思い込みシェフ 1 | ライフ イズ ビューティフル 8

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私は20歳の頃、一流の料理人を目指し、料亭で働いていた。

というと、カッコよく聞こえるが、料亭とは、ほど遠い・・・

喫茶店の少し、上の類の店である。


料理の良し悪しとは、店の大きさで決まるものではない。

だから、そんな店でも私は料理人としてやりがいがあった。


その店は小さな店であったため、

オーナーは、カウンタ-のような場所でコーヒーなどの飲み物を担当し、

そして厨房を支配していたのは、私であった。

いわゆる食事、料理を担当していたのは私だ。


それと、もうひとり、私と一緒に厨房で料理を作っている男がいた。

私のアシスタント的存在である。


思い込みシェフ。

その男の性格なのであろう・・・とても思い込みが激しい人物であった。


ある日のこと。


その日は、新しいアルバイトの女の子がくるという話をオーナーから聞いた。

その女の子は、大学生。

オーナー曰く、その女の子にはホールで接客、

いわゆるウェイトレスをしてもらうとのことであった。


その話を聞いた、思い込みシェフは、何やらソワソワしていた。

私は、思い込みシェフに聞いた。


「何をソワソワしているのだ?」


「別に」


なんともそっけない。


そうこうしているうちに、新人の女の子が出勤してきた。

とてもカワイイ子であった。

その女の子が緊張しているかのように見えた私は、声をかけてあげようと思った。


「どこの大学生?」


しかし、私を差し置いて、なんと先に思い込みシェフが声をかけたのである!

私は出鼻をくじかれた・・・。


「まぁいい・・・」


心の中で私はそう思いながら、その女の子の顔を見た。

すると、なんとなく緊張が和らいでるように見えた。


「ちっ!」 


私は、思い込みシェフから遅れをとったような気がした・・・。

思い込みシェフは私のアシスタントである。

アシスタントの分際で、私より先に女の子に近づくとはなんて奴だ!

そう思うと同時に、私はなんて小っちゃい男なんだと自己嫌悪した。


女の子の名前は「マユミちゃん」という。

マユミちゃんは、初日からテキパキと仕事をこなした。

とても仕事が出来る、頭の回転のいい、お嬢さんであった。


お店のお昼、ランチタイムは気の狂うような忙しさである。


私は、マユミちゃんからとおされるオーダーを調理していく。

ただ、この日ばかりは、坦々とこなせない。


なんか?おかしい・・・と思いつつ、ふと横を見ると、

なんと、思い込みシェフは上の空、

私のサポートをまったくしていなかったのだ!


「なにしてんねん!」


思い込みシェフは明らかに考えごとをしていた。

そして、何やらニヤついている。


「はよ、サラダを盛りつけんかい!」


厨房の中で、私は思い込みシェフに怒鳴った!

すると何を思ったか、思い込みシェフは私にささやいたのである。


「チーフ」


私は、この店ではチーフと呼ばれている。


「なんや?はよ、サラダを盛りつけろ!」


「マユミちゃん」


「は?」


「マユミちゃんは、僕のことが好きなんだと思う」


お昼のランチタイムは気の狂うような忙しさである。



2へつづく