以前にも触れたが、これまで読んできた数多くのプロレスラー関係の本の一つの中でも、私にとって最もバイブル的存在と言えるのが、1988年頃に前田日明が書いた「パワー・オブ・ドリーム」である。前田の生い立ちから、新生UWF旗揚げまでのくだりがつづられており、あとがきにリングスについても触れているので、版としては1991年頃だろう。
私が実際に読んだのは初版から10年近く経った頃であったが、ずっと読んでみたかった本だけあって地元の本屋で見かけた時はすぐに手を取ったものである。なかなか見つけられなかった本であったのだが、要はすぐに文庫化されており、単にそのコーナーに寄ることがほとんどなかっただけに過ぎない。
購入当時は1997年初夏、つまりすでに高田VSヒクソン戦が決まった直後ぐらいの事であったので、かなり格闘技熱が高まっていた頃であった。もちろん、普通のプロレスを中心に見ていたとは言え、私の思想的には完全にガチンコ方面寄りであり、また香港返還を間近に迎え、ブルース・リーブームも再燃していた頃でもあったから、本当に強くなる事しか考えていなかった頃だ。
ただ、小学校低学年ぐらいの頃であったら喧嘩ぐらいはあったものの、当然、成人してからは人を殴った事などは一度もない。さらに、運が良い事に人に絡まれた事もない。仮に、もしそうなった時にはどうなるか、と言うのを教えてくれたのがこのパワー・オブ・ドリームであった。
普通に最初から最後まで面白い本なのであるが、やはり男として最も燃える部分と言えば武勇伝の部分である。家庭環境から不良の道に走り、次第に喧嘩っ早い性格になり、身長の高さもあって連戦連勝を重ねていた所、大阪で空手の道場を開いていたT氏にボコボコにされて、本当の喧嘩のやり方を知る。
「喧嘩は格闘競技とは違う。礼に始まり、礼に終わったりはしない。こちらから喧嘩を売った以上、どんな手を使ってでも勝たなければ、逆にやられてしまうのだ。殺されたって文句は言えないのである」
この文章の前に、T氏が喧嘩相手をまさに先手必勝のごとくボコボコにする記述があるが、本当の喧嘩の強さと言うのは腕っぷしだけではなく、彼のようにいかに無慈悲に無防備な人間をだまし討ち出来るか否か、と言うのを学んだのだ。
もちろん、実際に真似したらえらい事になる。なので、当然私も些細な事でキレそうになる事もあるものの、その度にこの記述を思い出し、脳内でイメージして本当にやったら相手が死んでしまう、と言い聞かせて自分を抑え込むのだ。
他にも、主人公の名前が前田日明から取られたと言われ、私も大好きな漫画であった「ろくでなしブルース」からの影響も大きかった。前田の盟友である原田成吉が、酔っ払いのヤジに殴りかかろうとしていた時、トレーナーの藤竹さんから「お前の拳は凶器なんだぞ、こんなところで騒ぎを起こしたらどうなる!?耐えろ、耐えるんだ!」と言う描写がある。
私はボクサーではないが、前にも書いたように前田憲作氏にパンチの強さを認められた過去がある。そんな自分が手を出したら、当然相手はタダでは済まないだろう。なので、今でも私が真っ白な身体でいられるのも、この漫画のおかげである。
他にも、カール・ゴッチに会い初めてレスリングの魅力に取りつかれた話、プロレスラーは強くあるべきと徹底的に教え込まれた話、そして前にも触れたよう、初代タイガーマスクに挑戦の予選で、藤原喜明が素人を半殺しにした話など、まさに強い男を目指す男にとっては必読である。
実際、私は新生UWFはリアルタイムでは見れなかったので、その洗礼は受けてはいないし、前田信者、と言うほどでもない。それでも、アントニオ猪木が自身の後継者としていたほど、当時の前田日明はカリスマ性に溢れていたし、新生UWFも、スタイル云々よりも、前田日明が居たからこそ成功したようなものである。新生UWFの後期は、船木誠勝を前面に押し出すプランでいたそうであるが、もしあのまま解散しなかったとしても、やはり新生UWF=前田日明の構図はそうそう崩れなかったと思う。それほどまでに、全盛期の前田日明のカリスマ性は尋常ではなかった、と言う事だ。
木村政彦本でも触れたが、やはり男と言うのはある程度は強く、鍛えられていなければならない事を、彼らの著書を読むたびに実感する。それでお金を稼げる訳ではないとは分かっていても、やはり男として生まれた以上鍛錬は欠かさなければならないのだ。