテスタントVSカトリックとなり、圧倒的にプロテスタント派を占める北アイルランドではカトリック派への弾圧が始まった。ベルファストはまさにその中心地であった。差別が横行し、暴動が日常茶飯事のベルファストは子供が育つのには最悪の環境だった。
一方でバディの家では母親が家賃や税金の支払いに苦悩していた。出稼ぎのため大半を家で過ごすことのない父は安心して働けるイギリスへ皆で引っ越そうと提案するが、母は戸惑いを見せ、バディは激しく抵抗する。そんな時、祖父が倒れ再びプロテスタント過激派が町を襲う。その中に友達に無理やり引き込まれたバディの姿があった。母は命がけでバディを助けに向かう。家族たちにとって重大な決断が迫られていた...。
この物語の主人公であるバディ少年は50年前のケネスブラナー少年の姿です。ブラナー監督によればこの作品を作ろうと思ったきっかけはやはりこのコロナ禍だそうです。「ある日、ロックダウンによって突然すべての日常が、生活が変わってしまった。これからどうなるのかわからない状況と不安は、闘争が起こったベルファストで感じた気持ちに似ていた」そうです。そして「家族でベルファストを後にした時の気持ちを映画にしよう」と...。やはりこのコロナ禍と言うのは世界中の人々の人生にほんとに影響を与えています。おい!聞いとるかキンペイっ!
思えばケネスブラナーは1960年生まれ、私は1962年生まれ。同世代です。なぜこうも違うか?って言うことは横に置いといて...彼は既に9歳で゛戦争の体験をしていたと言うことになります。同じ頃、私は何も考えずただ、広っぱで野球をやっているだけ。大きな違いです。でもなぜかこのモノクロ画面には郷愁を感じます。ノスタルジックに浸ってしまいます。でもなんかあの時近所のみんなが自分を知っていた。自分もみんなのことを知っていた。さしてその土地から離れなければならないその思い。離れなければならない理由は皆、違えどそういう事を体験して子供は大人になっていきます。
私の好きな作家にジャックヒギンズと言う小説家がいます。彼が書く小説は背景がアイルランド紛争と言うのが多いんですよね。ですからベルファストと言う地名、舞台はよく出てきます。そこで悲しみを背負ってしまい、傷付いたヒーローがよく登場します。ある者はテロリスト、ある者は軍人。だからどれだけ血が流れ涙が流されたか。残念ながら遠い遠い国の出来事です。日本人にとってはアイルランド紛争と言うのが馴染みが薄いというのは仕方ないことかもしれません。偉そうに言ってますが私だって通り一遍のことしか知りません。しかしながらアイルランド、イギリス双方の多くの人達が傷付いたのは間違いありません。そんな中で映画人ケネスブラナーは生まれました。映画界、演劇界の天才児ケネスブラナーの原点を観せてもらった気がします。
最後にアカデミー賞の「ビンタ事件」に話しを戻しますが、事が起こった後、デンゼルワシントンにウイルスミスがこう諭されたそうです。
「最高の瞬間にこそ、悪魔は囁くんだ」
さすがですね、「ハリウッドは腰抜けばかり、オレなら2億ドル(約240億円)の訴訟を起こすね」との賜ったジムキャリーの阿呆とは大違いです。腰抜けはお前や、本人によう言わんと外野から。だから下らん映画しか作れんのや、お前は!こいつもコメディアン出身。コメディアンだからどんなジョークを言っても許されると思わんのやけどね。一発張られて240億円ももらえるんやったらキリストやないけどもう一方の頬も差し出しますぅ~。それに比べればデンゼルワシントンはやはり人格者です。黒人俳優の系譜はまずは先日、亡くなられたシドニーポワチエ。ワシントンは初めて主演のオスカーを手にした時、スピーチで会場の席に座っていたポワチエにこう言いました。
「あなたの背中ばかり追い続けていた!」
憧れの俳優の目の前でオスカーを手にして感無量だったと思います。ウイルスミスがどう売れようとポワチエ亡き後、黒人俳優の先頭に立つのはデンゼルワシントンです。そして彼がシドニーポワチエの背中を追ったように、ワシントンの背中を追うのがエディマーフィーであり、ウイルスミスであるはずなんやけど、やんちゃやからねぇ、この二人は...。
なんにしても早くこの騒動が収まってスミスにはまたいい作品に出てほしいものです。はい。