1917~命をかけた伝令 | kazuのブログ

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サラリーマン社長のムービートラベル

コロナウイルスで騒がれるこの真っただ中にタイ、バンコクへ添乗へ行ってきました。この時期にツアーを遂行することを決めて頂いた木村社長、本当にありがとうございました。そして減員になりながらもご参加いただいた皆様、感謝、感謝です。こういうこと言うと無責任だ、中止しろ、などとなんだかんだ言う方々もおられますが、こちらから言わせるとそれこそ無責任です。観光業に携わっている人たちはそれこそ今の現状は死活問題となっています。当然、命が大事ということは重々承知です。しかし、お金がないと食べていけない、食べないと生きていけない。消費者の方々には非常に難しい問題ですが政府が渡航禁止、旅行禁止を宣言しない以上、我々は今の仕事を命をかけてもやり続ける以外にありません。それどころか今、日本国自体が汚染国として世界から見られています。レストランや観光施設には入れてもらえないんじゃないか、なんて心配もありましたがか幸いにもタイの方々も温かく迎えてくれました。お付き合いいただきましたガイドのシュウさん含め、お世話頂きましたタイの皆様方にも感謝です。

 

さて、バンコクへ渡航する前に観た作品「1917~命をかけた伝令」ですが今回のバンコクの旅行にも少しながら関連しております。この作品は第一次世界大戦でのヨーロッパ西部戦線での物語ですが時代が違うとは言え、今回の添乗でバンコクの郊外、3時間ほどのところにあるカンチャナブリは戦争の爪痕を残すところ、日本人には耳の痛い話ですが旧日本軍がビルマ(現ミャンマー)とタイとの間に鉄橋を築くため連合軍捕虜に対して強制労働をおこなったところです。古い映画ファンならご存じだと思いますが監督デヴィッドリーン、主演ウイリアムホールデン、アレックギネス、早川雪州という当時のハリウッドではそうそうたる顔ぶれで描かれた名作「戦場にかける橋」の舞台と言えばご存じの方も多いはず。

第一次世界大戦(1914~1918年)、第二次世界大戦(1939~1945年)と時代は違えどわずか20年ほどの間に2度も行われた世界規模の戦争。いずれも戦争によって失われ軽んじられるのは末端の兵士たちの命。そして愚かな指導者たちによって奪われる国民の生命と財産、そして人間の尊厳。本作「1917~命をかけた伝令」もまた若くして散らさざるを得なかった命が描かれています。

1917年、ヨーロッパ西部戦線。対峙するイギリスを中心とした連合軍とドイツ軍。一進一退の攻防の中、突然ドイツ軍が撤退を始める。そんな時若き上等兵、スコフィールドとブライアンは将軍直々に最前戦への伝令の命を受ける。「ドイツ軍の撤退は罠である。最前戦で指揮を執る大佐が総攻撃をかける計画だ。そうなると部隊は全滅する。現在ドイツ軍によって通信機器は切断され前戦に伝達するには伝令しか方法はない」そして「部隊の中には将校のブライアンの兄もいる」と...。

だが、日中の明るい中、撤退しているとはいえ情報不確かなドイツ陣地を突破しなければならない。いきり立つブライアンを「夜まで待とう」と必死でなだめるスコフィールド。だがブライアンに押し切られる形で二人は昼間のうちに伝令に赴くことになる。果たして敵陣は空だったが至る所に爆弾が仕掛けられスコフィールドもブライアンに助けられ九死に一生を得る。しかし、危機を乗り越えた後、ブライアンは助けようとした墜落した敵のドイツ兵パイロットに刺されて命を落とす。悲しみに暮れながらもスコフィールドはブライアンの遺志を継ぎたった一人で敵陣の中を伝令に走ることになる...。

全編をサムメンデス監督はワンシーン・ワンカットという手法で撮っています。素人が偉そうに言わせてもらえるなら、通常ワンシーンを撮るのにあらゆる角度からいくつものカットにわけて撮り続けます。まあ数秒単位のぶつ切りの写真、動画を編集の際、つなぎ合わせるわけですよね。でそのぶつ切りの一コマ一コマがワンシーンになるわけですが、この作品は一つのシーンをワンカットのみでカメラが役者たちと背景を追い続けます。ですから役者さんたちの緊張感が凄い!砲撃の中を潜り抜ける臨場感やいつどこから狙撃兵の弾が飛んでくるかわからないという緊迫感。それがもろに観客に伝わってきます。そのサムメンデス監督、お爺さんが伝令兵でお爺さんから聞かされた実体験が本作に多大なる影響を与えているとのこと。

けどやっぱり「戦争」はよくない。世界大戦は終わり平和な時代が訪れているといっても今も世界のどこかで戦争、紛争は行われ尊い命が奪われています。本作だって前述した大昔の作品「戦場にかける橋」だって決して戦争を賛美する作品ではありません。

 

本作の物語の前半と後半に描かれている果てしなく続く塹壕。ここで若者たちはいつ果てることなく続けられる砲弾の中での生活を強いられます。塹壕の上を登れば永遠に続くような有刺鉄線。傷だらけになり潜り抜けると野ざらしになった兵士の山、そして沼のような水たまりの中には腐敗した兵士が泥のように溶けている。嫌というほどサムメンデス監督は戦場という地獄を見せつけます。

