太宰治の作品を挙げてみてと言われたら、上位に入るであろうタイトル、それが【走れメロス】ではないでしょうか。

【人間失格】とか【斜陽】とか有名なものは他にもありますが、実際に読んだことあるやつで!となれば、ほぼ一択。

国語の教科書に載ってたりもしますし、作品自体短編なので手に取りやすいですもんね。

 

大体の人があらすじはご存じだと思いますが、簡単に説明しますね。

 

妹の結婚準備の買い出しに街にやって来たメロスは、どうも街の様子が以前と違っていることに気が付きます。

近くにいた老人に訳を聞くと、「王様が人を信じられぬと言い、自らの家族や部下を含めて、人々が次々に処刑されている」とのこと。

それを聞いたメロスは「何と言う事だ!!」と怒りに任せて城に乗り込み、速攻で捕縛されて処刑されそうになります。

そこでメロスは、妹の結婚を見届けるための3日間をくだされば、刑に処されることも辞さないと懇願します。

「どうせ逃げるつもりだろう」と信じない王に対して、「自分の親友セリヌンティウスを身代わりに城に置いておく、もし自分が戻らねば友を殺してくれ」という取引を申し出ます。

王は、どうせ守れっこない約束をして「やはり人間なんて信じられるもんじゃない」といって嗤ってやるのも面白いと思い、メロスに猶予を与えます。

 

メロスは妹の結婚を心から祝って楽しみますが、約束の時間は刻々と迫ってきます。

行かねば!と走り出すメロス。

途中で「まだまだ余裕がある」と呑気になったり、思わぬトラブルで「もう無理かもしれない・・・」と諦めたり、「友が信じて待ってくれてるのに何をやってんだ俺は!」と奮起したりして、約束の日没にギリギリセーフで間に合います。

 

そして、途中で「もう無理かも」と諦めかけたことを友に告げ、「俺を殴ってくれ!」と言います。

セリヌンティウスも「自分も一度だけ、ちらっと君を疑った。俺のことも殴ってくれ!」と言い、二人は抱き合うのです。

 

その姿をみた王は、人を信じる心をもう一度取り戻し、二人に謝罪して自分も仲間に加えてくれないかと申し出る・・・というハッピーエンドです。

 

主人公はタイトルからしてメロスなんでしょうけど、王様のキャラが気になります真顔

 

「以前街に来たときには活気ある街だったのに?」とメロスは思うわけですから、少し前はこんな王様じゃなかったわけですよね。

もしくは、新しい王に就任したのがこんな性格だったのか?

 

「わしだって、人を信じたい」みたいなニュアンスの事を王は言うんです。「そうさせなくなったのは、お前たちだ」と。

つまり、心変わりをするような出来事があったわけですよね。もしくは不信感を募らせるようなことが度重なって爆発したのか。

 

なんか、聞いたことあるなぁ~・・・

ああ、この人だびっくり!

クリスマスキャロルのスクルージ。

過去記事⇒クリスマスキャロルを精読する

 

スクルージの性格が激変していく過去はあまり詳しく語られてなくて、理由はわからなかったんですけどね・・・

他人の真心に触れて、ラストシーンで心が真逆になるというのは同じです。

 

メロスに出てくる王も、何が原因かは分からないままです。

原因が分かれば対処も出来ようものを。

しかし、じわじわと募る不信感というものはドッカーンと決定的な出来事が原因よりも自覚できないものですからね。

 

話は逸れますけど、わたしも自己肯定感が物凄く低下した時期があります。

しかしそれは誰かに価値観を否定されたとか、いじめを受けたとか、そういう決定的な出来事なんて無いわけです。

「あれかぁぼけー」と思い当たる節は無い。勝手に自分が自分にジャッジを下して「そんなことじゃいかんな」「そのままじゃダメだ」「そう考えるのはなんか違う」とチクチクチクチクと脳を洗脳していたからなんだと思うんです。

自分で自分をね。

 

「自分はそのままで最高の存在だ」 「生きてるだけで丸儲け」と明石家さんまさんさながらの言葉を自分に掛け続けて無駄な力をポジティブ方面に切り替えてくのがいいんです。

そんなアドバイスは、ヒネてる最中は「そんなの成功者だから言えるんだよ」なんて素直に入って来なかったりするけどね。ヒネてるからw

 

話を戻しまして、王様の話ね。

確か・・・風の谷のナウシカでもそんな皇帝が出て来たんですよね。

「若い頃は本物の慈悲深い名君だったよ。土民の平安を心から願っていた。

だが、それも最初の二十年さ。やがていつまでも愚かな土民を憎むようになった」

若かりし少年の頃、秘密の庭を訪れた彼は、民の良きリーダーになろうと決心して旅立ってたはずだったのに・・・

心は変わり、腐りきってしまったのかと思いきや、こんなシーンもあります。

「チヤルカよ。わしに国土を思い民の苦しみに心をはせる慈悲がないと思うのか」

年老いて、妖怪のような姿になって生きながらえて尚、彼なりの平和を願う気持ちは消えてはいなかった。

最後は、成仏して、光の中に帰っていきます。

 

このミラルパという皇帝も、民から見たら残虐なやりたい放題の王になり果てたように見えるんですけど、心の中は違うんですね。

メロスに出てくる王様に近い感じがします。

 

走れメロスを一回だけ読むと「そんな家族も皆殺しにするような残虐王が、一組の友情を見たくらいでこんな心が変化するもんかね?凝視というのが、わたしの最初の印象だったんですけど、そこは自分で補いつつ読む必要がありますね。

セリヌンティウスにしてもね、「あっさり自分の命を友のために理由も聞かずに預けるなんて、どんなエピソードがあれはそうなれるのよ?凝視」というのも同様にね。

 

さて、この作品はピースの又吉さんが解説しているYOUTUBEがありまして、それはメロスという人間を分析していて大変面白いです。笑えます。

是非、おすすめ。

参照動画⇒新解釈「走れメロス」大人になって読んでみたらヤバかった