英語名のお話。 | ONCE IN A LIFETIME

ONCE IN A LIFETIME

フィリピン留学から人生が変わった一人の男のお話です。

日本人が理解しがたい海外の慣習として、香港や台湾、そして世界中の華僑らが、本来の中国語名の他に、それとは全く関係ないアルファベットのニックネーム、いわば英語名を付ける事が挙げられるのではないかと思う。実際、私自身もかつては、何故見た目は完璧な東洋人なのに、ジャッキーやらアグネス、そしてビビアンなどのカタカナの名前を名乗っているのか不思議で仕方がなかったし、当然Googleなどと言う便利なものもなかったので、それはそれはずっと謎のままだった。

 

ブルース・リーに憧れ始めた当時、生前日本人に馴染みの深いBruceと言う英語名、そして現地の中国語名の芸名である李小龍と言う名前の二つを名乗っていた事を知ってから、なんとなくではあるが香港人はそれぞれ別の名前を持っている事を理解し始めていったものの、まだまだ歴史にも疎い自分はまだ英語名を名乗る理由が理解出来なかった。さらには李小龍と言う名前の読み方も、文献によってリーシャオロン、もしくはレイ・シュウロンなど二通りの発音があったりもして、ますます混乱に拍車がかかっていったものだった。

 

インターネット時代になり、長年英国の植民地であった香港は、英語の授業でネイティブの先生が呼びやすいように、勝手に英語名を付けられる、と言う事情をようやく知る事となったのだが、それでもまだ何故そうしなければならないのか、と言う事がどうしても理解は出来なかった。

 

それをようやく自身の肌で実感する事になったのが、2010年の3ヵ月に渡るフィリピン留学だ。その時点ですでにオンライン英会話を1年以上続けていたが、そのまま本名を載せていたので、先生方も先頭2文字で略す感じで名前を呼んでくれた。しかし、このままではおそらく他の生徒と被る可能性が大であろう、と感じたのと、ひねくれものの私はいっその事香港人みたいに英語名が欲しい、と言う事になり、私の好きな周星馳の英語名であるStephenを名乗ろうと思っていた。

 

いざ現地でオリエンが始まると、韓国人のほとんどが英語名を名乗っていた。その後、何人かの台湾人とも会ったが、こちらも全員が英語名を使用していた。まだ他国への知識が乏しかった私は、かつての野球選手や、1990年代以降では最も有名な台湾人であったビビアン・スーなどの名前を出して会話を繋げていったのだが、現地では英語名は浸透していないので、中国語名を使って説明しなければならなかったのだ。

 

そして、とうとうここで気付いたのである。つまり、中国語、特に普通話の発音は、非ネイティブにとってはあまりにも難しい事。日本であれば、日本式の発音で通す事も出来るであろうが、それでも簡潔な英語名を名乗ってくれているの方が、こちらとしては遥かに発音しやすいし、助かる。つまり、そこで初めて英語名とは自身のためではなく、相手の事を考えて名乗るものである、と言う事に気付いたのだ。

 

前述の通り、学校においては日本人を除くほぼ全員が英語名を名乗っていたのであるが、その後頻繁に香港を訪れるようになっていくと、全員が全員そうでない事も知った。しかし、日本人であれば豊富な苗字と言う事もあり、普通にそれプラスさん付けで呼べばいいのであるが、当然中華系は苗字の数が少ないため、必然的に下の名前で呼ぶ事になる。しかし、日本人にとって、初対面の人をいきなり下の名前で呼ぶ、と言うのは抵抗があるものだし、さらには発音も難しい。よって、そういう人に会う度に、「なんで英語名を持っていないの?持っていてくれよ」と思う羽目になっていったのだ。

 

最近、非英語圏の同僚が増えてきたのであるが、現地の読みをカタカナにしただけの彼らの名前は中国語以上に発音しづらく、呼びづらい。その度に、今でも英語が話せなくてもいいから、何か英語風の呼びやすいニックネームをつけてくれ、と思わずにはいられないのだ。