電波少年的応援歌。 | ONCE IN A LIFETIME

ONCE IN A LIFETIME

フィリピン留学から人生が変わった一人の男のお話です。

1990年代を代表するテレビ番組のひとつと言えば、電波少年だ。そしてその最盛期を彩ったコンテンツと言えば、やはり3部作に渡るヒッチハイクシリーズだろう。何と言っても初回の猿岩石が有名であるのだが、実は最高視聴率を記録したのは最終回にあたる伊藤君とチューヤンのアフリカ・ヨーロッパ縦断ヒッチハイクである。当時、金城武がCMで「英語を話せれば20億人と話せる」と語っていて、まだ何も知らない私はへえそうなんだ、としか思えなかったのだが、異国の地で英語で不自由なくコミュニケーションを取っているチューヤンの姿を見て、初めてその言葉を理解したものだった。

 

そして、忘れてはならないのが、3部作いずれにもおいて著名ミュージシャンによる応援ソングが作られた。いずれも素晴らしい楽曲であり、そして全てオリコン10位以内の大ヒットを記録したのであるが、この応援ソングにおいても最終回における久保田利伸さんの「AHHHHH!」が最もお気に入りであり、未だに異国の地を歩く度に脳内再生されるのだ。

 

初の海外となるフィリピン留学を申し込む際にもかなりの勇気がいったのだが、食住は完全に現地でコーディネートしてくれていたので、普通に学校で生活するだけでは不安などは何もなかった。さすがに遊びに行く際には自己責任の面もあったのであるが、いずれもタクシーで帰れる範囲内のみでしか行動はしなかったし、アドバイスを受けて貴重品は全て部屋の中にしまっておいたりもしたので、後半はかなり慣れたものだった。

 

しかし、さすがに全てが自己責任となる一人旅はそうお気楽な気持ちでいる訳にもいかない。初回と2度目の香港は現地の友人に案内もしてもらったし、台北旅行は基本一人だったとは言え、人々は親日そのもの。公共交通機関さえ使いこなせれば不安など何もなかった。よって、この2か国に関しては特にスリルは感じなかったのだが、マカオや深センに関してはそうもいかなかった。

 

ぼったくりタクシーが社会問題化しているとは言え、基本マカオも平和そのものだ。よって、2011年10月の2度目の香港旅行の際に、初めて足を運んだのであるが、情けない事にマカオパスがないままフェリーターミナルを出発する事に恐怖心を抱いてしまい、1時間ぐらい何もしないまま香港へと引き返してしまったのだ。マカオですらそんな調子なのだから、香港人全員から「絶対に行かない方が良い」と警告された深センなどいわずもがな、とてもではないが行く勇気など出なかった。

 

香港でも重慶大廈すら泊まれない頃だったので、そんなヘタレだったのも仕方のなかった事かも知れないが、そんな2013年1月、遂に重慶大廈に泊まると言う壁を乗り越えた事をきっかけとして、風向きも変わってきた。2013年7月、ブルース・リーの没後40周年の際に香港に訪れた際にはどこにも行かなかったものの、9月の渡航において再びマカオへ渡り、遂にフェリーターミナルも自力で脱出と言う2年越しのリベンジを果たしたのだ。

 

基本、頼れる交通機関がバスしかないマカオにとって、1日旅行者であってもマカオパスは必須だ。しかし、あいにくだがフェリーターミナルでは売っておらず、わざわざ世界貿易中心の窓口まで歩いて行かなくてはいけないのだが、この時の感動と興奮は今でも忘れない。そして、この瞬間に真っ先に脳内再生されたのが、前述の久保田利伸さんによる「AHHHHH!」だった。

 

「笑うか、倒れこむか、飛び込まなきゃわからない」

 

重慶大会に初めて泊まった夜も、そしてこの時のマカオの体験も、正直やる前は不安が先走って仕方がなかったものだった。しかし、ここで笑うか、泣くか、それは実際にやってみるまで絶対に分からない。そんな時に背中を後押ししてくれたのだが、この冒頭の歌詞の部分だった。

 

そして、数日後は遂に一人で事実上の国境を越え、北京空港でのトランジットを除けば自身の人生において初めて中国大陸の地を踏む事を達成した。これより1年前、香港の友人に家まで招かれてまで誕生日を祝ってくれたという経験があったので、それと比べたら寂しい誕生日となってしまったものだったが、この時の感動と興奮は前述のマカオ以上のものだった。

 

大分前にも書いた話であるが、幼稚園時代に登り棒のてっぺんまで登れなかった臆病な自分が、遥か彼方の海を越えて、共産圏である中国までたった一人の力で到達出来たのだ。そんな当時の自分を思い出すと、自然に体の奥底から熱いものがこみ上げてきたものだったのだが、そんな心境をまさに表してくれているのが、この曲のサビの部分だ。

 

「こんな喜びは抱えきれないよ、君もおいでよ」

 

リアルタイムで鑑賞した時にも感動したものだったが、実際に自分も旅人となり同じような状況になった時に、この歌詞を本当の意味で実感する事が出来た。「本当に、こんな素晴らしい体験は、自分ひとりだけではとてもじゃないけど抱えきれないし、自分だけのものにしておくのももったいない。みんなも来て一緒に味わおうよ」まさにこんな感じだ。


一応毎回海外旅行保険には加入しているとは言え、基本は何があっても自己責任だ。そして、英語はともかく普通話など何も話せない。ネットにも繋げられないため、翻訳ツールが使えるかどうかも不明だ。つまり、何かしらトラブルがあったらその時点でほぼ詰んでしまう。さらに、深セン自体治安も良くない。そんな状況下であれば入境してすぐに帰ってもおかしくはないのであるが、前述のように感動と興奮が、恐怖心を上回ってしまったおかげで不安などは微塵も感じず、時間の許す限り深セン市内を探索しまくっていったものだった。

 

こちらで紹介した歌詞以外も素晴らしいし、邦楽は恋愛ばかりを語るものばかりのなか、これほどまでに一人海外旅行者の心をくすぐるソングも他にない。少しでも興味を持った人は、今すぐにYouTubeで全話再生し、そして曲も是非ネットで購入し心行くまで楽しんでもらいたいものだと思う。