 

そして作品のラストに描かれるのは虚しい喪失感と無限大の悲しみ。それは本作のラストでスコフィールドがようやくの思いで任務を果たし、ブライアンの兄に弟の死を告げるシーン。兄は悲しみを抑えきれず顔が崩れていきそうになるのですが、グッとこらえ「これが任務なんだと、私は軍人なんだ」と自分に言い聞かせるような表情を見せます。そして弟を看取ってくれたスコフィールドに対し感謝の意と絞り出すように「向こうのテントに食料がある、ゆっくりと休みたまえ」と取り乱したりせず上官の責務を果たすように何もかも堪えてしまうシーンに表れています。

この作品の主役は勿論、伝令兵を演じた若い二人ですが、英国の曲者俳優たちが上官に扮してほんのワンシーンだけ登場して脇を固めています。ブライアンの兄の名前を出して若者たちを煽動する狡猾な将軍にコリンファース、悲観に暮れるスコフィールドにわずかながら暖かい手を差し伸べる将校にマークストロング、最前戦で指揮を執る大佐にベネディクトカンパーパッチ。今、英国では旬の役者ばかりです。皆、わずかなシーンながらもサムメンデス監督の意を汲んで出演しているのでしょうか?先日の「ジョジョ・ラビット」もそうでしたが、今の世界情勢、一触即発してしまいそうなやや危ない国家の指導者たちが多いような気がします。本年のアカデミー賞候補に名を連ねた2作品、そんな危ない指導者達に対する警鐘だともとれるとは思いませんか?

 

サムメンデス監督と同様にと言うと大変おこがましいのですが私の父方の祖父も第二次世界大戦で戦死しています。ミッチナー(もしくはミッーチ-ナーとも呼ばれるそう)と言うところだそうですがビルマ(現ミャンマー)の北部、中国との国境近くにあります。旅行社ながらお恥ずかしいのですが私は当初、タイとの国境近くと勘違いしておりまして今回の添乗のカンチャナブリと近いのではとも思ったのですがかなり離れた場所ですね。まあビルマの仕事なんてほとんどないからなんて言い訳になりませんが、ひょっとしたらこのカンチャナブリの大地にもうちのじいちゃんの足跡が残っているのかもしれません。それからこれはつい最近親父から聞いた話ですが、どうやらあの悪名高きインパール作戦に駆り出されたらしいとのことです。当然、当時の軍の機密事項ですから詳細はわからず100%確かとは言えませんが戦地で出会って帰ってこられた知人の方々からの話だとほぼ間違いないそうです。インパール作戦と言えば名誉の戦死などではありません。飢えや伝染病、はたまた弱り切った体を獣に食われただの、「敵の弾に当たって死んだならまだしも...」とあまり親父が話したがらなかったのも無理はないかなと思います。

 

その親父が10歳くらいの時、戦死の知らせが届いて西宮から神戸の元町の税関までお骨を取りに行ったそうです。延々と続く廃線の線路上を歩いて帰る途中、廃線にけつまずいてこけたとき、骨箱の中からポロリと粉薬を紙に包んだようなものが...開いてみるとただの砂が入ってたそうです。おそらく戦地の砂でしょう。「こんな情けないことはなかった」と言ってました。戦争とは加害者も被害者もありません、戦争がもたらすものは絶望と悲しみだけです。

 

そんな話もあり今回「1917~命をかけた伝令」を観た後、カンチャナブリへ添乗へ行ったのは戦争というものを改めて考えるきっかけになったと思います。カンチャナブリの戦争博物館に立ち寄りました。博物館と言っても掘っ立て小屋のような建物が三つほど並んでるだけの資料館です。でも当時の資料や写真を見て連合軍の捕虜たちのそのあまりに酷いりありさまにはぞっとしました。栄養失調や伝染病によって骨と皮だけになった捕虜たちが累々と横たわる姿を写真で見せられると「これが戦争」と言っても日本軍がやったことはさすがに責められても仕方がないと思います。それにうちの爺さんが「もしかしてこの収容所の仕事に携わっとったんかな」とか「最後にあんな姿で死んだのかな」とか思いたくありません。映画で死んでいくブライアンやカンチャナブリの戦死者墓地や慰霊塔をみて「うちのじいちゃん、日本へ帰りたかったやろな」とか「ここで死んでいくって思ったらどんな気持ちやったんやろ」とか「本当はどうなって死んだんやろ」とか考えてしまいます。今の日本の繁栄を見て、そして孫が旅行社やってるのを見たらどう思うんやろ?

 

まっ、私の今の現状を見せたくはありませんがおじいちゃんを始めとして敵も味方もなく戦争で命を落としてしまった方々、75年という歳月がたちすべてではありませんがようやく世界は共存することを覚え繁栄の一途と辿ってます!とご報告する一方で、正体不明のウイルスでいまだバタバタと右往左往して金勘定しかしていない国家元首たちをご覧いただかざるを得ない状況に対してなんか「すいません」って言いたいです。

 

国家元首の第一の務めとは何か?

国民の生命と財産、そして人間としての尊厳を守ること........晋三君、わかってる?そこんとこよろしく