無数の雑居ビルが乱立する、世界で最も人口密度かつホテル代の高い香港。その中でも最も有名な雑居ビルのひとつが、尖沙咀駅の真上にドーンと構える重慶大厦だろう。中華系が95パーセントを占める香港にあって、ビル内のほとんどの住人が中東系という異様な雰囲気であり、おおよそ普通の日本人であればメインとなる両替商・ゲストハウス側のエントランスにはほぼ近寄る事すらないだろう。
しかし、逆にツアーとは無縁の個人旅行主義者にとっては絶対的な知名度を誇る場所でもあり、一度その魅力に取りつかれると足を運ばずにはいられない場所でもある。何故か。まず言えるのは、香港のホテル代はとてつもなく高いという事だ。東京や台北で5000円程度で泊まれるレベルであっても、香港であればまず間違いなく1万円はする。ツアーに申し込めば飛行機代もろとも、多少安くはされるのだろうが、それでも少しでも価格を渋れば、都市部とは大きく離れた新界辺りのホテルになるだろう。香港の観光地は九龍と香港島に集中しているので、ビクトリアピークなどを頭に入れるのであればそれは不便と言わざるを得ない。
1万円を百円ぐらいの感覚で使えるような金持ちならともかく、大多数の人間にとってはそうではない。元々高級ホテルに泊まるのが目的ならともかく、寝れれば良いという感覚であればとても1泊で1万五千円前後、というのはありえない話だ。そこで我々ならどうするか、と言う時に、真っ先に候補に上がるのがこの重慶大厦、と言う訳だ。
もちろん、ゲストハウスはここだけではなく、1ブロック北には美麗都大厦、Mirador Mansionも存在し、尖沙咀の他の地区や、旺角、そしてコーズウェイベイ辺りにも存在はする。しかし、前述のように観光資源の大半が尖沙咀や香港島に存在する香港、尖沙咀駅のほぼ真上に位置するこの重慶大厦の立地はまさにこの上なく最高である事が大きい。特に、夜景やスターフェリーを出来る限り長く堪能していたい場合は、ここか美麗都大厦に泊まる以外はない。
それでも、確かに雰囲気は異様なだけあって、近寄るだけでも怖いのに泊まるなんてあり得ない、なんて人も多いだろう。確かにカタコトで話しかけてくる客引き共はうざい事極まりないが、はっきりとNo thank youと言えばついてこなくなる。ディスカバーシムのおかげですっかり存在価値が消えたSIMカード屋も、無視すれば大丈夫。それさえ慣れれば、GFにはレストランは無理でも、コンセントの変換コネクタや、飲料水、洗濯屋やランドリーもあるので大体の事はここで賄える。特に、支払いはキャッシュのみだがジュース類はコンビニやスーパーと比べて格安なので、小銭があれば絶対にここで買ったほうが得だ。
そして、重慶と言えば忘れてはならないのが両替商だ。国際ATMも含め、手数料を含んだレートで言えば、ここで両替するのが間違いなく絶対にお得だ。自分は日本で万札を下ろして行くのが面倒なので、それを分かっていながらも結局空港のATMで香港ドルを下ろしてしまうが、重慶まで行く金だけあって日本円が数万あれば、絶対に重慶で両替する事をオススメする。ATMやクレカでの買い物だと、どうしてもビザのレートと手数料が加算され、実質レートよりも高くなってしまうが、重慶であればかなり実質レートに近く両替出来るので、宿が尖沙咀周辺であれば利用しない手はない。
そしてそして、メインとなるゲストハウスだが、これは各種サイトでスコアが8未満であればまず問題はない。当然、イコール人気も高まるので価格は上がってしまうが、安全とリスクと快適さを考えれば、多少割高でもそこを選択すべきだ。海外では「安くてもいいサービスを提供」と言う考えはなく、「安いんだからそれなりのサービスなのは当たり前」と言うのが常識なので、少しでも快適さを得たいのであれば絶対にケチらない事。価格が高い、安い理由は必ず存在するので、「サービスはタダ」と思い込んでいる世間知らずの日本人は、一度でもここに泊まって世界の常識を学ぶべきであろう。特に、常に客目線の偉そうな団塊などに対して思い知らせてやりたいものだ。
また、重慶大厦の名物のひとととして、やたらと遅くて並ぶエレベーターが挙げられる。特にゲストハウス数の多いAとBは顕著であり、いくらレビュースコアが良くてもこの2つは避けた方が良い。後発のゲストハウスは大体DかEに集中しているので、スコアと価格を吟味して大丈夫であればそちらを優先して予約していく。しかし、レセプションと実際の部屋の階数が違う、と言うのもザラなのが重慶大厦、ブロックまで違うと言うのは滅多にないが、それでも一度Aブロックの最上階付近に移動させられた事があるので、こればかりは泊まってみない限り分からない。
部屋はおおよそどこも似たような感じであるが、レビュースコアが高ければサービスや清潔さは最低限のクオリティが約束されており、スタッフも大概はフレンドリーでアメニティがなければ頼めば大抵はなんとかしてくれる。もちろん、会話は全て英語になるので、それに自信がないのであれば泊まる勇気があっても決してオススメはしない。万が一トラブルがあったら、普通の日本人の平均的英会話力を考慮した場合自己解決は困難だからだ。
以上、こんな感じであるが、最近はライバルの美麗都大厦にも結構質の良いゲストハウスが増えてきたため、別にエレベーターを我慢してまで重慶に泊まる必然性は薄れてきた。しかし、やはり重慶に泊まれば話のタネにはなるし、誰でも行ける香港にあってもこれに関しては一目置かれるとも思うから、勇気と英語力に自信があれば是非ひとりで泊まってみてください。