現金のいらない世界 | ONCE IN A LIFETIME

ONCE IN A LIFETIME

フィリピン留学から人生が変わった一人の男のお話です。

自分が初めてキャッシュレスの世界を本格的に体験した場所は、やはり香港だ。香港ではSuicaの登場より4年早い、1997年の時点でオクトパスカードが誕生しており、地下鉄やバスはもちろんの事、コンビニやファストフード、様々な場所においてペイメントが可能なため、チャージ料金さえ残っていれば、タクシーにでも乗らない限りキャッシュレスで十分生活が可能なレベルになっている。

 

もちろん、その存在は「地球の歩き方」にも大きく紹介されているので、初めての香港到着日に会った現地の香港人の方にお願いして、尖沙咀の駅で英語版のオクトパスカードをお金を渡して買ってもらった。もちろん、それ以降は現地人と同様、地下鉄もバスもコンビニも、そしてマクドナルドも全てオクトパスカードで支払いを済ませていったので、一瞬でかざし終えて支払いが終わるその利便性に一種の快感すら覚えていったものだった。

 

しかし、当然の事ながらそれは香港に居る時だけ。当時、日本のマックではすでにiDやEdy、そしてWaonなどの支払いには対応していたものの、正直それがどういうものなのか、どのようにしたら入手出来るかも良く分からなかったので、相変わらず現金決済が主流だった。クレジットカードも、Amazonや海外の航空券やホテルを予約する時に使うぐらいで、その他の日常生活において使う事はほぼ皆無だった。

 

一応、台湾でもEasy Cardなるカードを購入したものの、今ほど使える店も多くはなかったため、オクトパスカードほどの利便性は感じられなかった。よって、当時の自分がキャッシュレス社会を体験出来たのは香港のみであり、その利便性を味わう事も香港滞在のひとつの大きな理由とすらなっていたほどだったのだ。

 

2013年9月、ようやくマカオでの街歩きを実現した自分が、真っ先に向かった先は、世界貿易中心の1F、マカオパス販売所だ。一応ライトレールが建設中ではあるものの、今なお未完成つまり未だに軌道系交通機関はマカオに存在しないため、タクシー以外の交通手段と言えばバスに限られる。しかし、ご丁寧に車内に両替機がある国など日本だけ、つまり事前にコインを用意しておかないと詰む訳だが、それはマカオに着いたばかりの観光客にとっては容易ではない事。よって、バス利用はマカオパスありき、と言う事になる。

 

が、香港であれば空港で容易に購入出来るが、マカオの外港ターミナルではそのような場所は存在しないため、到着後すぐにバスに乗ると言うのはかなりのハードルだ。一応、ホテルの無料のシャトルバスやタクシーもあるが、数は多くないため常に長蛇の列、しかも後者はボッタクリでの被害が後を絶たないため、広東語が出来ない限りお勧めできない。

 

空港内にコンビニもないので、よって世界貿易中心まで行かざるを得ないのだが、徒歩だとそれなりに時間はかかる。しかし、これがないとどうしようもないので、仕方なくそこまで歩いていったものだったが、初めて歩くマカオの街並みはそれなりに感動し、またようやくひとりで来れた、と言う達成感もあったため、苦にはならなかった。そして、マカオパスさえあればこっちのもの、マカオのバスは極めて安いため、1日では絶対に使い切る事なく、つまりは乗り放題のような感覚すら覚えたから、ドラクエで言えば空飛ぶ乗り物を得たような気分だった。

 

ただ、コンビニでは問題もなく使えたものの、何故かマックでは現金のみでしかもクレカもNGだったため、現金を使わざるを得なかった。しかも、香港ドルで支払ってもマカオパタカが混ざる事もあるのだが、これをつかまされた時はガンだった。これはマカオ以外で使えないのはもちろんの事、両替も不可能なので、もう一度マカオに行かない限りただの紙クズかアルミとなってしまうのだ。しかも、香港のようにあちこちに両替商がある訳でもなく、空港でも長蛇の列な事が多いので、嫌でも使い切るしかなかった。マカオのマクドナルドは香港資本なので、売っているものやレイアウトは同じなのだが、同じように見えて利便性は天と地と言う、罠のような場所だった。

