食事も終わりに近づいた頃、私も準備をして、保安検査を受けに行く。
旅客係の女性に先導され、保安検査を通るのだが、私には搭乗券は無い。
客席に座るのではないので当然だが、その代わりに、『操縦席立入許可証』を保安検査員に見せて、ゲートを通過する。
待合室にいるお客様の視線が痛い。『何や?あの人は』と言わんばかりである。
無理もない、パイロットの制服も着ていない人が、搭乗券も無く保安検査を通り、また事務所に戻って行くので不思議な光景だろう。
事務所に戻ると、Copさんが、喫煙室でタバコを吸っていた。時間つぶしをしてくれていたのだろう。私が戻ると、Capが『じゃあ行きましょうか』と言って、先頭で事務所を出ていった。
後を追って、私が「行ってきます!」と言って、Copさんに続いて事務所を後にした。
羽田への帰りの、PF(操縦を担当するパイロット)は、Capなので、そのまま飛行機の外部点検を始めたが、Copさんと、私はPBBの横の階段を登り、機内に入った。
機内には、食事を終えたCAさん達が雑談していたが、知らないオッサンが入って来たのを目にして、一瞬にして静かになった。
それを見たCopさんが、『今日、飛行慣熟訓練をされる、松本さんです』と、私を紹介してくれたにで、「松本です。宜しくお願いします」と言うと、いっぺんに緊張がほぐれ『宜しくお願いします』と挨拶をしてくれた。
Copさんと私は、準備の為に一度コックピットに入り、準備を終えて客室に戻ると、丁度Capが、外部点検から戻ってきた。
整備さんと話をしているが、MEL Continueの件を確認しただけで、特に問題はなさそうだ。
Capが機内に入って来たタイミングで、Copさん、私、CAさん達も、前方に集まった。ブリーフィングが行われるからだ。
そこでまた、Capから紹介を受け、挨拶をした後、ブリーフィングが始まった。
『41000で帰ります。気流は問題ないと思いますが、もし、ベルトサインが点灯したら、直ぐに着席してください。』とCapのブリーフィングが終わると、チーパーさん
(チーフパーサーさん)から、特殊旅客の有無の連絡があり、それが終わると、ブリーフィングは終わりだ。
ボーディングまで少し時間があるので、しばし雑談をしていると、ボーディングの時間が近づいてきた。
チーパーさんが、飲み物のオーダーを聞いてきた。
Capはお茶だというので、その後に、他の物は頼みにくいので、私もCopさんもお茶をオーダーしてコックピットに戻る。
ほどなくして、蓋がついたカップにストローという完全防備のお茶が運ばれてきた。計器の上にこぼさない様にしてくれているのだ。
チーパーさんが出ていくと、コックピットのドアを閉め、ロックをかける。
今日乗る、B737-800のコックピットは異常に狭い。ドアを閉めなければ、JUMPシートは出せない。
ドアが閉まったので、やっとシートをセットできるようになった。
初めのうちは、Copさんにセットしてもらっていたが、回数を重ねているので、勝手にセットして、ATC用のイヤホンもセットして、音量もセットする。
ショルダーハーネス以外のシートベルトを締め座席の位置も調節して、持ってきたフライトプランと自作のシートを取り出して、後はCapのブリーフィングを待つ。
Capのブリーフィングが始まった『RWYは25、HIMESHIMA-1 Departureで41000、リストリクションは、無し。パワーは、22Kでフラップは5で行きます・・・』Copさんは返事をし、私は自作のシートにメモを取る。
日頃から多少勉強していないと、ここまででパニックになる。
私も最初は、チンプンカンプンで汗をかいたので、その後多少勉強し、今ではこの位は理解出来るようになった。しかし、余裕はない。
この頃、ボーディングが始まり、コックピットの左横の窓からお客様の姿が見える。中には手を振ったり、写真を撮っている人もいる。
お客様から見れば、私もクルーの一人なので、手を振り返す事もある。
コックピットのチェックも終わり、後は5分前コールを待つだけだ。
実はこの5分前コールは、私達が全ての工程が順調に進み、もうすぐブロックアウトできますよ、と言う意味でコールするものなので、きっちりと5分前と言う意味ではないが、これを聞いてパイロットは、エンジンスタート準備OKを管制に伝えるので、経験も必要なのだ。
*他にも、『元飛行機関係者のしょうもない話』を書いていますので、よろしければご覧下さい。(station-control)です。