ピースの又吉さんのYOUTUBEチャンネル【渦】を時々覗いてます。
インスタントフィクションというコーナーが好きだからです。
以前もご紹介しましたね。
過去記事⇒読書の楽しみ方
走れメロスを解説したものが面白過ぎました。
メロスは、正義と友情に熱い男!というイメージがありますが、実はこんなキャラだよという解説が興味深かったです。ぜひ見てみてください。面白いからw
参照⇒新解釈【走れメロス】
わたしは、メロスよりも王様のキャラの方が気になって記事にしましたけどね。
過去記事⇒走れメロスの王の激変ぶり
今回、万博先生(又吉さん)が解説てくれているのは、中学校の国語の教科書掲載小説シリーズ。
第二弾はヘルマンヘッセの【少年の日の思い出】です。
わたしの教科書にも載っていました。
蝶の収集をしていた少年の話だったよな・・・というあいまいな記憶でした。
結構、強烈なストーリーなのにあまり記憶にないということは、当時はさほどインパクトを感じなかったんですね、わたしは。
いや、蝶って表現されてるけど、蛾じゃない?!とイラストを見て思った記憶はあるw
ある男が友人に、蝶の収集に夢中になっていた少年の頃の思い出を告白するという物語です。
【告白】と言ったのは、収集のことを巡ってある出来事が起こり、大好きだった蝶集めは、彼にとって思い出すと苦い思い出になってしまったからです。
3度の飯より好きでは言い表せないくらいに、蝶の収集に熱中していた少年。
当時、ブームだったみたいでクラスメイトも自分だけのコレクションを持っていました。
少年は少し家庭が貧しかったのか、友人からすると見劣りする手作りのボール紙の箱が標本のコレクションで、蝶も特別珍しいというものはありません。
だから、誰にも見せませんでした。
しかし、ある日コムラサキという珍しく美しい獲物を捕らえることに成功
少年は、隣に住む同級生エーミールにだけは見せたいと思います。
エーミールは、同じく蝶集めをしている少年です。
模範生のように完璧で、修復の技も持っていて、小ぶりながら素敵なコレクションを持っているのです。
少年は、彼に完璧に劣等感を抱いています。『非の打ち所がないという悪徳を持っていた』と彼の性質を振り返っているところからも垣間見えますね。
そんな彼にコムラサキを見せたら、さすがに「へぇ、すげーじゃん!」と言ってもらえるのではないかと期待してしまうのです。
果たして、エーミールは「確かに価値がある」と認めてくれます。
しかし、「触角が曲がっちゃってる」とか「脚が二本無いね」とかダメ出しもしてきます。完璧主義者なので。
少年は傷つき、「もう二度とヤツに蝶は見せない」と思います。
それから2年後、エーミールがクジャクヤママユという蝶をサナギからかえしたというビッグニュースが耳に入ってきます。
まだブームは続いていたんですね。
これが、クジャクヤママユ。
うーーん・・・蝶なのか?
どっちかというと、やはり蛾だよね。模様はたしかに凝っているけど。
わたしには、どうみても蛾にしか見えません。。。。
蝶と言うと、わたしのイメージとしては・・・
こういうやつであってほしかった。知らんけどw
蝶も蛾も同じなんでしょうか。クジャクヤママユは、わたしの中では完全に【蛾】。
しかし、それは少年の垂涎の獲物でした。
え・・・あ、あ、あの・・・あのクジャクヤママユ? マジで?嘘だろ。実物見たことないよ。
図鑑でしか見たことないよ。見たい・・・見たい見たい見たい・・・!!(←見た過ぎて吐くレベル)
そんな心境です。
コムラサキの一件で、心の中では絶交状態だけど、今回は頼んででも見せてもらいたい。
たずねていくと、彼は留守。しかも、鍵が開いている・・・
彼の部屋には・・・あのクジャクヤママユ様がある。あるに違いない。
見たい・・・
後で出直すということだって出来たのに、少年は留守宅に上がり込んでしまいます。
彼の部屋に入る。コレクションの箱を開ける。あれ無い?探し回る。
クジャクヤママユは、美しい標本にされるべく作業段階。
見つけた蝶を眺める。あの特徴的な目玉のような模様が裏になっていて見えない。
勝手にピンを抜き、手に取って模様を見た途端・・・その目玉模様と目が合ったような気がする。
欲しい。。これが欲しい。
掌に載せ、部屋を出た。手に入れた。僕はあの蝶を。満足感が広がる。。。
下から誰かの足音が聞こえる。
僕は泥棒だ。罪の意識がやっと湧く。しかし咄嗟に、ポケットに獲物を押し込んで隠した。
