リチャード・ジュエル | kazuのブログ

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昨今、テレビのワイドショーやネット、SNS、席巻しているのは某俳優の不倫問題、そしてこの1月年明けからはコロナウイルスなる新型肺炎。このコロナウイルスは我々旅行業界は大打撃、なんか余計なことやデマまでテレビのワイドショーやネットで取り上げられ、中国はともかくとして他の海外旅行まで懸念され、「旅行会社がすすんで旅行を辞めるようお客に進言すべき」なんて無責任なことをSNSで書き立て、旅行を薦めている我々が極悪人のような言い方をするような輩もいます。誰が生活を保障してくれんねん!!って言いたくなりますが、ここはグッとこらえて、まあ不倫問題の方ですがこれも極悪人のような扱い方です。まあ「不倫」なんて褒められた話ではないにしろ当事者同士の話です。有名税だから報道されるのは仕方ないにしても、SNSで顔も名前も出さん奴が正義感ぶって道徳論をぶちまけたり、テレビではコメンテーターと称する道徳心のかけらもないような顔した奴らが「不愉快」だとか「奥さんに対する...」だとかなんとか...アホか?そんなんアンタラの勝手や。

 

そんな現代を予見するような事件を描いたのがクリントイーストウッド監督の本作「リチャード・ジュエル」です。映画は時代を反映する鏡とおっしゃった方もおられますが、まさに的を得たご意見です。1986年、オリンピックに沸くアトランタで実際に起こった事件をイーストウッド監督がリアルに「正義」という刃を遠慮会釈なしにマスコミにただ誘導されて突きつける民衆の愚を描いた作品です。まだ、ネットやSNS、さして携帯電話さえも普及されてなかった時代。でもそれはつい先ほどまでの時代でもあるのです。

警察官から警備の仕事を転々とした青年リチャード・ジュエルは1986年オリンピックで沸くアトランタの記念公園でコンサートやイベントの警備の仕事に就く。そこである夜、彼は爆弾を発見、爆発はしたものの、観客はリチャードの敏速な誘導により死傷者は最小限にとどまった。翌日、爆弾発見者として英雄に奉られ、二人暮らしの母親は息子を誇らしげに思う。リチャードの口癖は「人を守る仕事に就きたい」そして願いは警察官の復職だった。だがFBIは「第一発見者を疑え」という教科書通りの捜査を勧めそれに気づいた野心家の女性記者キャシーは色仕掛けでFBI捜査官から情報を聞き出し、彼を犯人と決めつけた記事を載せ一夜にして彼は容疑者として奈落の底に突き落とされる、彼の味方は愛する母親と昔の職場の弁護士ワトソン・ブライアントだけだった。ブライアントは気難しいが情があり、なによりリチャードを信じている。だが二人の行く手には違法捜査も厭わないFBIと彼を犯人として疑惑の目を向ける合衆国市民たちが立ち塞がる。

まあ観ていて開いた口が塞がらないのはFBIの違法捜査。なんとか彼を犯人として解決しようとだまくらかして自白書にサインさせようとしたりウソの声紋検査で証拠をでっちあげようとしたり、これイーストウッドのことだからちゃんと調査してうそのないように描いているんだろうから怖いですよね?マスコミもそう「正義」という言葉は得てして悪魔が使う凶器となり得ることを描いています。結局、FBIから「あなたは犯人ではないことが証明されました」という紙切れ一枚で謝罪もなんもなしでしょ?

それでええのかな?

だけどそもそもこのリチャード・ジョエルって人も人が良すぎるというか悪く言うとちょっと足らないというか...元同じ警官だからという理由でFBIに協力してホイホイと言いなりになるし、まあまんが悪いというか、鹿討ちが趣味で自宅に銃を何丁も置いていたり、本棚からOJシンプソンの著書「警察に対応する方法」なんてものが出てきたときには笑ってしまいました。一般庶民の目は白人男性、30代、母親と二人暮らし、傍から見ればマザコンぽい、肥満青年。それだけで社会に不満を持っている青年とみなされる。この決めつけも差別社会のアメリカを象徴しています。

だけどクリントイーストウッドって役者時代からやっぱり「正義」っていうものにこだわっていると思います。もちろん、その筆頭は「ダーティハリー」。「犯人逮捕のためなら自らの手を汚すことも辞さない」ハリー・キャラハン。あれから50年、彼は今度は「正義」という名のもとそれを凶器として振りかざす、新たなる「悪」と戦っています。

 

イーストウッド監督のもと、いい役者たちが素晴らしい個性を出してくれています。リチャード・ジョエルを演じたポールウォルターハウザーはそれこそ正義のため、人々を守るため、自らの職務を全うするため本当に善良な青年でありながら自らの信念を貫くため、時にそれが災いして今回の事件を引き起こしています。生き方も、性格も不器用で要領が悪い、ツキもないリチャード・ジョエルを好演。キャシーベイツ、言わずと知れた「ミザリー」の怪女を演じたアカデミー女優です。マザコンと思われようと情愛深く息子を愛し、信じ続ける母親役には胸を打たれます。野心家の女性記者を演じたオリビアワイルド、まさに周りに毒をまき散らしながら、スクープをものにするためならまさに人を陥れることをも厭わない、いわば猛女とも悪女ともいえる彼女の存在は本作に爪痕を残し、古今東西を問わないジャーナリストの在り方に問題を提供します。そして、そして異常なマスコミ主導の社会に対し怒り、そして最後までリチャードと母親を支え続ける弁護士、ブライアントを演じたサム・ロックウェル。よかったですねぇ。「グリーンマイル」での頭のいかれた極悪非道の死刑囚、「スリービルボード」の差別主義者の警察官と、どっちかっていうと敵役が多い彼が珍しく良心派の弁護士を熱演し、リチャードを時には優しく守り、時には叱咤激励するその姿には本当の正義を感じます。

 

冒頭で登場しました、不倫をたたくコメンテーターなる似非正義派たちや庶民を煽動する無秩序ジャーナリスト、それからSNSだけで顔も名前も見せない卑怯者たち、この作品を観て。オリビアワイルド演じる野心家ジャーナリストはあんたらの姿そのものやで。悪女でも「スクープ」という信念をもって仕事するだけ、自分の気分や面白半分で人を痛めつける奴らより彼女の方がまだましか...

 

でもまあ観てください。男クリントイーイトウッド監督、渾身の一作です。