今回はポーランドからの作品です。ポーランド映画って珍しいと思うかもしれませんがマニアの映画ファンにとっては頭に思い浮かべるのはやっぱりアンジェイワイダ監督。「灰とダイヤモンド」「鉄の男」「大理石の男」「カティンの森」。
社会派監督として、祖国ポーランドを愛し、ナチスドイツに蹂躙され、ソ連共産主義に侵された愛する祖国ポーランドの自由を、民主化を謳い続けたまさに「鉄の男」です。
そんな彼の血が脈々と流れているのでしょうか?今もポーランドは観ている我々に何かを問い続け、訴えかけています。本作「聖なる犯罪者」はそんなポーランドを伝える作品です。実際に起こった物語を題材にしています。
ポーランドの少年院で過ごす、ダニエル。院内では看守の目を盗んでは暴力が横行し若者たちは荒んでいた。ダニエルもご多分に漏れずそんな仲間の一人だった。彼の心のよりどころは院内でミサや説教を行うトマシュ神父。彼はトマシュ神父のようになりたいと願うが犯罪者は聖職者になれない。そんなダニエルに仮出所の日が来た。彼はトマシュ神父の紹介で田舎町の製材所で働くことになるがどうしてもそんな気になれない。製材所を通り過ごしやって来たのは町の外れの古い教会。居合わせた司祭の娘マルタに彼は「司祭だ」と冗談のつもりで嘘をつく。町の司祭は持病もちでたまたま新しい司祭を探していたと言う。暫く検査入院を受けるのでその間、町の司祭を務めてほしいと言う。
ダニエルは渋々引き受けることになった。彼の告解、ミサ、説法は型破りであったが最初は戸惑っていた村の人々もこの若き司祭に徐々に惹かれていく。司祭となったダニエルは常々疑問に思っていた村の入り口にある祭壇について触れていくことになる。一年前に悲惨な交通事故により無くなった人々だ。この村の司祭家族の息子もその一人。マルタの兄である。祭壇に奉られているのは7人。だが事故で亡くなったのは8人。あとの一人は交通事故を起こした張本人、車の運転手である。以後遺族の恨みを買い、彼の妻は村八分にされ夫の遺骨はいまだに埋葬さえされていない。ダニエルはこの不条理を人々に訴え、最初は困惑していた村人たちも葬儀を了承することになった。だが、葬儀の当日、執り行うダニエルの前にトマシュ神父が現れる...。
善か悪か、それとも悪人の心の中に善の心が潜むのか、善人の心の中に悪の心が潜むのか。これ、ポーランドで起こった実話なんだそうです。仮出所をするこの若者って聖職者に憧れているものの決して改心してないですよね。ところがこの村の教会で聖衣を身に纏ったとたんに「らしく」なってくる。結果的に言うとトマシュ神父の出現によって彼は元の木阿弥に戻ってしまう。逆に彼の憧れであるトマシュ神父は果たして本当に善なのか?問題は尽きないと思う。
このようにヨーロッパの一部の国々の映画って暗いですよねー。やっぱり007シリーズや、ハリウッドのノーテンキ作品の方に皆、走ってしまうと思うんですよ。だから平時ならあまり映画館に足を運ばないこういった作品もハリウッド映画が入ってこない今だからお目にかかれると思います。無下に無意味にこのコロナ禍を過ごすよりも有意義に過ごしましょう。