古くから東アジアにおける交通の要所、そして西洋と東洋の出会いの場所でもある香港、それこそ狭い街中に無数のゲストハウスなるものが存在する。しかし、おそらく、その中でも圧倒的な存在感を誇り、世界中の格安旅行者の目当ての場所となるのが重慶大廈(Chungking Mansions)だ。
詳細はぐぐれば色々出てくるので、これ以上は割愛するが、私が最初に興味を抱いたのは、2回目の旅行を予定していた2011年の8月頃だった。当時は超円高時代だったとは言え、それでもほとんどのホテルが軒並み1万円超えはしていた。1週間も滞在すればえらいお金となってしまう、でも大好きな香港、せっかくだからそのぐらいは滞在はしていきたい。となると事実上選択肢は重慶以外は考えられなかった。
幸い、それ専門の日本語サイトも存在し、そこから色々情報を得てはいったものの、それでも今と比較した場合かなり情報は限られていた。そして、かつてはかなり治安が悪かった事や、ボッタクリの宿、住民のほとんどは中近東・インド系などChaoticな環境と、泊まる所か足を踏み入れる事にも躊躇する情報も多かった。よって、怖いもの見たさからくる興味こそあれ、正直ここだけは避けたい、と言う気持ちも強かった。
当然、他の選択肢も探したのだけれども、となるとすぐ横のMirador Manshionぐらいしか選択肢は浮かばない。しかも、こちらも有名どころとは言え、情報量では劣る。そこでさえそうなのだから、他のマイナーゲストハウスの情報なんて皆無に等しかった。さらに、当時はiPadも持っておらず、英語で情報を得ると言う習慣も英語力もなかったため、必然的に重慶となってしまう。
結果、重慶に泊まるつもりで行ったのだけれども、「重慶はどこかの部屋は必ず開いている」と言う情報を真に受けてしまい、何と予約なしで向かってしまった。一応有名どころの「Chungking House」へと向かったのだけれども、あいにく部屋は満杯。しかも、バス停降りた直後から客引きの嵐、部屋がなかった絶望感もあり、「こんな所には居たくない!」とすぐに飛び出してしまった。
幸い、昼間の便だったためまだ外は明るく、Mirador前でうろうろしている所に声をかけられ、そこで付いていったゲストハウスに7泊する事になり九死に一生を得たのだけれども、台湾ではそこそこのホテルに泊まれたのに、香港では狭くしかも二人とは言えシェアルーム、せっかくの誕生日なのになんでこんな所にいるんだろう、と悲しくなってしまったものだった。幸い、その夜は現地の友人が広東レストランで祝福してくれ、一生レベルの思い出を作る事は出来たのだから結果オー来だったんだけども。
その後も数回香港へ渡航したのだけれども、なかなか重慶に泊まる、と言う勇気は出なかった。しかし、日本語サイトを通しての予約だと、ゲストハウスレベルでもどうしても割高となってしまう。1週間前後となると、やはり重慶しかなく、ようやくその時が訪れたのが2013年1月だった。
その頃になると、重慶の予約事情も大分変わっていた。まずは、何といってもBooking.comやAgodaなどの、多言語対応の世界的ホテル予約サイトの普及であり、当然重慶の多くの宿も登録済みとなっていた。これはとてつもなく大きな進化だ。予約のしやすさはもちろんだが、いずれのサイトも宿泊者からのレビューとスコアが付けられ、嘘偽りのない評価がされる。もちろんアマゾンのレビューとは異なり、そこから予約した宿泊者以外からの評価は不可能なため、サクラの存在もほぼないだろう。
当然、お客は必然的にスコアの高い部屋を選ぶようになるし、またハウス側も評価と客の確保のため、自然とサービスや清潔感も向上する。サイトにはユーザーからの画像も提供されるため、これまで極めて得るのが難しかった前情報も、たやすく手に入れる事が出来る。まさにいいことずくめであり、このおかげで大分重慶の難易度も下がったと思う。
しかし、そうはいっても周辺の環境はそのままだ。相変わらずエレベーターも小さく、乗るまでには数分、最悪十分単位の待ちは当たり前。初見にはかなり異様なグランドフロアの雰囲気、しつこい客引き。セキュリティカメラが無数に存在し、ガードも24時間監視体制となっているため、治安の面ではおおよそ心配する事はないのだけれど、それでも最初はある程度の勇気と英語力は必要だろう。
その2013年1月以降、香港滞在時の宿は全て重慶内の宿だ。さすがの私もエレベーターの順番待ちや、ボッタクリの連中などにうんざりする事も多いため、他の宿にも泊まってみたい、と思う事はあるのだが、やはり価格や立地を考慮した場合、重慶以外の選択肢はなかなかないのが実情だ。特に、ビクトリア・ハーバーの夜景が素晴らしすぎるため、旅行者は必然的に夜遅くまでその辺りにいがちになる。そこから徒歩で帰れる、食事にも困らない、と言うと選択肢としてまずあがるのは重慶になるだろうから。