赤い闇 スターリンの冷たい大地で | kazuのブログ

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サラリーマン社長のムービートラベル

ハリウッドの話題作、超大作が全く大手の映画館で上映されませんな。撮影も編集も何もかもストップしているからなんでしょう。今月中旬頃からボツボツと公開される模様。本当、こんな時代が来るとは...

そんなんで大手映画館ではリバイバル作品やアニメ、邦画ばっかりなんですが一方で、今まで3Dなんかに押されていたリーブルなんかで小作のヨーロッパ映画が結構上映されています。日頃、どうしてもハリウッドの大作に足を運びがちですがこういう時はじっくりとヨーロッパやインディ系の味わい深い、玄人好みの作品を...

そんな中で上映されていたのが「赤い闇 スターリンの冷たい大地で」。

第二次世界大戦前夜、独裁者スターリンの共産主義一色に染まったソビエト連邦共和国での物語です。実話です。「すべての国民、皆平等。皆が幸せを分かち合えるパラダイスのような国」共産主義の理念て、こんなんでしょう?実際は中国、北朝鮮はそんな理念とは全くかけ離れていることがわかります。本作の舞台、ソビエト連邦は崩壊し、ロシアとなり、東ドイツは併合され、ルーマニアの独裁者は哀れな末路を辿っています。この作品の時代背景はまだ「共産主義」が新鮮でスターリンの「新しい試み」は一部で絶賛され世界恐慌が続く中、ソ連だけは「繁栄の道を歩んでいる」と伝えられた時です。その謎に迫る一人の記者が白雪の大地で観たものとは...

1933年。元英国首相ロイドジョージの顧問を務めていたガレスジョーンズはアドルフヒトラーの単独取材に成功した取材記者でもあった。彼はナチスドイツの脅威をイギリス政府の要人たちに訴えるも一笑に伏され遂には顧問を解雇される。そんな折、ソビエト連邦での単独取材を敢行していた友人のポールクレブが消息を絶つ。ジョーンズは常日頃から世界恐慌の中、唯一スターリンの「新しい試み」によって経済の繁栄を謳っているというソ連の実像に疑問を持っていた。彼はクレブの消息とソ連の取材を目的にモスクワへ発つ。モスクワで彼を出迎えてくれたのはニューヨークタイムズのモスクワ支局長ウォルターデュランティだった。そしてジョーンズはデュランティからポールクレブが強盗に襲われ殺されたと伝えられる。退廃的なモスクワの夜の接待でまるめこもうとしているデュランティに対し、クレブの死に疑問を持ったジョーンズはデュランティのドイツ人秘書エイダから「真実はウクライナにある」と言う情報を聞き出し、ソ連の監視人の目をごまかして列車で一路ウクライナへ潜入する。

列車の中でモスクワのホテルから持ってきたパンや果物を口にするジョーンズは乗客たちのあまりにも異常な眼差しを感じる。列車から降りたったウクライナは見渡す限りの雪原の大地。そこでジョーンズは地獄のような光景を目の当たりにする。農民たちは穀物をすべてモスクワの中央政府へ吸い上げられるのである。厳寒の中、飢えと寒さに耐え切れず白銀の世界で行き倒れて死んでいる人々、死んだ母親のもとで泣き叫ぶ子供、あばら家の様な民家で肩を寄せ合いかろうじて生きている人々。想像を絶する光景にただひたすらジョーンズはカメラのシャッターを切り続ける。彼はこの現状を世界中に訴えようとするのだが...

「パラダイスのような国」。かつて北朝鮮も大戦後、国政の労働力確保のため日本で暮らす在日の人たちに対して祖国へ帰るようこんな謳い文句で人材を確保しようとしていました。でも一度「国」へ帰れば外へ出ることは許されない。まさに生き地獄。結局、共産主義って何も生まないんですよ。生むのは独裁者の権力だけ...おかしいと思いませんか?「皆平等」と言いながらある特権階級だけ裕福な暮らしを送る。すべての民が平等に食べ物や住居や利益を分け与えられる。けど平等に分け与える人間が必要なわけです。それが権力者、独裁者です。そして分け与えられるものは利益でなく。見るも無残な「貧困」という代物です。

80年、90年前のこのソビエト連邦の姿を今、北朝鮮はコピーしているんですよね。私はつくづく幸せな国に生まれたと思って感謝しております。国に対し自由に言いたいことが言える。それがすべて受け入れるわけではない。でも「言える」ことこそが幸せなんです。この記者が転がり込んだ農家は幼い姉妹たちだけが暮らしています。スープの中に入った肉を見て問いかけます。「どこで肉を手に入れたんだ?」裏の出口を出ると彼女たちの兄らしき男の子の遺体が...すべてを悟り食べていたものを吐き出します。

私の大好きな作品の一つで韓国映画の「シュリ」と言う作品の一説にこういうシーンがあります。北朝鮮の工作員が韓国の公安部の捜査員にこう訴えます。

「お前は辺境の地で死んだ子供の肉を貪り食う鬼畜のような親の姿を見たことがあるか!」

このセリフと本作の劇中で貧しいウクライナの農家の子供たちが凍てつくような村の中で歌う歌がシンクロするんですよね。

「飢えと寒さが家の中を満たしている

       食べるものはない、寝る場所もない、

          隣人たちは正気を失った。そしてついに...」

21世紀となった現代でも世界のどこかでこんな地域がまだあるんです。恐ろしいことです。

ジョーンズ記者はかろうじて帰国することができこの惨状を世界に訴えようとしますが当時、ソ連と連盟を結ぼうとしていたイギリス政府ははそれを許しませんでした。しかし執念で彼はこの事実を世界に発信するまでこぎつけますが、満州で取材を続行中にソ連政府に拉致され殺されてしまいます。これまた恐ろしいことです。

「共産主義」と言うか独裁政権なんてやっぱりろくなもんじゃありません。