珍しいハンガリー映画です。ハンガリーって国は古来紀元前よりローマ帝国に占領され、4世紀ごろローマの力が弱まったかな思ったら、お次はかのアッティラ大王のフン族が侵入、瞬く間にアッティラ大王に支配され、アッティラ大王が死んだあとはさまざまな民族の侵入にあい、ようやく10世紀にハンガリー人の君主が即位して王国に落ち着いたかと思うと、中世にはモンゴル帝国、オスマン帝国の襲来。20世紀にはいると今度はソ連の台頭。そして第二次世界大戦ではナチスドイツに占領。ヨーロッパのあちこちにはユダヤ人が数多く住んでたんですねぇ。ハンガリーもその一つ。ホロコースト(大量虐殺)が行われたわけです。
そんな中、家族を失いながらもなんとか生き抜いた一人の中年医師と16歳の少女。同じ境遇を味わった二人が惹かれあい寄り添う姿が、なんとも痛々しく切ない気分にさせてくれます。見知らぬ二人が出会い、この世に取り残されたように生きる二人を描いた「この世界に残されて」は何ともいたたまれない気持ちにさせてくれる作品です。
1948年、第二次世界大戦後のハンガリー。ユダヤ人医師、アルドは診療所と自宅の往復を繰り返すだけの毎日を過ごしていた。そんな彼の元へ叔母に連れられた、16歳の少女クララが訪れる。彼女はナチスドイツのホロコーストで両親と妹を失ったユダヤ人の一人である。淡々と説明をするアルドになぜか突っかかり、気性の激しさを見せるのだが、アルドに自分と同じ匂いを感じ取り、その日から度々、アルドの診療所へ顔を見せるのだった。アルドは戸惑いながらも彼女を受入れる。彼もまた、妻と子供の命ををナチスドイツに奪われた一人だったのだ。
ある日、叔母と喧嘩をしたと言うクララがアルドの元へ転がり込んできた。後日、クララの叔母にアルドは「あの子には父親のような存在が必要なの、どうか彼女を受入れてやってほしい」と伝えられる。困惑しながらもアルドはクララを受入れ、二人の奇妙な共同生活が始まるのだった。夜中、クララはアルドのベッドに潜り込むがお互い背を向けて添寝をするだけ。しかし確かに、二人の間にはある感情が芽生えつつある。お互いをいたわりあい、家族を奪われた悲しみを分かち合う。そんな生活に二人は安らぎを感じていた。
だが、ナチスドイツに踏み荒らされた後のこの国にはソ連の共産主義の影が忍び寄ってきた。二人の周りの人々は逮捕、あるいは共産党員への入党を余儀なくされ、また自由のない共産主義の世界からは二人の存在は弊害として映る。共産党員の教師たちから目を付け始められたのだ。二人は時代の波に翻弄されていくことになる...。
美少女クララを演じたのが、ドイツ生まれのアビゲールセーケと言うまだ22歳の若手女優。この作品が初主演だそうです。22歳だからこの妖しい魅力も納得ですが制服を着れば16歳に見えなくもない。少女と女の間を揺れ動く陽炎のようななんとも形容しがたい魅力。世の中年男性はこんな子に添寝されたらたまらんですよ。北欧美人と言うのは少女もそれ以上の存在に見せてしまいます。ナチスのホロコースト、その後にやって来る共産主義の嵐。時代のうねりの中でようやく二人だけの居場所を見つけたのにその存在は稀有なものとして扱われるんですよね。中年医師は少女を死んだ娘の化身のようにも思い同時に女を感じてしまう。少女は失った父親代わりのようにも思い、同時に彼の前に出現する女性に嫉妬も感じてしまう。何とも危ういながらもお互い新しい一歩を踏み出そうとする。そんな再生の映画でもあるんです。