1980年代まで成人男性は喫煙がほぼ当たり前という風潮だったので、祖父も父親も吸っていた。私が居てもお構いなしに吸っていたので、それはそれは煙たくて仕方がなく、まだ小さかった私にとっては何でこんなのを吸っているんだろう、と嫌悪感しかなかった。
中学に入り保健体育の授業が始まると、すぐに喫煙による害を勉強した。それによれば、喫煙者は癌にかかるリスクが非喫煙者よりも強く、特に肺がんなどヤバいぐらいに高いのを知った。Googleによれば4%以上高い、という事らしいが、その教科書によればそんなものではないぐらいに高く描かれていたかと思う。誰でもそんな恐ろしい事実を知れば誰しもが喫煙なんか、と思うはず、という訳で、当時の私はそのあたりで一生吸わない事を誓っていたかと思う。
しかし、当然皆が皆そうな訳ではない。中学3年の頃、幼馴染で運動神経抜群だったクラスメイトが学校のトイレで喫煙しているのを見た。彼の才能を知っていた私は、正直なんてもったいないと思ったものだ。そして、当時通っていた塾でもトイレで吸い殻が見つかり、塾長から警告が発せられたものだった。
私としてはいずれもあり得ないものであったが、当時はまだ「喫煙=カッコいい」と言う風潮が強く、またゲームや漫画での規制もないに等しいものだった。データイーストが発売し、一部でそれなりに人気シリーズとなった「探偵・神宮寺三郎」シリーズには「タバコをすう」というコマンドがあったし、当時週刊少年ジャンプの人気漫画であった「ろくでなしBLUES」なんかは、主要人物が全員高校生であるにも関わらず、皆が皆タバコを吸っていた。
私はこの漫画が大好きで、後に全巻集めるほどまでにもなったのだが、一応主人公の前田太尊は禁煙に成功しており、スポーツテストの回で吸った後はほとんど吸う描写はなかったはずである。しかし、他の面子は相変わらずだったし、という訳で当時の青少年たちに与えた影響は少なくなかったかも知れない。
のち、2年間ほど全日本プロレスのファンクラブに入っていた時期があったのであるが、その時の会報の質問コーナーにおいて、当時まだ健在だったジャンボ鶴田が「タバコは吸いますか?」という質問に対して「No」と答えていた。当時、プロレスラーの喫煙に関してはほとんど触れられる事はなかったので、明確に非喫煙者である事を公言したのを見たのは鶴田が初めてだった。これが子供ながらに、「吸わない事が」かっこいいな、と思ったのである。もちろんその時点であっても喫煙をしたいと思った事はなかったが、これが私の非喫煙を決定づけた事項であった。
また、当時はまだ野球も見ていたのだが、その流れでアスリートはほとんど喫煙をしないと信じ込んでいた。まあ野球に関して言えば大間違いであった訳だが、当時の野球名鑑では、昭和にあったとされるタバコの本数などの項目はなかった。ネットがない当時、喫煙がフォーカスされる事はあまりなかったのであるが、元巨人のクロマティが、移動のバスや新幹線であまりにもタバコの煙が苦しくて大変だった、というエピソードなどは知られていた。
まあ、野球の場合は他のチームスポーツとは明らかに趣が異なるので、別に喫煙していても影響は少ないのかも知れない。ただ、メジャーリーガーなどはさすがに喫煙者は少なかったようであり、その辺りはさすがと思ったものだ。そして、こんな日本においても日米で実績を残した超スーパースターたちも違っていた。もちろん、イチローと松井秀喜である。他には上原浩治や松坂大輔らもタバコ嫌いで有名らしい。特に、上原などは「百害あって一利なし」「喫煙する女は大嫌い」とまで公言していたそうだし、さすがにワールドシリーズでクローザーを務めただけの男であると思ったものだ。
そして、私の永遠のヒーローであるブルース・リーはどうだったのか、と言うと、姉のフィービーが言うには、不良少年だった香港時代は喫煙していたそうである。それを見かねたフィービーは、「なんでそんな事をするの?」と問い詰めたそうであるが、ブルースは「俺は男だ!」と言って聞かなかったという。しかし、渡米してからは完全に止めたと言うからさすがである。
因みに、アメリカは非常に喫煙において厳しい国であるが、皆が皆吸わないかと言えばそうではない。マンハッタンの路地を歩けばそこらじゅうにいるし、排水溝などは吸い殻で一杯である。香港などでも、100メートルおきぐらいに置いてある例のオレンジ色のゴミ箱の上には灰皿がセットされているので、街を歩けばそこら辺で喫煙がなされている。しかし、香港においても喫煙自体は非常に厳しく、欧米などと同様にスマートな人間ほど非喫煙の傾向が高いので、英語が堪能な私の知り合いたちに喫煙者は皆無である。
まあ、喫煙していても、他人に迷惑をかけなければ好きにして良いとは思うのであるが、それでも今なお女性が吸うのだけは抵抗がある。なぜかと言えば、教習所に通っていた頃、喫煙室から出てくる女性の顔に皆一定の共通点があったからである。いわゆるスモーカーズフェイスという、カサカサでシワが目立つというあれである。これまでの同僚にも何人もの喫煙者がおり、それは今でもそうなのであるが、やはり肌を見るだけで喫煙者か否かほとんど判断出来るものだ。20代ならまだ目立たなくとも、30も過ぎればもはや覆い隠せなくなってしまうだろう。何故か見た目いい人が多いので、勿体ないな、と思ってしまう事も多いのであるが、まあ個人の判断なので勝手にしてくださいとしか言いようがない。