初代ストリートファイターが発売されたのが1987年の初夏、と言う事は正確には昨年2017年で30周年となる。それを記念してか、今年2018年5月に初代からの全てのシリーズを収録した記念ソフトが、現行3ハードにて発売されると言う。
多くの人がご存知であるように、現在ストIIシリーズの版権はカプコンUSAにある、イコール基本的に全てが国際英語版がベースとされるため、日本版はあくまでローカルセール扱いであり、ストIIHDリミックスの例からも、日本版未発売となるケースもままある。もちろん、言うまでもなくストIIは日本人の手によって開発されたものであるため、納得出来ない部分も多いのだが大人の事情として考えればやむを得ない。
幸い、昨今の多くのゲームはハードの言語使用による両対応となっており、例えばアジア盤のディスクを購入しても、日本のハードで動かせばそのまま日本語版として遊べるため、さしたる問題はないのだけれども、当然それ以前に発売された作品はそうとも行かないため、と言う訳で案の定この30周年ソフトは英語バージョンのみの発売となるらしい。
もちろん、ゲーム内容は変わらないし、RPGなどと比べたら英語による弊害もないため、プレイに支障を与えるレベルではないのかも知れないが、まあそれでも前述のように日本人の手により日本語版がオリジナルとして開発されたゲームが、ここ本場日本において日本語で遊べない、と言うのは納得出来ないものだ。
それでも、このゲームが発売される意義は大きい。と言うのも、この2018年まで実に27年以上、爆発的ブームを巻き起こしたストリートファイターIIとそのニューバージョン2つ、そしてスーパー名義の2作において、一度もたりとも「アーケードそのままの完全移植」がなされた試しがなかったのだ。
最初の移植バージョンは、もちろん1992年6月に発売されたスーパーファミコン版だ。当時ヒット作と言えばマリオかRPGか、と言った中で、初めてそれ以外のジャンルで爆発的ヒットを飛ばしたのがこのSFC版であるが、もちろん当時の家庭用機はアーケードとは圧倒的なハード力の差があったため、素晴らしい移植ながらもちろんアーケードそのままとはいかなかった。もちろん、我々ユーザーにとっては当たり前だったため、ほとんどのゲーマーにとっては「よくぞSFC、しかも3分の1の容量でここまで」と言う思いであり、とにかく「家でストIIが遊べる」と言う事実だけでも驚愕だったのだから、不満を抱く人は少なかった。
そして翌年以降は、ライバル機であったPCエンジンとメガドライブにも「ダッシュ」が発売され、後者にはエキサイトと称したターボモードも収録、もちろんSFCにも移植されるなど、当時メインの3機種にも出揃った。この中で最も出来栄えが良かったのはメガドライブであり、色数こそ劣るものの、FM音源を駆使したBGMや、そして唯一同時押しが同じタイミングで可能だった事など、ユーザーの評価は高かった。
翌年以降はPCエンジン以外でスーパーの移植、当時最もアーケードに近い機種であったX68000にはダッシュ、そして最新のXが3DOなど、次々と移植されていったが、言うまでもなく完全移植は無理、後者は極めてアーケードに近かったがいかんせん普及台数がコンシューマーのそれではなく、実際にプレイ出来た幸運な人たちはかなり少なかったと思われる。
そして、94年の年末以降、次世代機と呼ばれるPS、SSの時代へと突入していく。これにより、容量とスプライトの問題がほぼ解決され、翌年のナムコミュージアム以降、80年代以降のアーケードゲームが極めてオリジナルに近い状態で移植されていくいわゆるレトロゲーム復刻ブームが到来していったが、すでに上記のようストIIに関しては様々なハードに移植されすぎ、飽和状態だった事からも、移植は最新作のZERO以降のみが中心であった。
もちろん、それらの移植レベルに関しては極めて高く、読み込みさえ我慢出来れば極めてアーケード版に近い環境でプレイする事ができ、改めて次世代機の実力を見せつけられたものだった。そして97年9月、スーパーとXの移植、そして翌年以降遅まきながらカプコンも「カプコンジェネレーション」と称したアーケードの名作シリーズをリリース開始、その最終作である5作目が「格闘家たち」と称した初代ストII3部作の移植だった。
