私は20歳の頃、一流の料理人を目指し、料亭で働いていた。
というと、カッコよく聞こえるが、料亭とは、ほど遠い・・・
喫茶店の少し、上の類の店である。
料理の良し悪しとは、店の大きさで決まるものではない。
だから、そんな店でも私は料理人としてやりがいがあった。
その店は小さな店であったため、
オーナーは、カウンタ-のような場所でコーヒーなどの飲み物を担当し、
そして厨房を支配していたのは、私であった。
いわゆる食事、料理を担当していたのは私だ。
それと、もうひとり、私と一緒に厨房で料理を作っている男がいた。
私のアシスタント的存在である。
思い込みシェフ。
その男の性格なのであろう・・・とても思い込みが激しい人物であった。
ある日のこと。
その日は、新しいアルバイトの女の子がくるという話をオーナーから聞いた。
その女の子は、大学生。
オーナー曰く、その女の子にはホールで接客、
いわゆるウェイトレスをしてもらうとのことであった。
その話を聞いた、思い込みシェフは、何やらソワソワしていた。
私は、思い込みシェフに聞いた。
「何をソワソワしているのだ?」
「別に」
なんともそっけない。
そうこうしているうちに、新人の女の子が出勤してきた。
とてもカワイイ子であった。
その女の子が緊張しているかのように見えた私は、声をかけてあげようと思った。
「どこの大学生?」
しかし、私を差し置いて、なんと先に思い込みシェフが声をかけたのである!
私は出鼻をくじかれた・・・。
「まぁいい・・・」
心の中で私はそう思いながら、その女の子の顔を見た。
すると、なんとなく緊張が和らいでるように見えた。
「ちっ!」
私は、思い込みシェフから遅れをとったような気がした・・・。
思い込みシェフは私のアシスタントである。
アシスタントの分際で、私より先に女の子に近づくとはなんて奴だ!
そう思うと同時に、私はなんて小っちゃい男なんだと自己嫌悪した。
女の子の名前は「マユミちゃん」という。
マユミちゃんは、初日からテキパキと仕事をこなした。
とても仕事が出来る、頭の回転のいい、お嬢さんであった。
お店のお昼、ランチタイムは気の狂うような忙しさである。
私は、マユミちゃんからとおされるオーダーを調理していく。
ただ、この日ばかりは、坦々とこなせない。
なんか?おかしい・・・と思いつつ、ふと横を見ると、
なんと、思い込みシェフは上の空、
私のサポートをまったくしていなかったのだ!
「なにしてんねん!」
思い込みシェフは明らかに考えごとをしていた。
そして、何やらニヤついている。
「はよ、サラダを盛りつけんかい!」
厨房の中で、私は思い込みシェフに怒鳴った!
すると何を思ったか、思い込みシェフは私にささやいたのである。
「チーフ」
私は、この店ではチーフと呼ばれている。
「なんや?はよ、サラダを盛りつけろ!」
「マユミちゃん」
「は?」
「マユミちゃんは、僕のことが好きなんだと思う」
お昼のランチタイムは気の狂うような忙しさである。
2へつづく