いや、返さなくては。
すぐに彼の部屋に舞い戻り、ポケットから蝶を取り出す。
はっっ
潰れてしまった。前羽が一枚取れ、触角も一本無い。
呆然とする。あの美しかった蝶を、自分がダメにしてしまったショック。
その状態の蝶を残し、家に戻る。
もんもんと何時間も中庭で思い悩む姿を見て、母親は訳を聞き謝りに行けと勧めます。
エーミールは、無残になった蝶をなんとか元に戻したいと苦心した形跡が見られました。
しかし元に戻すことは不可能でした。猫の仕業か?それとも誰かがやったのか?と彼は言います。
「それをやったのは僕だ」と言い、これまでの顛末を全て打ち明け、説明しようと試みますが、彼は激したり怒鳴り付けたりせずに「チェッ」と舌を鳴らしてしばらく少年をじっと見て「そうか、そうか、つまり君はそんなやつなんだな」と一言言います。
少年は、「お詫びに自分の持ってるおもちゃはみんなやる」と言いますが断られます。
「それなら、自分のコレクションをみんなやる」と言います。
しかし、エーミールは言います。
「君の持ってるコレクションは知ってる。その上、君が蝶をどんなふうに扱ってるかもこれを見て分かったしな」と。
それを聞いて、少年はエーミールに掴みかかろうとしますが、すんでのところで押し留まります。
その時の状況を彼はこんな風に振り返るんです。
『僕は悪漢だということに決まってしまい、エーミールはまるで世界の掟を代表でもするかのように、冷然と、正義を盾に、あなどるように僕の前に立っていた。』
完全に被害者的・・・
いやいや、待てよ少年。
普通ぶん殴られるよ。
「なんだよ、あいつ。僕の気持ちなんてこれっぼっちも知りもしないで、偉そうに見下しやがって・・・」みたいな感情ってどうなのさ。
少年はもちろん罪悪感を抱えてもはや償う事の出来ないもどかしさのまま家に帰り、自分の大切なコレクションの蝶を一匹ずつ指で粉々に潰してしまった。
ということで物語は終わります。
少年に感情移入して読むか、エーミールの立場で読むかで全然違いますよね。
エーミールは、彼にとったら鼻に付くくらいの完璧主義で生活レベルも自分より良くて、羨ましくて憎らしいという存在でしょう。
反対に、エーミールは彼をどう見ていたか分かりません。
彼にとっては言われたくないダメ出しを容赦なくしてくるイヤな奴かもしれないけど、彼からしたら悪意と言うより、単なる感想だったかもしれません。
「ちょっと触角曲がっちゃってるのが惜しいよね」くらいの。
デリカシーが無いか、天然か、悪意があるかなんて読者には分かりません。
エーミールがどんな思いで、どんなに情熱を込めてサナギから蝶を孵したか、少年は知りません。
少年が自分のコレクションを思うのと同じくらいとんでもなく大切に違いありません。
そんな宝が帰ってみたら台無しになっていて、悪夢のような状態のものを何とか元通りにならないものかと頑張ってリペアしたものの、もう戻すことは出来ない。
そんな地獄の気分の最中にやって来た隣人の少年が、勝手に部屋に入って盗もうとした挙句、後悔して戻そうとはしたかもしれないけど結果的には壊滅的に潰してしまった顛末を喋り、「お詫びに自分のおもちゃやるから」なんて言われても納得できるはずありません。
「はぁ??おまえのおもちゃと僕の宝物を一緒の価値にしてんじゃねぇよ」
「大事な蝶をポケットにつっこめるなんて、信じられないぜ」
そう思っても不思議はないと思いませんか。
よく、喧嘩して「お前なんて殴る価値もないね」と言われて、殴りかかられる以上のショックを覚えるなんてシーンがありますけど、それです。
少年はエーミールに、罵ったり、怒鳴ったりする価値もないねと判断を下されたわけです。
少年が自分の蝶を潰してしまい、その後、この思い出が苦いものになった理由が、このエーミールの気持ちが分かってのことならいいけどね、とわたしは思いました。
「あんな素晴らしい蝶(クジャクヤママユ)を汚してしまった」とか「魔が差して、一瞬とはいえ盗みを働いてしまった」という後悔だけだとしたら、嫌だなぁ。
こんな出来事が起きて、それぞれの言い分を聞く。
どちらも真実。
少年から見たらエーミールはいけ好かない正義感を振りかざす優等生野郎。
エーミールからしたら、自分のおもちゃや貧弱なコレクションで相殺してくれという勝手野郎。(っーか、少年はエーミールにきちんと謝ったのか?)
こないだテレビで観た【ミステリと言う勿かれ】を思い出しちゃったよ。