これにより、一応名義上はXまでの5作品が全て同一ハードでプレイ出来る環境にはなったものの、エミュレータではなくあくまで「移植」であるため、極めてアーケードに近い出来とは言えそれでも完璧にそのものではなかった。それはスコアなどの画面構成の違いであったり、ザンギエフの裏技による小足払い連打が不可能、その他バグの削除、などであったとは言え、正直それらがなくともPS、SSではアーケードそのままは不可能だった。
何故か。カプコンのCPシステムは384x224と言う、極めて特殊な解像度を使用しており、そもそも内部的にその解像度を持たないPSやSSではその時点で完璧な再現は不可能なのだ。HD解像度を持たない当時のハードでは、当然高解像度での表示も不可能であり、そのおかげでどうしても画面比率が狂ってしまう。これではどうやっても違和感は拭えない。
その後、PS2のカプコンクラシックに他作品共々収録されていくが、PS2パワーで画面比率が自在に変更出来るようになったものの、ゲーム内容自体はPS版そのままなため、ここでも「完全」とは行かなかった。唯一、とうとう家庭用初の完全移植となったファイナルファイトはエミュレータベースであり、ほぼアーケードそのままと言っていいが、エミュベースのためか若干の遅延が感じられるのが残念だった。
その他のZEROやストIIIシリーズ、そしてヴァンパイアなどがまとめてPS2、そしてその一部がXbox360以降で主流になったダウンロードにより発売されていくが、それらのほとんどはPSの移植ではなくエミュベースなため、これらもアーケードそのものと言って良かった。同時期にはネオジオの格闘ゲームも次々に発売され、こちらもほぼオリジナルそのまま、さらにアレンジBGMも選択出来るものも多く、これらに関しては現行のアーケードアーカイブスなどよりも勝っている点だ。
しかし、それに対して初代のストII5部作の存在はほぼ忘れられかけていた。Xのみ、DCで当時最高の出来であった移植版や、バージョンアップ版とも言えるハイパーが各ハードで発売されていき、よってXに関してはそれによって補完されていきはしたが、それっきり。一応、海外版のXBLAにおいて、ストIIダッシュターボが配信されていったりもしたが、こちらも残念ながらスコア表示が異なるPSベースとなっていた。
そしてPS4の時代。アーケードアーカイブスにより、これも同様完璧な移植が存在しなかった、初期のグラディウスシリーズが遂にアーケードそのものの姿で復刻。そしてそして、HDモニターが当たり前の時代になったからこそ実現した、初代「ダライアス」までリリースされるなど、80年代ゲーマーにとっては歓喜の時代が訪れたが、これもやはり大人の事情か、カプコンのゲームは一切ラインナップされず。つまり、これだけ有名、一時代を築き上げた記録的なヒットゲームでありながら、実に30年も近い間、初代ストIIを家庭用ハード上でプレイする事は不可能な事であったのだ。
と言う訳で、英語バージョンオンリーと言うのは痛恨の極みとは言え、遂にアーケードそのもののストIIが最新のハードでプレイ出来る、と言う意味で、このアニバーサリーバージョンの発売意義と言うのはいかに大きな事かが分かってもらえたかと思う。また、初代ストリートファイターにおいては、1988年に初代PCエンジンンのCDROMユニットの同時発売ソフトとして「ファイティングストリート」名義で発売されたのが日本の家庭用としては唯一、その移植版が配信されたWiiを除けば、こちらも家庭用としてはそれ以来となる。
初代ストリートファイターは英語版しか存在していない、つまり日本版も英語オンリーなため、これに関してはバージョンの心配はない。しかし、初代はあの圧力センサーありきのゲームなため、特に昇龍拳の出辛いテーブル版でプレイしても当時の半分の面白みも感じないとは思うけども。まあいずれにしても、初代ストIIのみならず、シリーズのほぼ全てを網羅したこの作品は我々にとって待ちに待った製品と言える。