すっかり社会現象となった鬼滅の刃、その最終巻の発売日は大変な事になるだろう、とある程度予測していたものだが、案の定というべきか日本中の本屋ではそれを求めて大変な行列が出来ていた。自分はたまたまAmazonの該当ページを開いたとき、紙版の予約も復活していたのでポチろうかな、と思ったものの、基本コミックは1冊買ったら全て揃えてしまう派なので、最終巻だけ買ってもな、と思い直し結局買わなかった。
それでも、もちろんKindle版は予約しておいたので、12月4日の深夜0時を回った瞬間にダウンロードされていた。これでようやくネタバレを気にする必要がなくなった訳であるが、わざわざコミックスを全巻揃えたのは、10年ぐらい前にハマったルーキーズ以来だったと思う。その後、まさかの連載再開を果たしたキン肉マンなどもある程度買ってはいたものの、間もなく飽きてしまったので、つまりはここ最近漫画自体ほとんど読んでいなかった事となる。
そんな自分がKindleで全巻揃え、映画も2回も見てしまうほどハマってしまったのだから、それは大ブームにもなる訳である。当然の如く、あらゆる考察サイトにおいて「なぜこれほどまでに人気が出たのか」という記事をそれはそれは見かけたものであるが、一番良くみかけた意見としては「コロナ禍によって自宅で過ごす機会が増えた事」がかなりの割合を占めていたのではないかと思う。そして、映画が歴史的な大ヒットを記録したのも、「コロナ禍によってハリウッドの大作が軒並み延期し、上映作品に空白が生じたタイミングが重なった」という意見が大勢を占め、とにかくヒットしたのはコロナ禍のおかげ、と言いたげな意見ばかりが目についた。
しかし、もちろんそれは鬼滅の刃だけに当てはまるものではない。もし、コロナ禍という条件が全てだとしたら、もちろんそれは全ての作品に当てはまる事になるし、全ての作品が軒並み例年以上のヒットを記録していなければおかしいはずである。しかし、もちろんそれはそうではない。その最たる例が、「Stand By Me ドラえもん2」である。11月下旬の3連休に公開され、どこの映画館もIMAXを始めとする大箱を用意されたのだが、動員的には期待に応える事が出来なかった。対照的に、箱を奪われた鬼滅の刃は相変わらずどのスクリーンも埋まるほどの大盛況、特にIMAXはドラえもんに箱を奪われた事から皮肉にも観客が集中、TOHOシネマズ新宿などは週末の予約が開始されると同時にほとんど完売状態となるほどだった。
正直、予告の時点で「ドラ泣き」という半ば泣きを矯正しているような押し付けがましいコピーをやたらと使ってきた時点で、これは日本人的には反感を覚えるだろうな〜と嫌な予感はしていたのだが、やはりそれに反感を抱く人は相当数居たようであり、正直この時点ですでに見る気を失せてしまった人が多かったのではないかと思う。自分も自室とは言え、前作は鑑賞したうちの一人であったのだが、そんな自分もこういういやらしいコピーには反感を抱く性格であり、正直これに金を払うぐらいだったらもう一度鬼滅を見た方がマシ、という考えだった。
そして、この略称「スタドラ」のおかげにより、決して鬼滅の刃はコロナ禍によりスクリーンの恩恵を受けた事が理由ではなく、あくまで作品自身の魅力によってヒットを記録した、という事が改めて証明され、前述のようなコロナ禍を元とするような意見はほぼ綺麗さっぱり淘汰されていったように思う。
そして私自身が感じる作品自体の魅力としては、まずはやはり魂を揺さぶるほどの名言の数々が挙げられると思う。これはもう原作、アニメ版、そして映画「無限列車編」を鑑賞済みの方々であれば嫌と言う程実感してきたはずだろう。ありがちな「人の死」を利用して安易に涙を誘うような展開ではなく、ダイレクトに人の心に訴えかけてくるシーンによって涙を誘ってくるのだから、正直よくこの作者はこんな名台詞が書けるものだ、と感心せずには居られないものだ。
そして、主人公の竈門炭治郎を始めとするメインキャラ、9人の柱のキャラいずれもが際立ち魅力的である事、そして全員の生い立ちが明確となっているキャラ設定の細やかさも挙げられると思う。最新の人気投票では我妻善逸が1位との事だが、個人的には第1話から事実上の最終話まで登場し、柱の中でも最も炭治郎と関係が深く、そして社交性が低く名前の一文字が私と同じと言う共通点もある「冨岡義勇」が私のお気に入りである。
普段ブームには乗らない私、特にここまでの記録的ヒットを飛ばした作品であればスルーしても全く不思議ではないのだが、各種動画サイトで公開中だった事もあるとは言え、何故かこの作品には魅力を感じ、これは見ておこうかな、と言う気持ちにさせられ、結果的にそれが大正解となった。そしてもうひとつ、「週刊少年ジャンプ連載」というのがやはり大きな動機になったのも事実。実際、読んでいた期間そのものは長くはなかったものの、それでも購読中はドラゴンボールやろくでなしBlues、そしてシティーハンターなどいわばジャンプの黄金期にちょうど当たっていた頃なので、やはり今でもジャンプには思い入れが深い。なので、ジャンプ出身の漫画がこのようなブームを巻き起こした、というのは、やはり再度「やっぱりジャンプはさすがだな」と思わざるを得ないのである。