 

そしてそして、ここ数年で一気にキャッシュレス化が進んだ中国本土、今やアリペイやWeChatPayがないと何も買えないのでは、と旅行者を恐怖に陥れるほどの普及率を誇っているが、私が最後にシンセンに足を運んだ2014年ぐらいまではまだまだその兆候はなく、どこの店でも現金が主流だったので何も買えないと言う事はなかった。しかし、前述のように、露店はおろかホームレスへの募金までモバイルペイメントで支払い可能と言う現在、現地の決済手段が使えない外国人旅行者にとってはどうすれば良いのか、そこも未だ数多くのサイトがBANされているのと同様、我々にとっては頭の痛い問題だ。

 

そして2015年、ニューヨークシティ滞在を控えて、最も国際信用性が高いカードのひとつと言われる三井住友VISAカードを入手し、そこでようやく私もiD決済の手段を要した事となった。もちろん、アメリカはカード社会なる情報を得てのものだったが、デリやベンダー、ランドリーやそして個人の中華料理店など、思ったほど現金を使う機会が多く、また当然の事ながら、カードを使うとただでさえ円安だった当時がさらに円安、最高で130円近くまで行ってしまったため、現金は常に用意しておく必要があった。もちろん、国際キャッシュカードで引き出しても手数料が発生するが、幸い私のボスがランチ代やメトロカード代などを負担してくれていたため、常に財布には現金がある状態だったので、実際に引き出したのは5回もなかった。

 

そして3ヶ月の滞在を経て帰国、前述のよう、ようやくiDを入手した私は、そこからほとんどの支払いをiDで済ませるようになった。その後、ドコモユーザーである事からDカードのクレカも入手、ローソン、そして2017年3月よりマックでもDポイントが溜まる事をきっかけとして、支払いをそれに統一。そしてさらに半年後、iPhone8を購入しようやく念願のアップルペイが使えるようになり、モバイルSuicaもインストール、よって初の香港滞在から6年以上の月日を経て、ようやくここ日本でも、キャッシュレス社会を満喫出来るようになっていった。

 

あまりにも便利すぎるがゆえに、飲み物程度とは言え前よりかは購買頻度が高くなったかも、と言う感覚はあるのは否めない。しかし、デメリットと言えばそのぐらい、後はメリットしか感じられない。しかし、そこまで社会がキャッシュレス化の環境を整えつつあるのに、未だに多くの日本人には現金至上主義が根強く残っている。先進国では断トツのレベルらしいが、正直自分が享受したメリットを考えれば、何故そこまで拘るのかやはり理解に苦しむ面はある。理由としては、まず現金の信用性だ。海外では最高額紙幣と言うのは滅多に使われず、例えば香港でも未だに1000ドル紙幣は見かけた事がない。よって、事実上の最高額紙幣は500HKDであり、ATMでも1000HKDなら、必ず500HKDと100HKD札5枚と言う形で出てくる。米国もそう。一応100も50も使った事はあるものの、やはりこちらでも100USD引き出せば20USD札5枚が当たり前であり、ユニクロなどの大手でもない限り高額紙幣は露骨に嫌な顔され、それだけ使い勝手も悪いものだ。

 

しかし、日本では現金の信用性が非常に高く、少額決済でも1万円なんてザラ。偽札を掴まされると言う危険性がある海外と比べた場合、まず何と言ってもそれが大きな違いだ。その他の理由としては、すでにネット上で様々な議論が行われているのでここで触れる必要はないが、個人的な意見としてはおおむね識者たちの考えに完全同意だ。確かにクレカには手数料が発生し、それはお店が支払う事になってはいるが、もし支払いがそれのみとなれば、現金を管理する人件費やコスト、さらには店員による不正行為も全て防ぐ事が可能となるため、そのメリットは計り知れない。

 

しかし、多くの日本人の現状はこれまで述べた通りのまま。果たして、日本が北欧並のキャッシュレス社会になる日は来るのでしょうか。