西光義敞2005年『育ち合う人間関係』本願寺出版社pp.260-262

自己成長、自己実現などのカウンセリングや心理療法の目標を示す概念は、いずれも単純肯定された生の枠内での連続概念にとどまっている。生は死という否定的契機をふくむことによって生であるというのが実相であるから、死を見ようとしない、あるいは死を掩った生の枠内での成長や発達や幸福や健康は、きびしく言えば、人間の根源的な幻想であり、迷妄である。その迷妄に目覚めるところまで視野に入れたカウンセリングや心理療法はまだないように思われる。(中略)これにたいして、仏教・真宗は生を生死としてとらえ、自覚による生死超越の次元、すなわち仏の次元、出世間の次元を明らかに見とどけ、しかも、世間と出世間、人間と仏の関係を正しくとらえている。カウンセリングに即して言えば、「真宗カウンセリング」は構造的には、カウンセラー対クライエントという人と人との関係とともに人間の次元を超えて人間を支える仏と人との関係という二重の関係のうえに立っている。実践的には対人的心理的配慮と共に、「人・仏」関係にもとづく霊性的配慮という二重の配慮にもとづいている。そこに「真宗カウンセリング」の独自性がある。「自己一致」や「受容」や「共感」というロジャーズが解明した援助的人間関係を超えた深い次元から根拠づけるとともに、矛盾にみちた人間性からあらわれる複雑な人間関係問題に挑戦していく力を、親鸞の深い人間洞察からひき出したい。そこに「真宗カウンセリング」の現代的における独自の使命がある。