シチリアーノ 裏切りの美学 | kazuのブログ

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昔々の若い頃、マフィア、コーザノストラ、シンジケート...なんかとんでもない闇やねんけど、こんな単語に興味を惹かれてマフィア本を読み漁った時期があります。義理と人情の日本ヤクザの世界とはなんかまた違う、なんか一種何とも言えない底知れぬ。恐ろしさを感じ、怖いもの見たさだったのか、何だったのか。ラッキールチアーノやフランクコステロ、マイヤーランスキー、バグジーシーゲル、ヴィトジェノベーゼ、アルバートアナスタシア等々(普通の人はこんなん知りませんわなぁ)、そんなギャングスター達の名前に興味津々の時期がありました。そんな時読んだ本の一冊にこの作品の主人公トンマーゾブシェッタの一説がありました。「マフィア」と言えばアメリカ・ニューヨーク。そうニューヨークマフィアの作品と言えばかの名作「ゴッドファーザー」ですがこの作品で一気にスターダムに上り詰めたアルパチーノが演じたマフィアファミリーの三男坊マイケルコルレオーネのモデルこそこのラッキールチアーノ。そのインパクトがあまりに強く、マフィアと言えばアメリカ・ニューヨークなんですが、もとはと言えば発祥の地はイタリア、シチリア島パレルモ。その本家本元で1980年代に起こったマフィア戦争の中心人物こそがこのトンマーゾブシェッタです。

しかし彼は英雄でもダークヒーローでもありません。世間では「悪党」、裏社会の仲間からは「裏切り者」と罵られる男の物語です。

時は1980年代シチリア島、パレルモ。マフィア=コーザ・ノストラの牛耳る闇の世界ではパレルモ派とコルレオーネ派と言う二大勢力が抗争を繰り広げていた。そんな中、ある豪邸のパーティーで二つの派閥が顔を揃えていた。大勢の手前、表面上は取り繕っていたがパレルモ派の大物トンマーゾブシェッタはそのパーティーで不穏なものを感じ、数日後、三人目の妻クリスティーナを伴い、自らのビジネスの拠点であるブラジル、リオデジャネイロへ居を移す。ブシェッタの去ったパレルモでは冷酷なボス、サルヴァトーレリイナが率いるコルレオーネ派が勢力を増し、パレルモ派から寝返るものが続出、残ったブシェッタの仲間たちもそしてブシェッタの身内でさえ、次々とコルレオーネ派の凶弾に倒れていった。そして前妻との間の息子たちも行方不明となった。ブシェッタがイタリアへ戻ろうかと思案していた時、彼は麻薬の密売容疑でリオデジャネイロの地元警察に逮捕される。ブラジル警察の強引な拷問にも決して口を割らなかったブシェッタは遂にイタリアへ身柄を引き渡されることとなる。

パレルモで彼を待っていたのはイタリアマフィア撲滅運動の旗手ジョバンニファルコーネ判事。リオでの拷問にも耐え続けたブシェッタではあったが毎夜夢枕に立つ、コルレオーネ派に殺された仲間や身内の亡霊に苛まれ彼の精神は限界に来ていた。一方ではファルコーネ判事の聴収が続く。

「当時のコーザ・ノストラは子供には手を出さなかった。組織に倫理観があった。今はそれもない」

だがファルコーネは

「凶悪な旧マフィアを美化する伝説だ」

と一蹴する。

命を危険にさらしても自らが先頭に立ってマフィア撲滅を訴えるファルコーネの毅然とした態度に金の損得勘定と裏切り、そして殺し合いだけが続く今の組織に絶望した彼は遂にマフィア古来の風習「オメルタの掟」(沈黙の掟)を破りファルコーネの聴収に応じる。

ブシェッタの供述により逮捕者366人が出たパレルモ大裁判が行始まる。パレルモの法廷には特別鉄格子が設置され、逮捕されたメンバーからの猛烈な非難の中、遂にブシェッタは証言台に立つ。次々とメンバーたちが裁かれていく中、ブシェッタの唯一の心のよりどころだったファルコーネ判事が爆殺される。そしてブシェッタの仇敵リイナが逮捕。そしてそんな証言の中でリオに発つ前、息子二人を託したかつての盟友が息子たちを手にかけたことを知りブシェッタは愕然とする。そんな悲しみも束の間、法廷でリイナと対決する時が来ていた。そして彼の前に立ち塞がるのは「裏切り」に対する代償、自ら身を置いた組織コーザ・ノストラからの報復と言う、彼が死ぬまで続く恐怖との戦いだった...。

シチリア島という島は古くはギリシア人、ローマ帝国、そしてフランスのナポレオンからも蹂躙された土地です。「警察は当てにならない。自分たちの土地は自分たちの手で」そんなシチリア人達が圧政に苦しみぬいた末に生まれたのが「我々のもの」=゛コーザ・ノストラ"ともマフィアとも言われる組織だと伝えられています。もとはと言えばかつてのニューヨークマフイアもシチリア島出身者、移民だけで組織されたものだと言います。それが時を経て闇社会に根を下ろした犯罪者組織になったそう。彼らの組織の掟には「オメルタの掟」=「沈黙の掟」と言う不文律があります(組織のことを口外してはならない。特に警察には)。それは何よりも犯してはならないもの。マフィアの長い歴史の中でそれを犯した者が僅かながらいます。その中の一人がこのトンマーゾブシェッタです。そしてアメリカマフィアの中では何といってもジョゼフバラキ。彼の証言で「マフィア」という組織が白日の下にさらされることになりました。これに関してはチャールズブロンソン主演の「バラキ」で描かれています。興味ある方はTSUTYAでも何でもレンタルで観てください。

なのでこの作品も結構思入れの強い作品です。コーザ・ノストラってシシリーの人たちの間では「名誉ある男」達しか入れない組織だったんですね。16歳の頃に組織に入ったブシェッタは当時は有頂天だったそうです。それから頭角を現しボスの座へ。しかしその座に就いてみればその組織は名誉とはかけ離れた組織になっていた。彼が人生と引き換えにしたものはあまりに大きかったということですね。怖い、恐ろしい、でも神秘的で魅力的。危ういものに引かれるというのが男の悪いとこやね。